マドカ 色欲配信者とモンバト始める
色欲の街を歩いていた三人の前に、一人の青年が近づいてきた。
「うぉ、マジっすか!?」
青年は配信端末を片手に、三人を見て声を上げる。
「あれ、トライアングルじゃね?」
ナナリーが足を止めた。
「……」
青年はそのまま近づいてくる。
「うぇーい! 配信いいっすか~?」
「……どうしましょう、これ」
ナナリーは笑顔を作っているものの、少し引きつっている。
アリシアが一歩前に出た。
「ちょっと失礼じゃないですか? 突然来て、その言い方は……」
「え? あー、すんません。でも有名人いたら配信したくなるじゃないっすか」
青年は悪びれた様子もなく笑う。
「俺、モンバトやってるんすけど」
「モンバト?」
マドカが反応する。
「そうそう! 結構やり込んでて、強すぎて相手いなくてー」
青年が得意げに端末を見せる。
「一戦どうっすか~?」
「……」
「……」
ナナリーとアリシアが顔を見合わせる。
そして。
「ぷっ」
「ふふっ……」
二人同時に吹き出した。
「え?」
青年がきょとんとする。
「なんで笑ってるんすか?」
ナナリーは笑いながらマドカを見る。
「マドカちゃん、どうする?」
「いいよ」
マドカはあっさり頷いた。
「やろう」
「マジっすか!?」
青年が嬉しそうに端末を構える。
「じゃ、俺からいきますね!」
カードをセットする。
次の瞬間、光が集まり、青年の前にホログラムモンスターが出現した。
「右から行け!」
青年の指示に合わせ、モンスターが駆け出す。
マドカもカードをセットする。
こちらにもホログラムモンスターが現れた。
「少し待って」
マドカは戦場をじっと見る。
青年のモンスターが距離を詰める。
「今」
短い指示。
マドカのモンスターが動いた。
攻撃をかわし、相手の横へ回り込む。
「え?」
青年が声を漏らす。
「そこ!」
青年もすぐに指示を飛ばした。
だが、マドカのモンスターはすでに動いている。
二体が激突する。
『おお!』
『モンバトやってるじゃん』
『トライアングルと対戦かよ』
『この配信者、結構うまいな』
『でも相手の子、指示少なくない?』
戦いはしばらく続いた。
青年が何度も指示を出す。
マドカは戦場を見ながら、必要なところだけ短く指示を出していく。
そして最後に立っていたのは、マドカのモンスターだった。
「…………」
青年が固まる。
「……負けた?」
「うん」
マドカが頷く。
「ありがとうございました」
青年はモンスターが消えた場所を見つめていた。
「いや……結構ガチでやったんすけど」
マドカは少し考える。
「私、怠惰のモンバトチャンピオンなのに……」
「……」
ナナリーとアリシアが顔を見合わせる。
「……あ」
ナナリーが笑った。
「言っちゃった」
「そうですね」
アリシアも苦笑する。
青年が振り返る。
「え?」
「マドカちゃん、怠惰のモンバトチャンピオンだよ」
ナナリーがさらっと告げた。
「……は?」
青年の目が丸くなる。
「チャンピオン?」
「はい」
アリシアも頷く。
「感謝祭の大会で優勝したんです」
「…………」
青年はマドカを見る。
そして、もう一度端末を見る。
「……マジっすか?」
「うん」
「え、ちょっと待ってください」
青年は頭を掻いた。
「俺、普通にトライアングル見つけて、モンバト強いから一戦どうっすか~とか言ったんすけど」
「うん」
「チャンピオン?」
「うん」
「……」
しばらく黙ったあと、青年が笑った。
「それは……光栄っすね」
『チャンピオンだったの!?』
『初めて知った』
『いや大会見てた人なら知ってるだろw』
『この配信者、知らずに挑んだのかよ』
『でも普通に勝負してるのすげえ』
『ここから本気出すのか?』
青年は端末を握り直した。
「じゃあ、もう一戦いいっすか?」
マドカが笑う。
「いいよ」
「今度はガチでいきます」
「うん」
青年は一度深呼吸した。
そして、マドカがカードを選ぶ。
「じゃあ……これ」
カードを端末に置いた。
光が広がる。
次の瞬間。
巨大なホログラムモンスターが姿を現した。
青年の表情が変わった。
「……え?」
先ほどまでとは明らかに違う。
圧倒的な存在感。
巨大な身体から炎が揺らめく。
「なんすか、それ!?」
マドカはモンスターを見上げる。
「イフリート」
「……イフリート?」
「三十層のラスボス」
「…………」
青年が固まった。
『は!?』
『イフリート!?』
『30層ラスボス!?』
『そんなモンスターいるの!?』
『モンバト勢だけど初めて聞いた』
『待って、怠惰の30層ってこと?』
『ガチのラスボスじゃん』
『マドカ何持ってんだよw』
青年はコメント欄まで見て、さらに困惑する。
「いやいやいや!」
