ビアンチ対談ニコラ
「では、本日はニコラさんに色々とお話を伺いたいと思います」
「はーい」
情報塔の配信画面。
ビアンチの向かいに座っているのは、いつもの眼鏡をかけたニコラだった。
「今回は、マドカさんとの対談に続いて、エキドナのことをもっと知るための質問回です」
「質問されるだけならいいよぉ~」
「本当ですか?」
「ちゃんとした質問ならねぇ~」
「ちゃんとした質問?」
「情報を聞き出そうとしてるだけの質問は面倒だから~」
「……」
ビアンチが少しだけ苦笑する。
『もう警戒されてるw』
『ニコラさんに質問回は危険』
『ビアンチ頑張れ』
『マドカは何でも答えたけどニコラは違うぞ』
「では、一問目です」
ビアンチが資料を見る。
「ニコラさんは、エキドナで何を担当していますか?」
「色々作ってる~」
「魔道具ですか?」
「魔道具も、ゲームも、色々~」
「かなり広いですね」
「作るの好きだから~」
「二問目です。魔道具を作るとき、一番大事にしていることは?」
「自分が楽しいもの~」
「自分が?」
「うん」
「依頼されたものを作ることは?」
「作れってのはめんどう~」
『分かりやすいw』
『職人なのに依頼嫌い』
『自分が作りたいもの優先』
『ニコラらしい』
「では、マドカさんの場合は?」
「おもしろそうだったから~」
「マドカさんから何か提案されるのは嫌ではない?」
「マドカのは別~」
「別なんですね」
「だって、面白そうなんだもん~」
「三問目です。マドカさんから最初に受けた商品アドバイスは?」
「扇風機~」
「扇風機?」
「うん」
「そこからだったんですか?」
「そうそう~」
ニコラが少し懐かしそうに笑う。
「マドカが売り方とか絵にして、王都で配ってくれたんだよね~」
「マドカさんが宣伝を?」
「そう~」
「それがなかったら?」
「今、誰も私を知らないんじゃない~?」
『さらっと重要な話』
『マドカ、最初期から営業してたのか』
『ニコラの知名度にマドカが関わってた』
『扇風機がエキドナ初期の重要商品だったんだな』
「四問目です」
ビアンチが続ける。
「マドカさんのアイデアで、一番『これは面白い』と思ったものは?」
「モンバトもそうだし~」
「はい」
「ヒロバトもそうだね~」
「どちらもマドカさんのアイデア?」
「こういうので遊びたいってところからできたものかな~」
「なるほど」
「私が作れる形にしただけ~」
「五問目。逆に、マドカさんのアイデアで『これは無理じゃない?』と思ったものは?」
「ん~」
ニコラが少し考える。
「影武者かな~」
「影武者?」
「そのアイデアで幻影を作れば?って話になって~」
「それが?」
「ヒロバト」
「……」
ビアンチが一瞬止まる。
『影武者からヒロバト!?』
『どういう発想だよ』
『マドカのアイデアも大概だけどニコラも大概』
『結果的に商品になってるのが怖い』
「つまり、最初は別の用途だったものが……」
「色々話してるうちに、こうなった~」
「すごいですね」
「そう?」
「六問目です。モンバトを作ったきっかけは?」
「言ったよ~」
「……」
ビアンチが資料を見る。
「以前にも聞きましたね」
「うん~」
「失礼しました」
『二回目w』
『質問回あるある』
『ニコラさん容赦ない』
「七問目。モンバトは最初から今の形だったんですか?」
「マドカのアイディアで、しつこく打ち合わせしたな~」
「しつこく?」
「こうして、あーしてって~」
「マドカさんが?」
「うん~」
「それをニコラさんが形にした?」
「まぁ、形にしたのは私~」
「かなり細かく話し合ったんですね」
「マドカがやりたいことを聞いて、できる形にしていった感じかな~」
「なるほど」
「八問目。ヒロバトは誰が考えたんですか?」
「ほとんどマドカ~」
「ほとんど?」
「アイデアはね~」
「実際の開発は?」
「私~」
「なるほど」
『いつもの分業』
『マドカが思いついてニコラが作る』
『この二人の組み合わせ強いな』
「九問目。ヒロバトの開発で、一番苦労したところは?」
「モンバトと大体同じでしょ~」
「……」
「なんでできないと思うの~?」
「いえ、そういう意味では……」
「なら問題ないよぉ~」
『ビアンチ負けたw』
『ニコラに技術的な難易度聞くとこうなる』
『できるものはできる』
「十問目。ニコラさん自身は、モンバトをプレイしますか?」
「あんまりしないかな~」
「やらない?」
「エキドナではマドカが強いだけだよ~」
「マドカさんが?」
「うん」
