やばいの滅ぼせるほどの兵器! え 護身用だよ~?
「では、ダンジョンへ向かうのは一週間後とする」
国王の言葉に。
リゼットが頷く。
「分かったわ」
「その間に、必要な準備を整えてほしい」
「それならちょうどいいわね」
リゼットはマドカを見る。
「装備にも慣れてもらわないと」
「うん!」
マドカは新しい魔剣を掲げる。
「これ、めちゃくちゃ気に入った!」
「振り回しすぎないようにね」
「はーい!」
ニコラはというと。
「一週間か~」
何やら考え込んでいる。
「……何か作る気ね?」
「うん~」
「何を?」
「ダンジョン用の装備~」
「普通の装備?」
「普通の……」
ニコラが少し考える。
「……たぶん~」
「その『たぶん』が怖いのよ」
「大丈夫だよ~」
「その言葉を信用できたこと、一度もないんだけど」
カトリーヌがぼそりと呟いた。
「カトリーヌ、いたの?」
「いたわよ……」
少し疲れた顔で答える。
「最初から」
「気づかなかった~」
「でしょうね……」
国王が苦笑する。
「その間は王都にいるのか?」
「ええ」
リゼットが答える。
「ニコラの家を拠点にするわ」
「ならば」
エレノアが口を開いた。
「私もそこに滞在してよろしいでしょうか?」
「え?」
マドカが振り返る。
「エレノアも?」
「はい」
「王女様が?」
「一週間だけですが」
エレノアが微笑む。
「今回の依頼では、私も同行する予定です」
「それなら、一緒に準備したほうがいいわね」
リゼットが頷く。
「ええ」
こうして。
エレノアは一週間。
ニコラの家で暮らすことになった。
◆
「…………」
ニコラの家。
エレノアは玄関に立っていた。
「ここが……」
「うん~」
「ニコラさんのお宅……」
「そう~」
「…………」
エレノアが中を見る。
普通の家だった。
ただし。
廊下の片側には魔道具。
反対側にも魔道具。
壁には謎の設計図。
床には工具。
「……」
「踏まないようにね~」
「はい……」
エレノアが慎重に歩く。
「こちらが客室よ」
リゼットが案内する。
「ありがとうございます」
「食事は適当に作るわ」
「私も手伝います」
「王女に料理をさせるわけには――」
「料理くらいできますよ?」
「そう?」
「はい」
マドカが手を上げる。
「エレノア、料理できるんだ!」
「簡単なものなら」
「じゃあ一緒に作ろう!」
「はい」
カトリーヌが周囲を見回す。
「……私は、どこで寝ればいいの?」
「カトリーヌも泊まるの?」
マドカが聞く。
「ニコラに呼ばれたのよ」
「何するの?」
「それがまだ聞かされてないの」
「……大丈夫?」
「私もそう思ってる」
こうして。
意外にも穏やかな共同生活が始まった。
◆
翌朝。
「……何の音?」
エレノアが目を覚ます。
ドゴォン!!
「きゃっ!?」
家が揺れた。
「な、何!?」
慌てて部屋を出る。
「おはよ~」
廊下にニコラがいた。
「今の音は……?」
「試作品~」
「…………」
「ちょっと威力を確認してた~」
「朝から?」
「朝だから~」
「理由になってませんよ!?」
庭を見る。
そこには。
巨大な砲身。
「…………」
「…………」
「…………」
「ニコラさん」
「なに~?」
「あれは?」
「魔導砲~」
「…………」
「ダンジョンの硬い魔物用~」
「……兵器ですよね?」
「装備だよ~」
「どう見ても兵器です!」
エレノアの後ろから。
「……でしょうね」
カトリーヌが現れた。
「カトリーヌさん……」
「朝からあれを見せられると、もう何も驚けなくなるわね」
「慣れてるんですか?」
「慣れたくはなかったんだけど……」
カトリーヌは小さくため息をついた。
◆
その日の昼。
「ニコラ!」
カトリーヌが庭へ出る。
「お~、カトリーヌ~」
「呼び出されたから来たけど……」
庭を見る。
巨大な砲。
大量の魔石。
謎の機械。
「……何をしているの?」
「ダンジョン攻略準備~」
「これは?」
「魔導砲~」
「これは?」
「自動追尾式魔導弾~」
「これは?」
「携帯型結界発生装置~」
「…………」
カトリーヌはしばらく黙っていた。
「……一応、確認していい?」
「なに~?」
「これ、全部必要なの?」
「たぶん~」
「その『たぶん』をやめてほしいんだけど……」
「でも、ダンジョンの奥って何がいるか分からないからね~」
「それは分かるけど」
カトリーヌは額を押さえる。
「どうして護身用の装備から、こんな話になるのよ……」
