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落内円は落ちている  作者: 七風


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ビアンチ対談マドカ

「では、改めてマドカさんに色々聞いていきたいと思います」


「うん」


情報塔の配信画面。


今日のビアンチは、いつもの調査配信とは少し違っていた。


画面の向こうにはマドカが座っている。


「前回までにも色々聞きましたが、今日は少し踏み込んだ質問も用意しています」


「踏み込む?」


「はい。答えにくいものは無理に答えなくても構いません」


「分かった」


『始まった』

『今日はマドカ対談か』

『ビアンチまた質問するのか』

『前回より危ない質問しそう』

『マドカなら結構答えそう』


「では、最初の質問です」


ビアンチが手元の資料を見る。


「エキドナの中で、一番お金を持っているのは誰ですか?」


「うーん……」


マドカは少し考えた。


「お姉ちゃんかなぁ」


「やはりリゼットさんですか?」


「いや、どれくらい持ってるのかは私も分からないよ」


「分からない?」


「お姉ちゃん、インベントリにお金とか宝石とか入れて出さないから」


『インベントリに現金保管w』

『それは分からん』

『金庫が異次元空間』

『本人も総額把握してなさそう』


「なるほど……」


ビアンチは少し考えてから続ける。


「では、目に見えてお金を持っている人は?」


「ニコラじゃない?」


「ニコラさん?」


「うん。魔道具作ってるし、売れてるし」


「エレノア王女は?」


「王女様って身分の人がどういう資産を持ってるかは知らないなぁ」


「……なるほど」


ビアンチはメモを取る。


「では二問目です。エキドナのメンバーの給料って、どのくらいなんでしょう?」


「んー……どうだろう」


「分からない?」


「人によって違うからね」


「どういう仕組みなんですか?」


「ダンジョンで倒した魔物をそのまま持って帰ったり、データとか素材を取ったりするでしょ?」


「はい」


「それを個人で換金した分は、その人の取り分」


「なるほど」


「他は売上から分配する感じだね」


「基本給は?」


「平民と変わらないんじゃない?」


『意外と普通』

『エキドナだけ給料体系が謎なんだよな』

『成果報酬が多いのか』

『ダンジョン素材持って帰るのが仕事になる組織』


ビアンチが少し首を傾げる。


「つまり、ものすごく稼いでいる人がいても、それは給料が高いというより……」


「その人が自分で稼いだ分ってことかな」


「なるほど」


「たぶん」


「たぶん?」


「私は給料の計算してないから」


『マドカらしい』

『金に無頓着』

『そこはリゼットに任せてそう』


「では三問目です」


「はい」


「エキドナのメンバー同士で、お金を貸したりすることはありますか?」


「それはないね」


「即答ですね」


「必要ないし」


「なるほど」


ビアンチは次の質問を見る。


「四問目。マドカさん自身は、今どれくらいお金を持っているんですか?」


「現金?」


「はい」


「全部お姉ちゃんに管理してもらってる」


「ご本人は?」


「必要なときにもらう」


『完全に親子』

『お姉ちゃんが財布』

『マドカ金銭管理能力ゼロ説』

『リゼットが管理してるなら安心ではある』


「ちなみに、モンバトのデータはかなり持っていますよね?」


「うん」


「現在、どのくらいまでカード化できます?」


「今は三十層までできるよ」


「三十層……」


ビアンチが一瞬固まる。


『さらっと言ったw』

『30層』

『そこ普通に言うな』

