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落内円は落ちている  作者: 七風


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報酬は国宝

「実は、最初にダンジョンを発見した者たちが――」


 国王が言葉を止める。


「全員、戻ってきていない」


「…………」


 謁見の間が静まり返る。


「最初の調査隊は、十七名」


 国王が地図を指す。


「五階層までは問題なく進めた」


「そこから?」


 リゼットが尋ねる。


「六階層以降、魔物の強さが急激に上がった」


「普通のダンジョンではないわね」


「そうだ」


 国王は頷く。


「そして九階層で、第二次調査隊が全滅した」


「…………」


「その中には、王国騎士団の精鋭もいた」


 マドカが少し真剣な顔になる。


「そんなに?」


「Sランク冒険者も二名いた」


「Sランク……」


「二人とも戻ってきていない」


 ニコラが珍しく口を挟まない。


「さらに」


 国王は地図を裏返す。


「十階層で確認された階層主」


 そこには簡単な絵が描かれていた。


「推定、災害級」


「災害級……」


 エレノアが頷く。


「通常の騎士団では討伐不可能と判断されています」


「なら、なんで私たちに?」


 マドカが聞く。


 国王はリゼットを見る。


「あなたなら可能だと思っている」


「買いかぶりね」


「そうかもしれない」


 国王は苦笑する。


「だが、他に頼める者がいない」


 リゼットは地図を見る。


「……分かったわ」


「本当か!?」


「調査だけならね」


「助かる!」


「ただし」


 リゼットが指を立てる。


「危険だと判断したら撤退する」


「もちろんだ」


「国の都合で命を捨てろと言われても困るわ」


「それも約束する」


「ならいいでしょう」


 国王がホッと息を吐く。


「では、報酬についてだが――」


 国王が手を上げる。


 側近が箱を運んできた。


「国宝を三つ」


 箱が開く。


「一つ目」


 黒い指輪。


「虚空環」


 リゼットが目を細める。


「空間固定と転移座標の保存が可能だ」


「へえ~」


 ニコラが一歩近づく。


「触っていい~?」


「後でな」


「残念~」


「二つ目」


 青く輝く巨大な魔石。


「星喰いの蒼晶」


「…………」


 ニコラの目が輝く。


「…………」


 マドカがニコラを見る。


「ニコラさん」


「なに~?」


「よだれ」


「出てないよ~」


「出てるよ」


「気のせい~」


「最後が」


 国王が小さな箱を開く。


「万能鍵」


 そこにあったのは。


 何の変哲もない一本の鍵だった。


「これで?」


「鍵、封印、結界」


 国王が説明する。


「この世界に存在するあらゆる『閉じられたもの』を、一度だけ開くことができる」


「…………」


 リゼットが鍵を見る。


「面白いわね」


「一度使えば、その対象に対しての効力を失う」


「なるほど」


「この三つを、今回の報酬とする」


「分かったわ」


 リゼットが頷く。


「では、これで――」


「待って」


 国王が止める。


「今回のダンジョンは危険だ」


「そうね」


「ならば」


 国王が笑う。


「前払いも用意しよう」


「前払い?」


「装備だ」


 マドカの顔が上がる。


「装備?」


「王城の宝物庫から好きなものを選んでいい」


「…………!」


 マドカの目が輝いた。


     ◆


「うわぁぁぁぁ……!」


 宝物庫。


 扉が開いた瞬間。


 マドカが駆け出しそうになる。


「待ちなさい」


 リゼットが襟を掴む。


「危ないわよ」


「だって!」


 壁一面に。


 剣。


 槍。


 杖。


 鎧。


 盾。


 魔道具。


 宝石。


 見たこともない武具が並んでいる。


「すごい……」


 エレノアも苦笑する。


「王家が長い年月をかけて集めた品々です」


「これ全部?」


「はい」


「売ったら?」


「マドカ」


「冗談です!」


 ニコラはすでに別の棚を見ていた。


「この魔道具、構造が古代式だ~」


「ニコラ、そっちは後でね」


「分かってる~」


 リゼットはマドカを見る。


「好きなものを選びなさい」


「本当に?」


「ええ」


「何でも?」


「使えるならね」


「よーし!」


 マドカは武器の棚へ走る。


     ◆


「これ!」


 最初に持ってきたのは。


 可愛らしい短剣だった。


「……それ?」


 騎士が首を傾げる。


「はい!」


「それは『月影』」


 宝物庫の管理者が説明する。


「見た目に反して、かなり危険な魔剣です」


「へえ!」


「持ち主の魔力を吸収して刃に変換します」


