トライアングル 色欲ダンジョンまた制覇
EVの配信画面に、三人の姿が映っていた。
『トライアングル、色欲ダンジョン攻略配信!』
「皆さん、こんにちはー!」
ナナリーが手を振る。
「今日は私たち三人で、色欲のダンジョンに来ています!」
「今日はちゃんと攻略するよ」
マドカが隣で言う。
「ちゃんと?」
アリシアが苦笑する。
「前に来た時も攻略しましたけど」
「あの時はナナリーに合わせてたから」
「そうですね」
ナナリーが笑う。
「二人とも、私が危なくならないようにかなり手加減してくれてたんだよね」
『え?』
『手加減?』
『どういうこと?』
『前に三人で制覇したよな?』
『マドカとアリシアが手加減してたの?』
「うん」
マドカが普通に頷く。
「ナナリー、あの頃はまだ今ほど強くなかったから」
「今は違うよ!」
ナナリーが胸を張る。
「ちゃんと鍛えたからね!」
『ナナリー強くなったの?』
『どれくらい?』
『聖女様、冒険者としても強くなったのか』
アリシアが笑う。
「今のナナリーなら、A級冒険者くらいの実力はありますよ」
『A級!?』
『ナナリーそんなに強くなったの!?』
『歌って踊れるA級冒険者』
『色欲の聖女、何者だよ』
ナナリーが得意そうに笑う。
「えへへ」
「ただ」
マドカが続ける。
「エキドナの中だと、まだそこまで強くない」
「そこは分かってるよ!」
ナナリーが即座に言い返した。
「マドカちゃんとアリシアが普通じゃないんだから!」
『エキドナ基準がおかしい』
『A級が弱い扱いされるの怖い』
『マドカさん基準で考えるな』
三人がダンジョンへ入っていく。
最初の階層。
魔物が現れる。
ナナリーが二本の短剣を抜いた。
「私が行くね」
「うん」
マドカはその場から動かない。
ナナリーが一気に駆け出す。
魔物の攻撃をかわし、懐へ入り込む。
二度、三度。
短剣が閃く。
魔物が倒れた。
『え』
『普通に強い』
『ナナリーの動きすげえ』
『これA級って本当なんだな』
色欲側のコメントも流れていく。
『聖女様、いつの間にこんなに強く』
『前に見た時より明らかに違う』
『トライアングルって何なんだよ』
『アイドルユニットだよな?』
『なんでダンジョン攻略してるんだ』
二階。
三階。
四階。
五階。
ナナリーが敵を倒している間、マドカとアリシアは周囲を眺めていた。
「次、どっちから行く?」
「右でいいんじゃないですか?」
「じゃあ右」
二人とも、まるで散歩でもしているようだった。
『……あれ?』
『マドカとアリシア、暇そうじゃない?』
『ナナリーだけ戦ってるぞ』
『怠惰のダンジョンよりぬるくね?』
『え?』
『五階なのに余裕すぎない?』
『色欲のダンジョンってこんな感じなの?』
色欲側の視聴者が反応する。
『は?』
『ぬるい?』
『何言ってんの?』
『色欲のダンジョンだぞ?』
『五階でも普通に死ぬぞ』
『怠惰の人たち何言ってるの?』
『そっちのダンジョンがおかしいんじゃない?』
『いや待って、怠惰ってそんなに難しいの?』
コメント欄が一気に賑やかになる。
『怠惰のダンジョン知らないのか』
『こっちはもっとヤバいぞ』
『普通にA級でも危ない階層ある』
『三人が余裕なのは三人が強いからだろ』
『いや、ナナリーA級だってさっき言ってたじゃん』
『A級なら五階くらい普通じゃない?』
『マドカとアリシアがほぼ何もしてないのが問題なんだよ』
ナナリーがコメントを見て笑った。
「なんか、怠惰と色欲でダンジョンの難易度の話になってるよ」
「へぇ」
マドカが興味なさそうにコメントを見る。
「じゃあ、もっと進めば分かるんじゃない?」
「そうですね」
アリシアも頷いた。
「色欲側の人たちからすると、ここまででも十分大変なんでしょうし」
「よし、行こう!」
ナナリーが先へ進む。
十階。
まだマドカとアリシアには余裕がある。
ナナリーも順調に戦っていた。
だが、十二階。
十三階。
十四階。
少しずつ魔物の攻撃が激しくなってくる。
「……ちょっと強くなってきたね」
ナナリーが息を整える。
「うん」
マドカは普通に答える。
「でも、まだ大丈夫そう」
「私はちょっと疲れてきたかな」
「じゃあ無理しないで」
「うん」
アリシアが魔法で魔物をまとめて吹き飛ばす。
『おおおお!』
『アリシア強っ!』
『マドカとアリシア、本当に余裕だな』
『これナナリーだけ難度違って見えてない?』
十五階。
一段と強い魔物が現れた。
ナナリーが正面から攻撃を受け、後ろへ吹き飛ばされる。
「ナナリー!」
アリシアが駆け寄る。
「大丈夫!」
ナナリーはすぐに立ち上がった。
「まだやれる!」
マドカが前に出る。
「じゃあ、ここからは私もやるね」
「お願い!」
マドカが魔物を斬り伏せる。
一撃。
二撃。
それだけで戦況が変わった。
『……』
『え?』
『今の何?』
『マドカが入った瞬間、敵が消えたぞ』