『最難関ダンジョンの最深部じゃん』


「ただ」


マドカが続ける。


「めんどうだから、全部カード化してない」


「……」


ビアンチが黙る。


『出た』

『エキドナ基準』

『ビアンチ固まったぞ』

『これが普通なんだよなぁ』


「五問目です」


ビアンチは少し姿勢を正した。


「ゴールの土地は、最終的に誰の名義なんですか?」


「お姉ちゃんが代表だよ」


「リゼットさんが所有者?」


「うん。エキドナの代表だから」


「では、王様から買った土地の契約者は?」


「私」


「え?」


「私が王様と契約したから」


『また重要な話さらっと出た』

『土地購入の交渉マドカだったのか』

『リゼットが金、マドカが契約』


「つまり、土地の購入資金を出したのはリゼットさんですが、王国との契約を結んだのはマドカさん?」


「そう」


「……分業がかなり明確なんですね」


「そうなのかな?」


「六問目。二十五億金貨を支払ったリゼットさんですが……」


ビアンチが慎重に尋ねる。


「現在でも、それだけの資金を持っているんでしょうか?」


「お姉ちゃんに聞いたら、『余裕よ』って言ってたよ」


『強い』

『余裕w』

『二十五億払って余裕』

『そりゃインベントリから出さないわ』


「……なるほど」


ビアンチはそれ以上聞くのをやめた。


「では七問目。エキドナの中で、一番偉いのは誰ですか?」


「誰が偉いとかはないなぁ」


「代表はリゼットさんですよね?」


「うん。でも、貢献度とかみんな違うでしょ?」


「なるほど」


「誰がいなくなっても嫌だし」


『いい答え』

『上下関係じゃないんだな』

『でもリゼットが代表』

『家族兼組織』


「では八問目」


ビアンチが少し笑う。


「逆に、マドカさんが『この人には逆らえない』と思う人は?」


「お姉ちゃんかな」


「即答ですか?」


「怒ったら怖いから」


『知ってた』

『リゼット怒らせたら終わり』

『マドカが唯一逆らえない人』

『具体的なエピソードお願いします』


マドカはコメント欄を見て笑う。


「エピソードは言わないよ」


「なぜです?」


「怒られたくないから」


『本人がまだ怖がってるw』

『これは本物』

『ビアンチ聞くなよw』


「分かりました」


ビアンチも笑いながら次へ進む。


「九問目。エキドナのメンバーで、実は仲が悪い人はいませんか?」


「いないんじゃない?」


「本当に?」


「うん」


「喧嘩したことも?」


「喧嘩はするよ」


「それでも仲が悪いわけではない?」


「そういうことじゃないかな」


『普通に家族』

『喧嘩はする』

『でも仲悪くはない』

『エキドナらしい』


「十問目」


ビアンチが少しだけ考える。


「誰にも言っていない秘密を、エキドナのメンバーから聞いたことはありますか?」


「……質問の意味が分かんないなぁ」


「え?」


「それ、秘密なんじゃないの?」


「……」


『正論w』

『ビアンチ撃沈』

『秘密を聞いたことありますか?って聞くな』

『答えたら秘密じゃないだろ』


「確かに……」


ビアンチが苦笑する。


「これは質問を変えたほうがよさそうですね」


「そうしたほうがいいと思う」


「では十一問目。マドカさんはエキドナに入る前、何をしていたんですか?」


「お姉ちゃんと森で三年暮らしてたよ」


「三年……」


「そこで修行してた」


『三年!?』

『森で?』

『マドカの過去きた』

『普通の生活じゃなかった』


「どんな修行だったんでしょう?」


「色々」


「……」


「体を動かしたり、魔法使ったり、森で出来る冒険者の仕事は全部したよ。世界の歴史文字の読み書きとか将来の事になるからって。もう学校行く必要ないくらいじゃないかな?」


