劇の準備と募集
エキドナの一室。
前回の打ち合わせから少し経ち、再び何人かが集まっていた。
「じゃあ、今日は撮影に向けて必要なものを整理しよう」
マドカが机の上に紙を広げる。
「まだストーリー全部を決めるわけじゃないからね」
「そこは分かってる」
クライブが答える。
「大筋は決まったが、細かいところはこれからだろ?」
「うん。だから先に、撮影するために必要なものを揃えたい」
マネリーが紙を覗き込む。
「まず撮影場所ですね」
「町はゴールを使う」
マドカが答える。
「ギルドもグレタが少し大きくしてくれるし、酒場とか宿とか、町の中にある場所はそのまま使えるよね」
「撮影するだけなら問題ないでしょう」
エレノアが答える。
「町の住民にも協力していただく必要がありそうですね」
「そうなんだよね」
マドカが少し考える。
「スタンピードの場面とか、町の中に人がいないと変だし」
「そこはエキストラをお願いすることになるな」
ビアンチが言う。
「ゴールの住民に協力をお願いするなら、募集の告知も必要でしょうか?」
「うん。でも、まだ今すぐ集めなくていいと思う」
マドカは紙に書き込む。
「撮影する場所と場面が決まってから、必要な人数を決めたほうがいいから」
「それはそうですね」
マネリーが頷く。
「では、エキストラ募集は後回しにして、まずは別の準備を進めましょう」
「うん」
「次は映像結晶ですね」
ニコラが口を挟む。
「撮影用の機材なら、私が用意できるよぉ~」
「カメラは何台必要?」
「場面によるかなぁ~」
ニコラは少し考える。
「固定で撮るなら一台でもいいけどぉ、戦闘とか町の中を動く場面なら、複数あったほうが楽だよぉ~」
「じゃあ、複数用意しよう」
「あと、音も必要ですね」
アリシアが言う。
「歌の場面もありますから、音声を別で残せるようにしたほうがいいと思います」
「それなら私も手伝えます」
ナナリーが手を挙げる。
「ライブの時みたいに、音を確認する人がいたほうがいいですよね」
「そうだね」
マドカが答える。
「じゃあ、映像と音の確認はニコラとナナリーにお願いしよう」
「任せて~」
「はい!」
マネリーが書き留めていく。
「次に、衣装や小道具ですが――」
「これは基本的に今あるものでいけるんじゃない?」
マドカが答える。
「武器とか防具とか、普段使ってるものを使えばいいし」
「確かに」
グレタが答える。
「劇だからって偽物を用意する必要はないだろ」
「ただし、壊してはいけないものはちゃんと区別しましょう」
ブリジットが付け加える。
「戦闘では実際に動くことになりますから」
「そこはニコラに相談かな」
「安全装置くらいなら付けられるよぉ~」
ニコラがあっさり答える。
「でも、普通に使える武器なら、そのまま使ったほうが映像としては自然だよぉ~」
「それもそうだね」
マドカが頷く。
「ダンジョンは?」
「そっちは俺がやる」
聞き慣れた声が端末から聞こえた。
ゲンナイだった。
「この前作った撮影用の階層を使えばいいだろ」
「うん。そこはもう大丈夫」
マドカが答える。
「あと、最後のボスもお願いね」
「分かってる」
「ちゃんと強いやつにしてよ」
「お前らが苦戦するくらいにはする」
「おお」
ナナリーが目を輝かせる。
「楽しみですね」
「……劇なんだよな?」
クライブが少し不安そうに聞く。
「劇だよ」
マドカが答える。
「でも、本当に戦うから」
「それは聞いてる」
クライブは少し遠い目をした。
「普通の劇とは何か違う気がするな……」
「まあ、エキドナだし」
グレタが言った。
「それでいいだろ」
「それもそうですね」
アリシアが笑う。
マネリーが紙を整理する。
「現時点で必要なのは、撮影機材、音声関係、撮影場所の確保、ダンジョン側の準備。それから――出演者ですね」
「うん」
マドカが答える。
「エキストラは、あとで募集するとして」
「あとで?」
ビアンチが聞く。
「うん。だけど、その前にちょっと面白い人を探したい」
「面白い人?」
ナナリーが首を傾げる。
「劇の中で、ちょっとした特技を披露してもらう人」
マドカが説明する。
「例えば、すごい楽器を演奏できる人とか、珍しい魔法が使える人とか」
「なるほど」
アリシアが理解する。
「エキストラとは別枠ですね」
「そう」
「でも、どうやって探すんですか?」
「EVで募集しよう」
マドカは即答した。
