ガブちゃんと王様
「ガブリエルよ」
「はい?」
「その……なんだ」
父親が少し言いにくそうに口を開く。
「最近、忙しそうだな」
「そうなんですの!」
ガブリエルが嬉しそうに答える。
「今度、学園のクラスメートと一緒に、エキドナ主催の映像作品に参加するんですのよ!」
「ほう」
「お父様も、ちゃんと買ってくださいましね!」
「……そこは余が買う物なのか?」
「もちろんですわ!」
「出演者には完成品が送られてくるのでは?」
「まぁ!」
ガブリエルが目を丸くする。
「そんなことをしていたら売り上げが伸びませんわ!」
「そ、そういうものなのか……」
「そういうものですの!」
父親は少し考えてから尋ねる。
「それで、どのような役なんだ?」
「それは――」
ガブリエルがぴたりと止まる。
「……秘密ですわ」
「なぜだ?」
「情報漏洩という言葉を知りませんの?」
「お、お前……そう言って、配信では色々話しているではないか」
「あら?」
ガブリエルがにっこり笑う。
「お父様、私の配信を見てますの?」
「親としては当然であろう」
「……」
「やべぇ村に行った回も見たぞ」
「そこまで見てますの!?」
「もちろんだ」
「……あれは、その……」
「王女が『ここ、やべぇ村ですわ!』などと言いながら村を歩いているのを見たときは、余もどう反応すればいいのか分からなかった」
「仕方ありませんでしょう! 本当にやべぇ村だったんですもの!」
「その後、村の人たちと普通に仲良くなっていたではないか」
「それはそれですわ!」
父親は少しだけ笑った。
「まあ、配信は毎回見ている」
「……毎回?」
「ああ」
「モンバトの大会も?」
「見た」
「カフェに行った回も?」
「見た」
「トンチンカンの三人と一緒にいた回も?」
「見た」
「……」
ガブリエルが少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
「そんなに見ているなら、もう少し早く言ってくださいまし」
「親が娘の配信を見るのに、いちいち報告する必要があるのか?」
「……ありませんわね」
「だろう?」
父親は満足そうに頷いた。
「それで?」
「はい?」
「劇では何の役なんだ?」
「それは――」
ガブリエルが少し考える。
「……まだ秘密ですわ」
「情報漏洩だったな」
「そうですわ!」
「しかし、お前は配信で――」
「それ以上は言いませんの!」
父親が苦笑する。
「分かった分かった」
「しょうがないですわねー!」
ガブリエルは少しだけ得意そうに胸を張った。
「内緒ですわよ?」
「ああ」
「私の役は――」
ガブリエルが周囲を確認する。
「準主役ですのよ!」
「ほう」
父親の顔が少し嬉しそうになる。
「さすがだな」
「でしょう?」
「して」
父親がふと思い出したように尋ねる。
「恋愛がある作品なのか?」
「ふふ」
ガブリエルが満面の笑みを浮かべる。
「まったくありませんわ!!!」
「……それなら安心だな」
「何を心配していましたの?」
「いや、何でもない」
「怪しいですわね……」
「そうだ!」
父親が突然思いついたように言う。
「余が親役で参加するのはどうだろう?」
「嫌ですわ!」
「即答か」
「劇の中までお父様がいるの嫌ですわ!」
「しかし、親子役なら自然ではないか?」
「自然とかそういう問題ではありませんの!」
「余も少しくらい出演してみたかったのだが」
「お父様は国のお仕事をしてくださいまし!」
「……娘の劇に出たいという父親心なのだが」
「それでも嫌ですわ!」
父親は少し寂しそうに笑った。
「分かった。では、完成品を買うだけにしておこう」
「そうしてくださいまし!」
「出演者にも届くそうだが」
「それとこれは別ですわ!」
「そういうものなのか……」
「ええ!」
ガブリエルは満足そうに笑った。
「お父様はちゃんと一人のお客様として買ってくださいまし!」
「分かった分かった」
父親も笑う。
「発売されたら買うとしよう」
「約束ですわよ!」




