↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
252/516

エキドナスカウト

情報塔の一室。


ビアンチは椅子に座り、目の前の端末を眺めていた。


画面には、現在EVで配信されている様々な動画が並んでいる。


「さて……情報塔の新人発掘企画も始まりましたし、今日も面白い人がいないか探していきましょう」


ビアンチがコメントを送る。


名前の横には、エキドナの紋章を模した認証印が表示されている。


『ビアンチ 【エキドナ認証・広報】:新人発掘、今日もやっていきます』


『広報さん今日もいる』

『もう普通に広報やってるじゃん』

『まだエキドナ怪しいと思ってる?』


「もちろんです」


『即答w』


「私はエキドナが怪しいと思っています!」


『もう聞き飽きたw』

『でも広報なの草』

『怪しいと思いながら宣伝する男』


ビアンチは苦笑しながら、次の配信を開いた。


画面の中では、一人の若い魔法使いが空を飛んでいる。


「おお……飛行魔法ですね」


『すげー!』

『普通に飛んでる!』

『あの高さ二十メートルくらいあるぞ』


魔法使いはさらに高度を上げる。


「おおっ、まだ上がりますね」


『25メートルくらい?』

『すげえええ!』


しかし、その直後。


「うわっ、待って! ちょっと制御が……!」


魔法使いがふらつく。


「大丈夫です! 平気です!」


『絶対平気じゃないw』

『落ちてる落ちてる!』

『頑張れ!』


ゆっくり高度が下がっていき、最後には地面から二メートルほどのところで落下した。


「へ、平気に決まってます!」


『平気じゃねえw』

『25メートルから落ちて無事なのもすげえけど』

『この世界の魔法使い怖い』


ビアンチはしばらく画面を見つめた。


「……なるほど。こういう人もいるんですね」


そのとき、別の認証済みコメントが入った。


『グレタ 【エキドナ認証】:へー、やるじゃん』


『温度差w』

『25メートル飛んで「へー」なの?』

『エキドナ基準怖い』


ビアンチはそのコメントを見て苦笑する。


「グレタさん基準では、まだ普通ということですか……」


『グレタ 【エキドナ認証】:まあな』


『怖すぎる』

『エキドナの基準どうなってんだ』


ビアンチは次の配信へ移る。


「では、もう少し探してみましょう」


いくつかの配信を見ていく。


剣術。


音楽。


大道芸。


魔法を使った曲芸。


どれも一般の視聴者からすれば十分に驚くような技術だった。


だが――。


『これすごくない?』


『すごいけど、エキドナが欲しがるレベルか?』


『基準がおかしくなってきた』


ビアンチも同じことを考えていた。


「なかなかいませんね……」


そのときだった。


画面の端に、一つの新しい配信が表示された。


『【生配信】深層の魔物を食べる』


「……食べる?」


ビアンチがタイトルを二度見する。


『何だこれw』

『魔物食ってる人いるぞ』

『また変なの見つかった』


「これは……少し気になりますね」


配信を開く。


画面に映ったのは、巨大な男だった。


分厚い肩。


太い腕。


鍛え上げられた胸板。


首も太く、顔には幾つもの傷がある。


どう見ても料理人には見えない。


『怖い』

『絶対料理人じゃないだろ』

『高ランク冒険者にしか見えん』

『これで料理配信なの?』


男は静かに魔物を前にしている。


「……始めるか」


『喋った』

『声渋い』

『この人何者だよ』


ビアンチがコメントを送る。


『ビアンチ 【エキドナ認証・広報】:何の魔物ですか?』


しばらくして、男が画面を見る。


「……深層の魔物だ」


『深層!?』

『え、普通に深層って言った?』

『食材として出てくるものなの?』


「食べられるんですか?」


ビアンチが続けて質問する。


男は当然のように答えた。


「食べられる」


『当然みたいに言うなw』

『深層魔物だぞ』

『この人、食べられるかどうかしか興味なさそう』


男は包丁を手に取った。


「では、解体する」


次の瞬間。


画面の中で、男の腕が動いた。


速い。


あまりにも速い。


魔物の身体に刃が入ったと思った瞬間には、もう次の場所へ刃が走っている。


「……え?」


ビアンチが画面に顔を近づける。


『何した!?』

『見えなかった』

『今の何?』

『一瞬だったぞ』


男の手が止まる。


まな板の上には、綺麗に切り分けられた肉が並んでいた。


「……終わった」


『いつの間に!?』

『解体終わってるw』

『何をしたのか全然分からん』

『料理配信なのに解体シーンだけ超高速』


ビアンチは呆然としている。


「……今、何をしたんですか?」


男は少し考えた。


「解体した」


『それは分かるw』

『説明になってないw』


ビアンチがコメントを打つ。


『ビアンチ 【エキドナ認証・広報】:もう少し詳しくお願いします』


男は少しだけ画面を見る。


「魔物の骨格と筋肉の位置を見て、刃を入れただけだ」


『だけw』

『それができねえんだよ』

『完全に職人の説明』


ビアンチは画面を凝視する。


切り分けられた肉には、余計な傷がほとんどない。


筋や骨も綺麗に処理されている。


「……これは、かなりの技術ですね」


