幻影エキドナ対S級冒険者
「じゃぁさ、その試験代わりに今の私達の実力をギルドで査定すれば?」
マドカがそう言うと、サリーは少し考え込んだ。
「どうやってです?」
「そうだねー。ギルドの訓練場に呼べるだけSランク集めてよ。観客も入れていい」
「な、何をするつもりですか?」
「ヒロバトの実演だよ。発売もうすぐだしねー」
「なるほど。私達の幻影にSランクに挑ませるのね?」
アリシアが納得したように言う。
「それならいいかもしれませんね。怪我もないですし。攻撃されたら塗料が付着しますけど、わかりやすいです」
「なるほど。少し時間をいただいても? Sランクの皆さんも、模擬戦という形なら了承すると思います」
「治療費請求されないから、こっちは楽だよね。やるの幻影だし」
「マドカ、言い過ぎよ?まぁ、その通りね」
リゼットまで肯定した。
サリーは頭を抱える。
「……本当に皆さん、Sランクの方々を何だと思ってるんですか」
「強い人達?」
「そういう意味じゃありません!」
「まぁまぁ」
マドカは笑いながら手を振った。
「じゃ、お願いねサリー」
「はい……分かりました」
こうして、Sランク冒険者達によるヒロバトの幻影との模擬戦が行われることになった。
数日後。
ゴールの冒険者ギルド。
新しく建て直された訓練場には、集められたSランク冒険者達と、その様子を見に来た冒険者や町の人々が集まっていた。
今回の模擬戦は、ヒロバトの実演も兼ねて配信される。
カメラの前に立ったビアンチが、いつもの調子で声を張った。
「さぁ、本日は特別企画です! 発売を間近に控えたヒロバト、その実演を兼ねまして――なんと、Sランク冒険者の皆さんに幻影との模擬戦を行っていただきます!」
『Sランク集めすぎだろw』
『何でヒロバトの実演でSランクと戦うんだよw』
『エキドナ側が何をする気なのか分からなくて怖い』
『これ本当に模擬戦なんだよな?』
「では、実際に幻影を出してみましょう」
リゼットが前に出る。
手にしているのは、モンバトで使われているものと同じような物だった。
「これがヒロバトよ」
「これがヒロバトか」
近くにいたSランク冒険者が、興味深そうに覗き込む。
リゼットが本体を操作する。
画面をいくつか操作すると――
一度に五人の幻影が訓練場へ現れた。
リゼット。
マドカ。
アリシア。
エレノア。
ブリジット。
五人とも、そこに本人がもう一人現れたように見える。
「おお……これがヒロバトの幻影か」
Sランク冒険者が目を細める。
「少しゴーストみたいに薄いと思ってたが、ほぼそのままじゃん。もう一人そこに現れたって感じだな」
「それはそうよ」
リゼットは当然のように答えた。
「これは私達の、今現在のデータそのものだから」
『思ったより本人そのままだな』
『五人同時に出せるのか』
『幻影っていうからもっと薄いと思ってた』
『これ、本人と区別つくのか?』
『戦わせたらどうなるんだろ』
「でも本人は、これからも強くなるでしょう?」
別のSランク冒険者が尋ねる。
「ええ。幻影は今のまま強くはならない。そこが違いね」
リゼットは五人の幻影を眺めながら説明する。
「これがバージョン1だとすると、2、3と新しいスキル、技術、魔法などを覚えた別のデータが誕生していくのよ」
「そういうシステムか」
冒険者が感心したように頷く。
「前のデータと新しいデータで、悪いところを比較できそうだな」
「そういう使い方もできるわね」
『昔の自分VS今の自分ができるってこと?』
『成長記録としても使えるじゃん』
『ゲームなのに訓練にも使えるのか』
『エキドナの昔と今を戦わせたらどうなるんだ』
『それより今のエキドナと戦わせる方が怖いだろw』
ビアンチが話を引き継ぐ。
「それでは、ここからが本番です!」
訓練場に集まったSランク冒険者達へ、視線が集まる。
「これより、Sランク冒険者の皆さんには、この五人の幻影と模擬戦を行っていただきます!」
最初に前へ出たのは、一組のSランクパーティだった。
「相手は五人。こちらも五人だ」
「幻影なんだろ? なら、多少無茶しても問題ないな」
「塗料が付いたら被弾扱いってことか」
「そういうことになります」
ビアンチが答える。
「では――開始!」
合図と同時に、幻影のリゼットが動いた。
「――え?」
次の瞬間。
広範囲に魔法が放たれた。
一発ではない。
二発、三発。
さらに間髪入れず、別の魔法が重なる。
「なっ――!」
Sランク冒険者達が散開する。
しかし、そこへマドカの幻影が飛び込んだ。
「速っ――」
一閃。
剣が振り抜かれる。
避けたと思った冒険者の装備に、塗料が付着した。
「くっ!」
後方ではアリシアの幻影が銃を構えている。
一発。
二発。
三発。
止まらない。
「ちょ、待て! あれ連射できるのか!?」
『アリシアずっと撃ってるw』
『前衛に行ったマドカを無視できないのがキツい』
『後ろからあれだけ撃たれたら無理だろ』
『リゼットの範囲魔法まであるんだぞ』
Sランク冒険者の一人が、アリシアの射線を切ろうと動く。
そこへエレノアの幻影が立ちはだかった。
「――そこをどいてもらう!」
剣を構える。
踏み込み。
一撃。
受けた剣が弾かれる。
「な……!」
エレノアの剣技は、一流だった。
そして最後に、ブリジット。
別の冒険者が渾身の一撃を叩き込む。
しかし――
ガキン!
「……は?」
ブリジットが受け流した。
続けて二撃、三撃。
全て弾かれる。
「何だこいつ……!」
『ブリジット相変わらず何でも弾くなw』
『あれどうやって突破するんだよ』
『攻撃したら弾かれる、後ろから撃たれる、横から斬られる』
『これ五人で戦う前提の性能じゃん』
『そりゃSランクでもきついわ』
そして――
最初のSランクパーティは、ほとんど何もできないまま塗料を付けられていった。
「終了!」
ビアンチの声が響く。
訓練場が静まり返る。
「……これが、エキドナの幻影?」
誰かが呟いた。
リゼットは静かに五人の幻影を見る。
「どう?」
その声はいつも通りだった。
「これが私達の今の本気と思えばいいわ」
『今の本気!?』
『これがエキドナの現在値なの?』
『Sランクが何もできなかったぞ』
『いや待て、まだ一組目だ』
『次のSランクどうするんだこれw』
こうして、Sランク冒険者達による「幻影のエキドナ」への挑戦が始まった。