「情報塔の新人発掘企画もあるし、ちょうどいいじゃん」
「確かに」
ビアンチが答える。
「では、私が告知を作りましょうか?」
「うん。お願い」
「今回の募集内容は?」
マドカが少し考える。
「『劇に出てくれる面白い人』かな」
「それでは、かなり曖昧ですね」
マネリーが苦笑する。
「もう少し具体的にしましょう」
「じゃあ……」
マドカが考える。
「エキストラとはちょっと違います、って最初に言って」
「はい」
「面白い芸とか特技を、作中のワンシーンで披露できる人」
「それなら分かりやすいですね」
「歌でも、演奏でも、魔法でも、武術でも、料理でも何でもいい」
「それ、かなり幅広いですね」
ビアンチが笑う。
「だから面白いんじゃん」
「なるほど」
ビアンチはすぐに端末へ向かった。
「では、告知を作ります」
「エキストラについては?」
「別で募集するって書いて」
「うん。そっちはまだ待っててくださいって」
「承知しました」
少しして。
EVに、新しい動画が投稿された。
『エキドナからのお知らせです』
画面にビアンチが映る。
「皆様、こんにちは。エキドナ公式広報のビアンチです」
コメントが流れ始める。
『またビアンチだ』
『今度は何の告知?』
『劇のやつ?』
『エキドナが劇やるの?』
「本日は、現在エキドナで制作を進めている劇について、出演者募集のお知らせです」
『おお』
『募集きた』
『劇なんてやるんだ』
「ただし――」
ビアンチが少し間を置く。
「今回募集するのは、一般的なエキストラとは少し違います」
『ん?』
『エキストラじゃない?』
『じゃあ何?』
「エキストラについては別途募集を行いますので、そちらをご希望の方はもう少しお待ちください」
『なるほど』
『今回は別枠か』
『エキストラはまだなんだな』
「今回募集するのは――」
画面に文字が表示される。
**『面白い芸や特技を、劇中のワンシーンで披露してくださる方』**
『面白い芸?』
『特技披露枠ってこと?』
『それなら俺もいけるか?』
「歌、演奏、魔法、武術、料理、大道芸、その他珍しい技能など、ジャンルは問いません」
『魔法ありなの!?』
『俺、変な魔法なら使える』
『料理でもいいのか』
『楽器ならできるぞ』
「まだ知られていない方でも構いません」
ビアンチが続ける。
「皆様が『これは人に見せられる』と思うものがあれば、ぜひご応募ください」
『これ新人発掘企画とも繋がってる?』
『情報塔の企画で見つけてもらえるってことか』
『面白そう』
「なお、今回の募集は劇の主役や主要人物を募集するものではありません」
『そこは違うのね』
「劇の中の一つの場面で、その特技を披露していただくための募集となります」
『なるほど』
『名前付きの脇役みたいな感じか』
『酒場で演奏とかありそう』
『冒険者ギルドで武術披露とか?』
『変な魔法使える人、応募してみろよ』
「そして、エキストラ募集については――」
ビアンチが一度資料を見る。
「後日、改めて告知いたします」
『了解』
『そっちはまた後か』
『じゃあ今は特技のほうだけなんだな』
「冒険者の方は、冒険者ギルドを通して依頼として受け付ける予定です」
『なるほど』
『冒険者はギルド経由か』
「一般の方については、役場を通して依頼として募集する予定です」
『役場なら応募できるのか』
『ちゃんと依頼になるんだな』
「いずれも、エキドナから正式な依頼として発行されますので、募集が始まるまで少々お待ちください」
『分かった』
『エキストラ募集はまだ先なんだな』
『次の告知を待とう』
「それでは、皆様からのご応募をお待ちしています」
画面が切り替わる。
**『あなたの「面白い」を、劇の中で見せてください』**
告知動画が終了する。
しばらくすると、EVにはさっそく新しい動画が投稿され始めた。
『俺、応募してみようかな』
『何ができるんだ?』
『三種類の楽器を同時に演奏できる』
『それ普通にすごくない?』
『俺は剣を三本同時に投げられる』
『危ない芸は禁止じゃない?』
『ちゃんと練習してるから大丈夫だ』
『俺は料理なら負けない』
『劇の中で料理するのか?』
『分からん。でも応募してみる』
『自分の特技って何だろう……』
『まずそこから探してる奴いるぞw』
そんな動画やコメントが、次々と増えていく。
エキドナの劇は、まだ撮影すら始まっていない。
それでも少しずつ――劇に