すると、別の認証済みコメントが入った。


『ヒナタ 【エキドナ認証】:すごいですね』


続けて、


『グレタ 【エキドナ認証】:解体が速すぎて俺にもよく分からん』


『エキドナの人たちも見てるw』

『認証マークあるから本物なの分かるのいいな』

『グレタでも分からないのかよ』


ビアンチがコメントを返す。


『ビアンチ 【エキドナ認証・広報】:ヒナタさん、どうですか?』


少し間を置いて。


『ヒナタ 【エキドナ認証】:料理を見てみたいです』


「なるほど」


ビアンチも頷いた。


「では、料理を見せてもらいましょう」


男は肉を手に取る。


「焼く」


鍋に油を入れる。


肉を焼く。


香辛料を加える。


野菜を切る。


火加減を変える。


それらの動きは派手ではない。


しかし、一つ一つが迷いなく、無駄がない。


やがて料理が完成する。


男は皿を取り出した。


盛り付ける。


肉。


野菜。


ソース。


彩り。


一見すると高級料理店の料理のようだった。


『え?』

『急に料理店みたいになった』

『見た目すげえ』

『この人ほんとにさっきの筋肉男?』


ビアンチが息を呑む。


「……美しいですね」


男は料理をカメラの前に置く。


「食べる」


『いただきますじゃないのかw』

『料理人なのに言葉少なすぎる』


男が一口食べる。


「……うまい」


その一言だけだった。


ビアンチも思わず笑う。


「では、私も……」


配信越しに味見することはできない。


だが、コメント欄は一気に流れ始めた。


『食べた人いる!?』

『めちゃくちゃうまいらしい』

『近くにいる人が羨ましい』


そして、認証済みのコメントが表示された。


『ヒナタ 【エキドナ認証】:この人、欲しいです』


『出たw』

『エキドナのスカウト!?』

『ヒナタが料理人を欲しがってるw』


ビアンチは目を丸くする。


「……ヒナタさん、本気ですか?」


『ヒナタ 【エキドナ認証】:ええ。本気です』


さらに別のコメント。


『グレタ 【エキドナ認証】:腕は確かだな』


『リゼット 【エキドナ認証】:面白い方ですね』


ビアンチは画面を見る。


「……これは、もしかして」


『ビアンチ 【エキドナ認証・広報】:お名前をお聞きしても?』


男が初めて自分の名前を聞かれて、少しだけ画面を見る。


「……アーノルドだ」


『アーノルドっていうのか』

『名前まで渋い』

『覚えた』


ビアンチは続けた。


『ビアンチ 【エキドナ認証・広報】:アーノルドさん。エキドナで料理をしてみませんか?』


アーノルドは少し黙った。


「……ふ」


『お?』

『何だその「ふ」はw』


「俺を勧誘ですか」


『来た』

『スカウトだ!』

『エキドナから本当に声かかるんだな』


アーノルドは料理を見ながら答える。


「俺の腕、実際に見た方がいいですよ」


『もう見たんだよw』

『十分見ました』


「きっと満足できるでしょうね。ふ」


『お前が満足したいだけだろ』

『深層魔物食いたいだけじゃねえかw』

『絶対それ』

『この人、料理より魔物の話になると目が輝いてそう』


アーノルドは否定しなかった。


「……それもあります」


『認めたw』

『正直すぎる』

『食欲で加入する男』


そこへ、リゼットから認証済みのコメントが届いた。


『リゼット 【エキドナ認証】:後ほど正式に契約書を交わしましょう』


『話が早いw』

『もう採用決まったの?』

『コメント欄で契約が進んでるぞ』

『これがエキドナか』


アーノルドは少し考える。


「……深層の魔物を料理しても?」


『ヒナタ 【エキドナ認証】:もちろんです』


『グレタ 【エキドナ認証】:素材は山ほどある』


『決まったな』

『それ聞いた瞬間食いつきすぎw』


アーノルドは小さく息を吐く。


「……ふ」


そして静かに言った。


「入ります」


『きたあああああ!』

『スカウト成立!』

『本当にエキドナに入った!』

『料理人加入w』

『いやこの人、料理人っていうより冒険者だろ』

『深層魔物を食べるために加入した説』


ビアンチは画面を見ながら、しばらく黙っていた。


「……今回の企画、思った以上にすごいことになっていますね」


コメント欄がさらに加速する。


『レオのときも本当に支援したしな』

『映像結晶も作られたし、今回も本当にスカウトした』

『これ、ちゃんと見てもらえる企画なんだな』

『俺も動画投稿してみようかな』

『エキドナから声かかる可能性あるのか』

『でもこのレベルじゃないと無理そう』

『今日の料理人見たらハードル上がりすぎだろw』


ビアンチは苦笑した。


「……私としても、これは良い発見だったと思います」


少し間を置いてから、いつもの言葉を付け加える。


「ですが――」


コメント欄がざわつく。


「私はエキドナが怪しいと思っています!」


『結局それかよw』

『料理人までスカウトして怪しいって言ってるw』

『もう何が怪しいんだよ』

『ビアンチ、完全にエキドナ広報で草』


ビアンチは画面の向こうで静かに笑った。


「……それでは、次の動画を探しましょう」


情報塔の画面には、また新しい配信が映し出された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。