「じゃあ、いっぱい使える?」


「理論上は」


「これにする!」


「即決……」


 だが。


 リゼットが短剣を見る。


「悪くないわね」


「でしょ?」


「ただ、あなたには少し軽すぎるかもしれない」


「そうなの?」


「ええ」


 マドカは少し考える。


「じゃあ――」


 その横。


 巨大な剣が立てかけられていた。


「これ!」


「待ちなさい」


「これがいい!」


「それは?」


 管理者が青ざめる。


「……王国秘蔵の魔剣です」


「名前は?」


「轟雷剣グランディア」


「強そう!」


「かつて魔王軍の将を討った剣です」


「これ!」


「だから即決しないでください!」


 マドカが持ち上げる。


 ――ひょい。


「…………」


「…………」


「…………」


 全員が固まる。


「重くない?」


 マドカが聞く。


「…………」


 騎士が答えられない。


「それ、王国騎士団の中でも持ち上げられる人は数人しかいません」


「そうなの?」


「はい」


「じゃあ私に合ってるね!」


「どういう理屈!?」


 ニコラが笑う。


「マドカらしいね~」


「ニコラさんも持ってみる?」


「遠慮する~」


 そして防具。


「これがいい!」


 マドカが選んだのは白銀の軽鎧。


 装飾は少なく。


 小柄なマドカでも動きやすそうな作りだ。


「それは……」


 管理者がまた固まる。


「何?」


「『白姫の鎧』です」


「強い?」


「物理攻撃を大幅に軽減」


「うん」


「魔法攻撃も一定量無効化」


「うん」


「状態異常耐性」


「うん」


「自己修復機能」


「うん」


「装備者の身体能力を補助する機能まであります」


「すごい!」


「……国宝級です」


「これにする!」


「また即決……」


 リゼットが笑う。


「似合うと思うわ」


「ほんと!?」


「ええ」


「じゃあこれ!」


 マドカが嬉しそうに鎧を抱える。


     ◆


 装備を身につけたマドカ。


 白銀の鎧。


 巨大な魔剣。


 どう見ても。


 可愛い女の子が持つ装備ではない。


「…………」


 騎士たちが見る。


「…………」


 国王も見る。


「…………」


 エレノアも見る。


「どう?」


 マドカがくるりと回る。


「可愛い?」


「…………」


「誰か答えて!」


 エレノアが笑う。


「とてもお似合いですよ」


「やった!」


 リゼットも頷く。


「いいわね」


「お姉ちゃんもそう思う?」


「ええ」


 ニコラが魔剣を見る。


「それ、魔力を流してみて~」


「こう?」


 マドカが魔力を流す。


 ――バチバチバチッ!!


 刀身から雷が走る。


「おお!」


 マドカの目が輝く。


「かっこいい!」


「…………」


 騎士たちは言葉を失う。


 管理者が震える。


「……その剣」


「うん?」


「歴代の王族でも、完全に適合した者はいません」


「そうなの?」


「はい」


「でも普通に使えるよ?」


「…………」


 国王が遠い目をする。


「また一人、伝説が増えたな……」


「まだ増えてませんよ」


 エレノアが苦笑する。


「これからです」


「それもそうか」


 マドカは新しい装備を眺める。


「ダンジョン楽しみ!」


 リゼットが笑う。


「その前に」


「?」


「魔剣の使い方くらい覚えなさい」


「あ」


「あなた、たぶん振り回すだけでしょう?」


「…………」


「図星ね」


「えへへ」


「褒めてないわ」


 ニコラが笑う。


「でも似合ってるよ~」


「でしょ!」


 そして。


 王城の宝物庫から出ていく三人。


 国王はその背中を見送った。


「……国宝を三つ」


「はい」


「さらに宝物庫から国宝級の装備まで持っていかれたな」


「はい」


「……本当に、これでよかったのか?」


 エレノアが答える。


「ダンジョンから生きて帰ってきてもらうためです」


「そうだな」


 国王は頷く。


「ならば――」


 その表情が引き締まる。


「我々は、彼女たちが戻ってくるまでにできることをすべてやろう」


 一方。


「ねえ、お姉ちゃん」


「何?」


「この剣、王城からもらっちゃってよかったのかな?」


「前払いでしょう?」


「そっか!」


「それに」


 リゼットがマドカの剣を見る。


「あなたなら、そのくらい使いこなせるわ」


「えへへ」


 マドカは嬉しそうに笑った。


 その横で。


「私も何か欲しい~」


 ニコラが呟いていた。


「ニコラはもう国宝三つ狙ってるでしょう」


「それは報酬~」


「欲張りね」


「研究者だから~」

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