「なるほど」


ビアンチはそれ以上は深く聞かなかった。


「では十二問目。そもそも、マドカさんがエキドナに入ったのは、いつ頃なんですか?」


「いつからエキドナだったのか、私も分かんない」


「分からない?」


「最初はお姉ちゃんと王都で冒険者登録して」


「はい」


「暇つぶしに魔道具工房を見てたらニコラに会って」


「そこで?」


「商品について色々アドバイスした」


『そこからニコラと知り合ったのか』

『エキドナの原型』

『暇つぶしで世界変えるな』


「その後は?」


「ダンジョンの調査で、エレノアやカトリーヌ、ブリジットと合同調査したり」


「はい」


「その後、ヒナタとグレタがダンジョンで眠ってたのを起こして」


「……」


「それからアリシアと知り合って、パーティーを組んだ」


「はい」


「それで人が増えたから、引っ越した」


「そこがゴールにつながるわけですね」


「そう」


「では、エキドナという名前はいつ?」


「あれは……」


マドカが少し考える。


「貴族とか町の移住者のみんなが『怪しい組織だ』って言い始めて」


『そこから!?』

『自分たちで組織名つけてないのか』

『怪しい組織扱いされたから名前を付けたの草』


「そういえば名前ないねってなって」


「はい」


「適当に何か生み出すって言葉ない?って聞いて」


「それで?」


「エキドナ 怪物の母なんでしょ?ぴったりじゃん。」


『雑www』

『組織名の決め方じゃない』

『今こんなデカい組織なのに』

『始まりが適当すぎる』


「……かなり自由ですね」


「うん」


「十三問目です」


ビアンチが少し笑いながら続ける。


「マドカさんが、エキドナの中で一番信用している人は誰ですか?」


「みんな大事だけど……」


少し考えてから、


「お姉ちゃん」


「やはりリゼットさんですか」


「うん」


「理由を聞いても?」


「ずっと一緒にいるから」


『これは強い』

『三年森暮らし』

『姉妹みたいなもんだな』


「では十四問目」


ビアンチが資料を見る。


「逆に、エキドナの中で『この人には仕事を任せたくない』という人は?」


「んー……」


マドカは少し悩んでから、ビアンチを見る。


「ビアンチかな」


「私!?」


『wwww』

『広報担当w』

『理由は?』

『これは当然』


「なんでもしゃべりそうだし」


「私はそんなに信用がないんですか!?」


「だって、こうやって色々聞いてるし」


『正論』

『今日もめちゃくちゃ聞いてる』

『自分で証明してて草』

『ビアンチ、信用回復頑張れ』


「これは……広報担当として由々しき事態ですね」


「そうだね」


「では十五問目」


ビアンチは少しだけ咳払いをする。


「エキドナでは、メンバーが自由に抜けることもできるんですか?」


「自由だよ」


「引き止めたりは?」


「抜けたいならしょうがないんじゃない?」


「随分あっさりしていますね」


「その人の人生だからね」


『自由すぎる』

『組織というより家族』

『入るのも抜けるのも自由』

『でも誰も抜けてないんだよな』


「十六問目です」


ビアンチが少し迷う。


「エキドナの内部で、一般には公開していない研究というものは、どのくらいあるんですか?」


「それはネタバレしろってこと?」


「まあ、そういう質問です」


「ビアンチがまだ読んでない本、ネタバレしようか?」


「本!?」


『論点w』

『研究の話から本のネタバレになった』

『ビアンチが読んでない本を特定するな』

『マドカの煽り好き』


「いや、結構です!」


「そう?」


「はい。ネタバレは勘弁してください」


「じゃあ秘密」


『そこは守るんだw』

『マドカの秘密保持基準が謎』

『ビアンチよりは信用できる』


「十七問目」


ビアンチが気を取り直す。


「ヒロバトの開発って、実際どこまで進んでいるんですか?」


「もう終わってるよ」


「え?」


「出荷待ち」


「…………」


『言ったw』

『もう終わってる』

『ビアンチ知らなかったのか』

『予約した人は知ってるだろ』


「それは……」


ビアンチが手元の資料をめくる。


「かなり重要な情報では?」


「でももう予約受付してるし」


「ああ……」


ビアンチは納得する。


「公開済みの情報だから問題ないわけですね」


「そういうこと」


「なるほど」


「十八問目」


「はい」