「火力は大事だよ~」
「分かってるわよ」
疲れたように息を吐く。
「分かってるから余計に困るの」
エレノアも驚く。
「これ、本当に全部ニコラさんが?」
「設計はね~」
「製作は?」
「カトリーヌにお願いしようかな~って」
「……私?」
「うん~」
「聞いてないんだけど」
「今言った~」
「そういう問題じゃないでしょう……」
マドカが横で笑っている。
「カトリーヌ、頑張って!」
「……ありがとう、マドカ」
「応援してる!」
「その気持ちだけ受け取っておくわ」
リゼットは紅茶を飲みながら。
「ほどほどにね」
「リゼット」
「何?」
「止めないの?」
「ニコラがこうなるのはいつものことでしょう?」
「そうだけど……」
カトリーヌはニコラを見る。
「止めても、どうせ作るでしょう?」
「うん~」
「……ほら」
「納得しないでください!」
「してないわよ」
カトリーヌは疲れた顔で作業台へ向かった。
「……もう、付き合うしかないんでしょうね」
◆
その日の夕方。
カトリーヌは作業台に向かっていた。
「……ここをこうして」
ニコラが横から指示する。
「魔力伝導率は?」
「この素材なら十分」
「じゃあ出力を上げよう~」
「どこまで?」
「限界まで~」
「……またそれ?」
「いいじゃん~」
「よくないわよ……」
カトリーヌは小さく息を吐きながら、設計図を確認する。
「この出力なら、結界側も強化しないと危ないわね」
「そうだね~」
「じゃあ、こっちも改造する」
「お願い~」
「……最初から全部考えておいてほしいんだけど」
「作りながら考えるほうが楽しいよ~」
「あなたはね……」
エレノアはその様子を眺める。
「カトリーヌさん」
「何?」
「これ……本当にダンジョン攻略用なんですよね?」
「私も途中から分からなくなってきたわ」
「…………」
「最初は護身用の魔道具だったのよ」
「そうなんですか?」
「ええ」
カトリーヌが遠い目をする。
「でもニコラが」
『もうちょっと威力あってもいいね~』
「って言って」
『連射できたら便利~』
「って言って」
『自動で狙えたら楽~』
「って言って」
『だったら魔力炉を積もう~』
「ってなった結果がこれ」
エレノアが庭を見る。
そこには。
小型砦のような魔導兵器が完成しつつあった。
「…………」
「私も最初は笑ってたわ」
「今は?」
カトリーヌはしばらく黙って。
「……笑えない」
そう答えた。
◆
夜。
リゼットたちは食卓を囲んでいた。
「今日は何作ったの?」
マドカが聞く。
「シチューです」
エレノアが答える。
「美味しそう!」
「どうぞ」
「いただきます!」
マドカが一口。
「おいしい!」
「本当?」
「うん!」
ニコラも食べる。
「おいしい~」
「ありがとうございます」
カトリーヌも食べる。
「……うん」
「どうしたの?」
マドカが聞く。
「いや」
カトリーヌがニコラを見る。
「昼間まで兵器を作ってたのに、夜は普通にご飯を食べてるのが、なんだか変な感じで」
「研究の後のご飯は美味しいからね~」
「そういうもの?」
「そういうもの~」
リゼットが笑う。
「この一週間くらいは、こういう生活も悪くないわね」
エレノアも微笑む。
「私もそう思います」
マドカが手を上げる。
「明日は何作る?」
「明日は私が作ります」
「やった!」
カトリーヌがため息をつく。
「……私は明日も兵器?」
「もちろん~」
「……でしょうね」
ニコラが笑う。
「一週間あれば、かなり良いものができそう~」
「どこまで作る気?」
「ダンジョンの奥で何が出てくるか分からないからね~」
ニコラは笑っていた。
しかし。
その目だけは。
研究者のものだった。
「だから」
設計図を一枚取り出す。
「最悪の場合を想定しておこうかな~」
リゼットが設計図を見る。
「……それ」
「うん~?」
「ダンジョン攻略用?」
「そう~」
「……どう見ても城一つ落とすための兵器だけど?」
「そうかな~?」
「そうよ」
マドカが覗き込む。
「すごーい!」
「マドカ、喜ばない」
「だってかっこいい!」
「そこじゃないわ」
エレノアとカトリーヌは顔を見合わせる。
「……一週間後」
「ええ」
「私たち、生きて帰れるでしょうか?」
「ダンジョンから?」
「いえ」
カトリーヌが遠い目をする。
「ニコラの研究から」
ニコラは。
「失礼だな~」
と笑っていた。