『これまで本当にピクニックだったのか?』
『色欲側だけど、ちょっと待って』
『A級ナナリーが苦戦してた敵を一瞬で……?』
『マドカさん何者なんだよ』
十六階。
十七階。
十八階。
ここからはナナリーもかなり真剣になる。
「右!」
「分かってる!」
「今!」
「そこ!」
三人の連携が噛み合っていく。
マドカとアリシアにとっては、まだ余裕がある。
だがナナリーは明らかに限界に近づいていた。
それでも足は止めない。
「……あと二階」
「うん」
マドカが笑う。
「一緒に行こう」
十九階。
最後の階段を下りる。
ナナリーが大きく息を吐いた。
「……やっとここまで来た」
「お疲れ様です」
アリシアが微笑む。
『ナナリー頑張ったな』
『A級でも19階はきついのか』
『これが普通の色欲ダンジョン攻略なんだろうな』
『いや、マドカとアリシアがおかしいだけだぞ』
『怠惰側の人間、まだそれ言ってるw』
『だって本当にそうなんだもん』
三人が二十階へ降りる。
そこには、巨大な魔物が待っていた。
「……来た」
ナナリーが短剣を構える。
「色欲ダンジョン、最深部」
アリシアも魔法を準備する。
マドカは魔物を見て、少しだけ目を輝かせた。
「強そう」
『うわ』
『20層ボスだ』
『これは普通に怖い』
『色欲側、これが最深部か』
『ここまで来たらA級でも危険だぞ』
戦闘が始まる。
ナナリーが前へ出る。
「行くよ!」
魔物の攻撃をかわし、短剣を叩き込む。
アリシアが魔法を撃つ。
マドカが一気に距離を詰める。
三人の攻撃が重なる。
「今!」
「はい!」
「そこ!」
巨大な魔物が咆哮する。
しかし、三人の連携は崩れない。
最後にマドカが一撃を入れた。
巨大な魔物が倒れる。
沈黙。
そして――
『勝ったああああ!』
『20層制覇!』
『色欲ダンジョンクリア!』
『ナナリーすげえええ!』
『三人ともお疲れ!』
ナナリーはその場に座り込んだ。
「……疲れたぁ」
「お疲れ様」
マドカは平然としている。
アリシアも息一つ乱していない。
『マドカ元気すぎるw』
『アリシアも普通の顔してる』
『ナナリーだけ完全燃焼してる』
『これでマドカとアリシアはピクニック感覚だったのか……』
『怠惰の人たち、ようやく理解した?』
『色欲の20層が弱いんじゃない』
『マドカとアリシアが異常なんだ』
『そしてナナリーもA級まで来てる』
ナナリーが立ち上がる。
「……あ」
倒れた魔物を見て、何かを思い出したように端末を取り出した。
「マドカちゃん」
「なに?」
「これ、データ取れる?」
「たぶん」
マドカが端末を見る。
「やってみる?」
「うん!」
ナナリーが操作する。
魔物のデータが端末へ取り込まれていく。
「……取れた!」
「よかったね」
ナナリーが嬉しそうに画面を見る。
「これで私のモンバトのデータも、強いのが揃ってきたよ!」
「うん」
『…………』
『…………』
怠惰側と色欲側、両方のコメントが一瞬止まる。
そして。
『おい』
『待て』
『今すごいことやったよな?』
『20層ラスボス倒した直後だぞ』
『それでモンバトのデータの話!?』
色欲側も負けていない。
『聖女様!?』
『そこ喜ぶところ!?』
『普通もっとダンジョン制覇を喜ぶだろ!』
『いや、ナナリーらしいけどw』
『でも強いデータ手に入ったのは確かに嬉しい』
怠惰側からも続く。
『これ、モンバトに使う気だろw』
『本気で攻略した理由の一つそれだったのか?』
『ダンジョン攻略がデータ収集になってる』
『エキドナの人たち、本当にモンバト好きだな』
ナナリーがコメントを見て笑う。
「だって欲しかったんだもん!」
「まあ、分かる」
マドカも頷く。
「私も欲しい」
「じゃあ交換する?」
「いいよ」
「ちょっと待って」
アリシアが二人を見る。
「二人とも、今ものすごいことをやった直後なんですけど」
「そうだね」
マドカが答える。
「でもデータは大事だよ?」
「そこなんですか……」
『アリシアさん正論w』
『色欲の20層制覇よりデータ』
『怠惰側、完全に納得してるの笑う』
『いや、エキドナならそうなるか』
『というか怠惰30層のデータとか、もっとすごいの持ってそう』
『それは聞いちゃいけないやつでは?』
『イフリート持ってたしな』
『今日の配信、ダンジョン攻略よりモンバトの話になってるじゃんw』
ナナリーは笑いながら、取得したばかりのデータを眺める。
「ふふっ……強いモンスター、また増えた」
マドカも端末を覗き込む。
「今度これで戦ってみよう」
「うん!」
アリシアは二人を見て、小さく笑った。
「……本当に、二人ともモンバト好きですね」
三人は、色欲ダンジョン二十層の最深部で笑いながら端末を覗き込んでいた。
その配信を見ていた両国の視聴者は、ほぼ同じ感想を抱いていた。
『ダンジョン制覇した直後に何やってんだこいつら』