「ニコラさんもダンジョン攻略でデータを手に入れているんですよね?」
「データは私も取ってるよ~」
「では、かなり強いデータを?」
「持ってるけど~」
「けど?」
「めんどうだから、本体の中で寝てる~」
「…………」
『またそれw』
『カード化してない』
『三十層データを寝かせる女』
『ニコラも同類だった』
「十一問目です」
ビアンチが少しだけ慎重になる。
「エキドナの中で、魔道具に一番詳しいのは誰ですか?」
「私とカトリーヌが専門かなー」
「二人なんですね」
「うん~」
「十二問目。ニコラさんより魔道具に詳しい人は?」
「ゲンナイ・ヒラガかな~」
「ゲンナイさん?」
「うん」
「どういう方なんでしょう?」
「私の遠縁だし~」
「……遠縁?」
『そこ初耳』
『ヒラガ家って何?』
『ビアンチ今の絶対聞くぞ』
『地雷の匂い』
『王国では発明一家って呼ばれてるぞ?ニコラも ニコラ・ヒラガだろ?』
『あ~ 親戚ってことか』
「では十三問目。エキドナの研究施設って、どんな感じなんですか?」
「ん~」
ニコラは少し考える。
「いろいろ~」
「具体的には?」
「いろいろあるよぉ~」
「……」
『出た』
『ニコラモード』
『さっきまで普通に答えてたのに』
『研究施設はダメらしい』
「十四問目。まだ公開していない研究はありますか?」
「さぁ~?」
「ご存じない?」
「知ってても言わないかもね~」
「なるほど……」
「十五問目。今後作る予定の魔道具は?」
「ないしょ~」
「やはり秘密ですか」
「うん~」
『ここは逃げる』
『新商品情報は守る』
『マドカもここは答えなかったな』
「十六問目。エキドナの収入で、今一番大きいものは何でしょう?」
「今だとヒロバトが予定だけど~」
「予定では?」
「合計数でいうならモンバトじゃない~?」
「なるほど」
「ヒロバトはこれからだからね~」
「確かに」
「十七問目。ニコラさん自身は、どのくらい稼いでいるんですか?」
「ん~」
ニコラは少し考える。
「しらなーい」
「分からない?」
「銀行にあるんじゃない~?」
『またw』
『自分の金に興味なさすぎ』
『エキドナ金銭感覚どうなってんだ』
『マドカもリゼット管理、ニコラも把握してない』
「十八問目。エキドナで一番高価な魔道具は?」
「今のところだと転移装置かな~」
「転移装置」
「王都に設置で一億金貨~」
「一億……」
ビアンチが固まる。
『一億金貨!?』
『さらっと言った』
『扇風機から一億まで振れ幅がすごい』
『それを作ったのがニコラか』
「それほど高価なものを作れるんですね」
「必要だったから~」
「十九問目。一番売れた商品は?」
「モンバトじゃない~?」
「やはり?」
「さっきも聞いたよね~?」
「……」
『ビアンチまた怒られたw』
『ニコラ記憶力いいな』
『同じ質問二回目』
「失礼しました」
「いいよぉ~」
「二十問目。一番作りたくなかった商品は?」
「作らないよ~」
「え?」
「面倒なことに巻き込まれたくないし~」
『強い』
『作りたくないものは作らない』
『依頼品を嫌がる理由がこれか』
「二十一問目。王様から特別な注文を受けたことは?」
「さぁ~?」
「ない?」
「出来たの買ってくれるだけだよ~?」
「つまり、王様から特別な魔道具を作ってくれと依頼されるわけではない?」
「そういうのじゃないね~」
「分かりました」
「二十二問目。貴族から秘密の依頼を受けたことは?」
「…………」
ニコラがビアンチを見る。
「……バカなのかな~?」
「すみません!」
『www』
『完全に地雷』
『そりゃ答えられん』
『質問する前に分かれw』
「二十三問目」
ビアンチは少し慎重に資料をめくった。
「エキドナ以外の研究者と共同研究したことは?」
「カトリーヌとゲンナイがエキドナに入るまでは~?」
「なるほど」
「私、ヒラガ家だけど~」
「ヒラガ家……」
「パパが好きにしなさいって~」
「…………」
ビアンチが少し考える。
「これは、かなり重要な情報なのでは?」
「そう?」
「二十四問目ヒラガ家という名前が出ましたがどういう家なのです?」
「私の実家だよ~?発明好きな一族ってだけ~。」
『あー ニコラの実家なわけね』
『有名な一族なのか?』
『大体の魔道具はヒラガの一族の工房だな。』
『天才なわけだ』
「では二十五問目」
「どうぞ~」
「エキドナには、ニコラさんしか知らない情報がありますか?」
「さぁ~?」
「本当に?」
「知らないよぉ~」
「……」
『絶対なんかある』
『その返しは怪しい』
『でもニコラなら本当に分からん』