「何?」
「なんなんすか、それ!?」
「イフリート」
「名前は聞きましたけど!」
青年はイフリートを見上げる。
「見たことないっすよ、こんなの!」
「そう?」
「そうっすよ!」
『色欲には30層ないからな』
『そりゃ実物知らんわ』
『モンバトやってる奴しか存在知らないレベルじゃん』
『これは驚く』
青年はしばらくイフリートを見つめていた。
それから、ふっと笑う。
「……なるほど」
端末を構える。
「チャンピオンってだけじゃなくて、そんなカードまで持ってるんすね」
「うん」
「だったら」
青年の表情から、さっきまでの軽さが消えた。
「こっちも一番強いのでいきます」
自分のカードをセットする。
ホログラムモンスターが出現した。
「これが俺の最強っす」
『おおお!』
『ガチモード入った』
『さっきと顔違うw』
『これはいい勝負になりそう』
青年がモンスターを見る。
「行け!」
モンスターが駆け出す。
イフリートも動いた。
「右!」
青年が指示を出す。
モンスターがイフリートの横へ回り込む。
「今だ!」
攻撃。
イフリートが受け止める。
「まだ!」
青年が続けて指示を出す。
マドカは戦場を見ている。
「……待って」
イフリートが一瞬止まった。
「今」
イフリートが動く。
青年のモンスターが攻撃に入った瞬間、その軌道をかわした。
「えっ!?」
そのままイフリートが反撃する。
二体が激突した。
『うおおおお!』
『すげえ!』
『30層ラスボスと最強モンスターの戦い!』
『マドカの指示が的確すぎる』
『相手も普通に強いぞ』
『チャンピオン対色欲の強者か』
青年も必死に指示を出す。
「まだだ! 立て!」
モンスターが起き上がる。
「行け!」
再び突撃。
マドカはじっと戦場を見る。
「左」
イフリートが動いた。
攻撃をかわす。
「今」
イフリートが踏み込む。
巨大な炎をまとった攻撃が直撃した。
青年のモンスターが大きく吹き飛ぶ。
「うわっ!」
『決まった!』
『強すぎるw』
『イフリートやばい』
『30層ラスボスの名は伊達じゃない』
青年は最後まで諦めなかった。
「まだだ!」
モンスターが立ち上がる。
「もう一回!」
だが、イフリートが距離を詰める。
マドカが静かに言った。
「……終わり」
最後の一撃。
ホログラムが消えた。
勝負が決まる。
「…………」
青年が動かない。
コメント欄は完全に爆発していた。
『勝ったああああああ!』
『30層ラスボス撃破www』
『マドカ強すぎる』
『いやこれ本当にモンバトだよな?』
『カードの強さだけじゃないんだな』
『指示出すタイミングえぐい』
『相手もかなり強かったのに』
『そりゃチャンピオンだわ』
青年はしばらく呆然としていた。
やがて、ゆっくりとマドカを見る。
「……マジっすか」
「楽しかった」
マドカは嬉しそうに笑った。
「またやろうよ」
「…………」
青年は頭を抱えた。
「俺、今まで自分より強い奴いないと思ってたんですけど……」
ナナリーが吹き出す。
「ふふっ」
アリシアも笑う。
「だから言ったのに」
「いや、言ってないっすよ!」
「言わなくても分かると思って」
「分かんないっす!」
コメント欄はさらに加速していく。
『お前が勝手に挑んだんだぞw』
『今日一番面白い』
『色欲に来てモンバトチャンピオンに喧嘩売る男』
『しかも30層ラスボス出されて最強出して負ける』
『これは一生ネタにできる』
『最初の「配信いいっすか~?」から見てると温度差がすごい』
『ナナリーとアリシアが最初に笑ってた理由、ようやく分かったわ』
青年はコメント欄を見て、ようやく状況を理解したらしい。
「……もしかして俺、めちゃくちゃ恥ずかしいことしました?」
「ちょっとだけね」
ナナリーが笑顔で答える。
「でも、面白かったよ」
「……じゃあ、次は勝ちます」
「うん」
マドカが頷く。
「楽しみにしてる」
「よし!」
青年が立ち上がる。
「次までにもっと強くなります!」
「じゃあまたね」
三人が歩き出す。
その背中を見送りながら、青年は配信端末に向かって呟いた。
「……ちなみに、トライアングルってマジで三人とも強いんすね」
『そこじゃないw』
『今さらw』
『まずマドカの正体をちゃんと調べろw』
『でも次の対戦は見たい』
『続き期待』
ナナリーが振り返る。
「マドカちゃん、次も相手してあげるの?」
「うん。強くなってくれるなら、そのほうが楽しいし」
「そっか」
ナナリーは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また遊びに来ようか」
「うん」
アリシアも頷く。
「今度は普通に買い物しましょうね」
三人は再び、色欲の街を歩き始めた。




