依頼
訓練場。
先ほどまでの騒ぎがようやく収まり、一行は再び謁見の間へ戻ってきた。
マドカはというと。
「いやー、楽しかった!」
「あなたね……」
リゼットが呆れる。
「相手は王国屈指の騎士よ?」
「うん!」
「もう少し申し訳なさそうにしなさい」
「だって手加減してくれたし!」
「…………」
ガルドは遠くで、
「手加減……?」
と複雑そうな顔をしていた。
「まあまあ~」
ニコラが宥める。
「マドカは悪気ないから~」
「それは分かっている……」
国王が苦笑する。
「では、今度こそ本題に入ろう」
「そうしてちょうだい」
リゼットが椅子に座る。
「私たちを呼んだ理由を聞かせてもらえる?」
「うむ」
国王の表情が変わる。
先ほどまでの穏やかな笑みが消えた。
「数か月前」
国王が地図を広げる。
「スリーピアの北東部。国境にも近い辺境で――」
地図の一点を指差す。
「新たなダンジョンが発生した」
「ダンジョン!」
マドカが身を乗り出す。
「新しく?」
「そうだ」
「突然?」
「そうだ」
「なんで?」
「それが分からない」
マドカがリゼットを見る。
「お姉ちゃん」
「何?」
「面白そう」
「そうね」
リゼットは地図を見る。
「かなり大きいわね」
「すでに王国騎士団と冒険者を派遣している」
国王が続ける。
「だが――」
表情が曇る。
「誰一人として、十階層より先へ進めていない」
「十階層?」
ニコラが聞く。
「はい」
エレノアが答える。
「十階層の階層主が、現在確認されている最深部です」
「強いの~?」
「かなり」
国王が答える。
「王国騎士団の精鋭を含む攻略隊が挑んだが、撤退を余儀なくされた」
「死者は?」
リゼットが尋ねる。
「……出ている」
空気が重くなる。
「それでも?」
「それでも、調査を続けなければならない」
「なぜ?」
国王は地図の奥を見る。
「ダンジョンの発生地点が、国境に近すぎる」
「…………」
「このまま放置すれば、内部から何が出てくるか分からない」
「魔物が外に出る可能性がある、と」
「その通りだ」
リゼットは腕を組む。
「なるほどね」
マドカが手を挙げる。
「じゃあ私たちは?」
「調査隊として入ってほしい」
「攻略じゃなくて?」
「まずは調査だ」
国王ははっきりと言う。
「ダンジョンの構造」
「魔物の種類」
「発生原因」
「そして――」
一拍置く。
「可能であれば、最深部まで確認してほしい」
「……最深部」
リゼットが呟く。
「そう」
「つまり」
リゼットが国王を見る。
「調査と言いながら、実質攻略を期待しているわけね」
「…………」
国王は苦笑した。
「察しがいいな」
「五百年も生きていれば、それくらい分かるわ」
マドカがニコラに小声で言う。
「絶対『調査だけでお願いします』って言っておいて、全部やらせるやつだよね」
「そうだね~」
「聞こえているぞ」
「すみません!」
国王が笑う。
「だが、否定はできない」
「正直ね」
「ただし」
国王は続ける。
「無理に最深部を目指す必要はない」
「…………」
「命を優先してほしい」
リゼットが少しだけ目を細める。
「そこは評価するわ」
「ありがとう」
「それで?」
「報酬だ」
国王が別の書類を取り出す。
「金貨」
「いらないわ」
即答。
「……」
「領地」
「いらない」
「爵位」
「もっといらない」
「…………」
国王が困った顔をする。
「何なら受け取ってくれる?」
「そうね」
リゼットは少し考える。
「お金には困っていないし、土地も必要ない」
「では?」
「魔道具」
「魔道具?」
「ええ」
リゼットが答える。
「この国が保有している、一般には出回っていないようなもの」
ニコラの顔が上がる。
「……!」
「国宝級でも構わないわ」
「国宝級……」
国王が苦笑する。
「かなり欲が出てきたな」
「私じゃないわ」
リゼットがニコラを見る。
「…………」
ニコラが目を逸らす。
「私でもないよ~?」
「あなたでしょう」
「ばれた~」
マドカが笑う。
「ニコラさん、分かりやすい!」
「研究者だからね~」
国王はしばらく考える。
「分かった」
「いいの?」
「国宝級の魔道具を一つ」
ニコラが思わず身を乗り出す。
「本当~?」
「ただし、こちらが指定するものになる」
「うん~」
「詳細は後ほど見せよう」
「楽しみ~」
リゼットが頷く。
「それなら話は早いわね」
「引き受けてくれるのか?」
「まだよ」
「まだなのか……」
「当然でしょう」
リゼットは地図を見る。
「ダンジョンの発生原因が分からない」
「そうだ」
「魔物の強さも異常」
「そうだ」
「それなのに、国は私たちを呼んだ」
「……そうだ」
「つまり」
リゼットが国王を見る。
「何か隠しているでしょう?」
謁見の間が静まり返る。
国王の表情が。
ほんの少しだけ変わった。
「…………」
マドカもニコラも。
エレノアも。
国王を見る。
「さて」
リゼットは微笑む。
「全部話してもらいましょうか」
国王はしばらく黙っていたが――
「……分かった」
やがて。
重い口を開いた。
「実は、最初にダンジョンを発見した者たちが――」
国王の話は。
ここからが本当の問題だった。




