元担当受付嬢ゴールへ赴任
ゴールの町に、新しい冒険者ギルドが完成した。
以前の建物とは比べものにならないほど大きい。
冒険者が集まり、依頼を探し、受付に並ぶ。
建物の中には酒場まで併設され、壁には大量のクエストが並ぶ掲示板。
誰が見ても、冒険者ギルドだと分かる建物になっていた。
「……本当に大きくなったわね」
サリーは建物を見上げた。
これまでサリーが所属していたのは、王都の冒険者ギルドだ。
ゴールの職員だったことは一度もない。
ただ、王都とゴールの間には転移設備があり、料金も二千円程度。
仕事でこちらへ来ることは何度もあった。
だから、ゴールの冒険者ギルドが町からどんな扱いを受けてきたのかも知っている。
ゴールが開拓されていた頃、冒険者ギルドはその開拓にほとんど協力しなかった。
そのため町が完成してからも、ギルドはどうにも肩身が狭かった。
クエストボードでさえ、役場に置かれていたくらいだ。
冒険者に関する仕事を、役場が代わりに処理していたのである。
それが最近になって変わった。
ゴールへ移住してくる冒険者が増えた。
さらにエキドナが開発したヒロバトの発売も控えている。
発売後にどれほどの人間が集まるか分からない。
いつまでも役場が冒険者関連の仕事を抱えているわけにもいかない。
そこでようやく、冒険者ギルドが正式にその仕事を任されることになった。
建物も改築された。
劇で描かれるような、冒険者ギルドらしい外観に。
そして、増える仕事に対応するため職員も増員された。
「ゴールに行く人員が必要なら、私が行きましょうか?」
王都でそう申し出たのが、サリーだった。
理由は分かりやすい。
マドカ、リゼット、そしてアリシア。
三人とも、王都にいた頃からサリーが担当していた冒険者だ。
ゴールの事情もある程度知っている。
新しく仕事を任されることになったギルドを支える人員として、自分が行くのは悪くない。
そう考えた。
「……それにしても」
サリーは新しい建物をもう一度見上げる。
「ずいぶん変わったわね」
昔のゴールを知っているからこそ、感慨深い。
そして――
「さて」
サリーは手元の書類を見る。
赴任に関する書類。
担当する業務。
そして、もう一つ。
「マドカさんとリゼットさんのランクについて、本部から確認……」
思わずため息が出た。
「まだCランクなのよね……」
昔から、あの二人はそうだった。
強いのに、ランクには興味がない。
いや。
興味がないというより――
上げると面倒なことになるから上げない。
そういう二人だった。
「まあ……直接話したほうが早いわね」
サリーはギルドを出ると、エキドナ邸へ向かった。
「こんにちはー」
「あれ?」
玄関先でサリーが声をかけると、すぐに返事があった。
「あ、サリーさんじゃん」
「お久しぶりです、マドカさん」
「どうしたの?」
「今日からゴールの冒険者ギルドに赴任することになったんです」
「へー。サリーさんが?」
「はい」
「じゃあ、これからゴールに住むの?」
「そうなりますね」
「そっかー。よろしくね」
「こちらこそ」
マドカは特に驚いた様子もなく、サリーを中へ案内する。
しばらくするとリゼットとアリシアもやってきた。
「あら、サリーじゃない」
「お久しぶりです、リゼットさん」
「王都から来たの?」
「はい。今日からこちらです」
「そう。よろしくね」
「はい」
アリシアも笑顔で頭を下げる。
「サリーさんが担当になるんですね」
「ええ。王都にいた頃と同じようなものです」
「それは助かります」
「私も三人の担当だったので、やりやすいと思ってます」
「それで?」
マドカが首を傾げる。
「今日は何しに来たの?」
「……」
サリーは一瞬だけ黙った。
「今日はですね」
「うん」
「本部から、少しお話がありまして」
「ランク?」
「はい」
「嫌」
「まだ内容を言ってません!」
「だってランクの話でしょ?」
「そうですけど!」
マドカは露骨に嫌そうな顔をした。
リゼットは隣で優雅にお茶を飲んでいる。
「相変わらずねぇ」
「リゼットさんもですよ!」
「私も?」
「はい!」
サリーは書類を取り出した。
「マドカさんもリゼットさんも、まだCランクですよね?」
「うん」
「実力的には、もっと上ですよね?」
「まあ、そうだね」
「だったら、そろそろランクを上げませんか?」
「なんで?」
「なんでって……」
サリーは言葉に詰まった。
「本部から苦情が来てるんです!」
「苦情?」
「はい!」
「何の?」
「配信で見ましたけど、あの強さでCランクってどういうことですか、って!」
「配信?」
「ダンジョンの配信です!」
「ああ」
マドカは納得したように頷いた。
「でもあれ、冒険者としての活動じゃないよ?」
「……はい?」
「ダンジョンに入ってるだけだもん」
「だけ?」
「素材が欲しいから取りに行ってるの。クエストじゃないし」
「……」
「だから冒険者としての実績にもならないよね」
「なりませんね」
「じゃあCランクのままじゃん」
「そういう問題ではありません!」
サリーの声が部屋に響いた。
「そもそも、ダンジョンの三十階層まで行っている人がCランクというのがおかしいんです!」
「でもクエストじゃないもん」
「そういう問題じゃないんです!」
リゼットが紅茶を飲みながら口を挟む。
「でも、冒険者ギルドを利用していないのだから、ランクを上げても意味がないでしょう?」
「リゼットさんまで……」
「依頼も受けないでしょう?」
「受けないね」
「素材も売らないでしょう?」
「自分たちで使うし」
「そうでしょう?」
「はい……」
サリーは頭を抱えた。
横からアリシアが申し訳なさそうに口を開く。
「私はAランクまで上げましたけど……」
「アリシアさんは本当にありがとうございます!」
「でもSランクはちょっと……」
「強制依頼が増えますからね」
「はい」
「それは困ります」
「分かります」
マドカも頷いた。
「私も強制依頼は嫌だなぁ」
「だからこそ、皆さん!」
サリーは立ち上がりそうな勢いで言った。
「ギルドとしては、皆さんの実力を正しく把握しておきたいんです!」
「でも私たち、もう冒険者としてほぼ活動してないよ?」
「そこなんです!」
「え?」
「活動してないのに、ダンジョンの最深部まで行って、素材を持って帰って、配信までしてるじゃないですか!」
「うん」
「それを見た人たちがどう思うと思います!?」
「すごい人がいる?」
「違います!」
「じゃあ何?」
「Cランクの冒険者が三十階層まで行ってる!ってなるんですよ!」
「……それはちょっと変だね」
「でしょう!?」
「でも」
マドカは少し考えてから、いつもの調子で答えた。
「どっちにしろ、冒険者ギルド利用しないもん」
「もう!」
サリーは両手で頭を抱えた。
「**そういう問題ではないんですって!**」