『本人が把握してない可能性もある』
「二十六問目。エキドナの中で、一番信用できる人は?」
「ん~」
ニコラは少し考える。
「マドカかなぁ~」
「マドカさん?」
「自分で考えるより、考えてくれるし~」
「……」
「それを形にするだけだから楽だよ~」
『理由がニコラらしい』
『信頼+仕事の相性』
『マドカの発想を形にする人』
『この二人の関係いいな』
「二十七問目。逆に、一番仕事を任せたくない人は?」
「あなたかも~」
「私ですか!?」
「うん~」
「理由は?」
「なんでもしゃべりそうだから~」
『今日二回目w』
『マドカと完全一致』
『広報担当、信頼されてない』
『そろそろ本気で反省しろビアンチ』
「……私は広報担当なんですが」
「だからじゃない~?」
「どういう意味ですか!?」
「色々聞くから~」
「それは仕事です!」
「そう~?」
「二十八問目。ニコラさんから見て、マドカさんってどんな人ですか?」
「かわいい妹~」
「妹?」
「うん~」
「技術者としては?」
「それとは別~」
「なるほど」
ニコラは少し笑う。
「面白いこと思いつくしね~」
『かわいい妹』
『ニコラから見てもそうなんだ』
『マドカ愛されてる』
「二十九問目。リゼットさんとはどういう関係なんでしょう?」
「大賢者ってのでも尊敬してるし~」
「はい」
「私を管理してくれて楽~」
「管理……」
「お金とか、色々~」
『ニコラも管理されてるw』
『リゼット有能』
『エキドナの金庫番』
「三十問目」
ビアンチが最後から二枚目の資料を見る。
「今、エキドナの中で一番危ない人は誰ですか?」
「今だと、あなただね~」
「私!?」
『www』
『満場一致』
『エキドナ全員から危険人物認定されるビアンチ』
『質問しすぎなんだよw』
「そんなに危険ですか?」
「だって色々聞いてくるし~」
「広報ですから!」
「そういうところ~」
「……」
ビアンチが深く息を吐く。
「では、最後の質問です」
「どうぞ~」
「三十一問目」
ビアンチは少し考えてから尋ねる。
「今ここで話している内容の中に、実は外に出してはいけない情報はありますか?」
「さぁ~?」
「……」
「別に秘密ってわけじゃないけど~」
「けど?」
「配信で色々しゃべられたら面倒だなあって思うかな~」
「それは私のことですか?」
「うん~」
『最後までそれw』
『完全に嫌われた広報』
『いや、ニコラさんは別に嫌ってないだろ』
『面倒な人認定はされてる』
ビアンチは資料を閉じた。
「……本日の質問は以上です」
「はーい」
「いやぁ……」
「どうしたの~?」
「思った以上に答えていただけました」
「ちゃんとした質問なら答えるよぉ~」
「ただ、かなり踏み込んだ質問もありましたよね?」
「そう?」
「研究施設とか、秘密の依頼とか」
「そういうのは答えられないだけ~」
「なるほど」
ニコラが眼鏡を直す。
「別に隠したいわけじゃなくて~」
「はい」
「言っちゃいけないことを聞かれたら言わないだけだよぉ~」
「……」
ビアンチは少し考える。
「マドカさんとは、また違いますね」
「マドカは聞かれたら結構答えるからね~」
「はい」
「でも、マドカも話しちゃいけないことは話さないよ~」
「……なるほど」
ビアンチは今日のメモを眺める。
そこには、魔道具。
モンバト。
ヒロバト。
転移装置。
ヒラガ家。
エキドナの収益。
そして、ニコラ本人の人間関係。
「……エキドナのことが、また少し分かった気がします」
「それならよかった~」
「最後に一つだけ」
「まだあるの~?」
「ニコラさんは、私を本当に面倒な人だと思っていますか?」
「うん~」
「即答!?」
『wwww』
『今日一番の即答』
『ニコラさん容赦ない』
『でも質問回としては大成功だな』
『ビアンチ頑張れ』
ニコラは楽しそうに笑った。
「また質問したくなったら来ればいいよぉ~」
「いいんですか?」
「ちゃんとした質問ならね~」
「分かりました!」
「ただし~」
「はい?」
「情報を聞き出そうとする質問だったら、逃げるからね~」
「……肝に銘じておきます」
配信終了。
ビアンチは椅子に座ったまま、長い長い質問メモを眺める。
そして、一つだけ確信した。
「……エキドナの人たち、本当にそれぞれ情報への向き合い方が違うな」
マドカは、聞かれたことには素直に答える。
ニコラは、聞かれたことの中から「答えていいこと」だけを選んで答える。
そしてビアンチは――
まだ、その違いを完全には理解していなかった。