「今後発売予定だけど、まだ発表していない商品はありますか?」


「んー……」


マドカが考える。


「構想はあるよ」


「あるんですか?」


「うん」


「どんな商品です?」


「しゃべったらつまんないじゃん」


「……確かに」


『そこはちゃんと秘密』

『発表前だから当然』

『マドカにも情報管理の概念はある』

『ビアンチ、今の覚えておけよ』


「では十九問目」


ビアンチは少し慎重になって尋ねる。


「エキドナに仕事を依頼している貴族や商人って、どんな人たちなんでしょう?」


「一番大好きなのはクリスティーナ公爵夫人」


「そこですか!?」


「うん」


「どうしてです?」


「あんな人になりたいなって」


『クリスティーナ様w』

『マドカ憧れの人』

『公爵夫人に憧れるマドカ』

『いい話』


「では、依頼については?」


「うーん……」


マドカは首を傾げる。


「誰かに依頼されて作ってるっていうより、好きなもの作ってたら売れただけじゃない?」


「なるほど……」


「だから、特定の貴族から大量に依頼を受けているとか、そういう感じじゃないよ」


「分かりました」


「二十問目」


ビアンチが最後のページを見る。


「エキドナに一番大きな依頼をしたのは、どこの誰ですか?」


「一番買ってくれるのは王様だけど」


「王様ですか」


「依頼っていうのはないなぁ」


「では、王様が一番の顧客?」


「そういうことになるのかな?」


「何を購入されるんでしょう?」


「色々じゃない?」


「色々……」


「エキドナが好きなもの作って、王様が買ってくれる」


「なるほど」


ビアンチは資料に何かを書き込む。


そして、最後の一枚を見る。


「……では、最後です」


マドカが画面を見る。


「二十一問目」


ビアンチは少しだけ間を置いてから尋ねた。


「マドカさんが知っていることで、『これは絶対に外では話してはいけない』という情報はありますか?」


「……」


マドカは少し考える。


そして、困ったように笑った。


「それ言って、なんか問題起きたらビアンチのせいだよ?」


「……」


『正論w』

『最後にそれ聞くのかよ』

『ビアンチ自分で墓穴掘ってる』

『マドカ強い』

『秘密を聞き出す質問じゃなくて、秘密の存在を聞いてるんだよな』

『これは答えちゃダメなやつ』


「……確かに」


ビアンチは苦笑する。


「では、この質問は回答なしということで」


「うん」


「分かりました」


ビアンチは資料を閉じた。


「いやあ……」


「どうだった?」


「率直に言いますと」


ビアンチは少し考えてから、画面の向こうのマドカを見る。


「マドカさん、本当に色々話してくれますね」


「そう?」


「はい。組織のことも、皆さんのことも、土地のことも」


「聞かれたから答えただけだよ」


「そこなんですよ」


『何が?』

『ビアンチ何か気づいた?』

『嫌な予感』


「エキドナという組織は、かなり情報公開に寛容なのかなと思いまして」


「そうかな?」


「少なくとも、私はそう感じました」


「まあ、話していいことなら話せばいいんじゃない?」


「話していいことなら?」


「うん」


マドカは当たり前のように言う。


「話しちゃダメなことは話さないし」


「……」


ビアンチが少しだけ黙る。


「なるほど」


『今の重要』

『マドカ普通に線引きしてる』

『ビアンチ覚えとけ』

『未来のビアンチに聞かせたい』


「今日はありがとうございました、マドカさん」


「うん。こっちこそ」


「また何か聞きたいことができたら、お願いします」


「いいよ」


「では、本日の対談はここまでです」


マドカが手を振る。


「またね」


配信が終了する。


画面が暗くなったあと、ビアンチは椅子に座ったまま、手元のメモを眺めていた。


そこには、今日聞いた大量の情報が並んでいる。


土地。


契約。


メンバー。


商品。


開発。


販売。


そして、マドカ自身の過去。


「……本当に、エキドナはオープンな組織なんだな」


ビアンチはそう呟いた。


その時点では、まだ気づいていなかった。


「本人が話していい情報」と「広報担当が話していい情報」は、まったく同じではない。


その違いを知るのは、もう少し先のことだった。


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