ビアンチ ガブちゃんと対談
情報塔の画面に、今日の配信タイトルが表示された。
『エキドナ広報ビアンチ 怠惰国第二王女ガブリエル様と対談!』
画面が切り替わる。
「皆さん、こんにちは。エキドナ広報のビアンチです」
「皆様、ごきげんようですわー!」
隣に座っているガブリエルが、いつものように明るく手を振った。
『ガブちゃんきた!』
『王女様との対談!?』
『ビアンチ大丈夫か』
『今日は調査じゃなくて対談なんだな』
『エキドナ広報、仕事の幅が広すぎる』
「本日は、怠惰国第二王女、ガブリエル様にお越しいただきました」
「はい。よろしくお願いしますわ」
「こちらこそ、ありがとうございます」
ガブリエルはにっこり笑う。
「ただ……」
「はい?」
「わたくし、対談と聞いておりますけれど」
「はい」
「質問されるだけではありませんわよね?」
「……」
ビアンチが少しだけ黙った。
『www』
『先に釘刺された』
『ガブちゃん強い』
『ビアンチ逃げられないぞ』
「もちろんです」
ビアンチは咳払いをする。
「本日はお互いに質問をしながら、お話しできればと思っています」
「よろしいですわ!」
ガブリエルが嬉しそうに頷いた。
「では、まずはこちらから質問させてください」
「どうぞ」
「ガブリエル様は、普段どのような一日を過ごされているのでしょうか?」
「学校がある日は学校へ行って、帰ったら宿題をして、その後は趣味ですわね」
「趣味というのは、やはりモンバトですか?」
「もちろんですわ!」
即答だった。
『出たw』
『即答すぎる』
『ガブちゃんのモンバト愛』
『学校より先にモンバトが来そう』
「モンバトは一日のどのくらい?」
「日によりますわね。新しいデッキを考えていると、時間を忘れてしまいますの」
「王女様でも、そういうことをするんですね」
「王女でも趣味くらいありますわ!」
「失礼しました」
「むしろ王女だからといって、趣味まで王女らしくしなければならない理由が分かりませんわ」
「なるほど」
ビアンチは少し考えてから続ける。
「では、王女であることで困ることは?」
「ありますわよ」
「例えば?」
「街で普通に買い物をしたいときに、わたくしだと分かると急に態度が変わる方がいらっしゃいますの」
「ああ……」
「わたくしは普通に買い物をしたいだけですのに」
『分かる』
『王女だと緊張するよな』
『ガブちゃん本人は普通に遊びたいだけなんだな』
「だから、エキドナに行くときは楽なんですわ」
「エキドナでは?」
「皆様、普通に接してくださいますもの」
「なるほど」
「ニコラなど、わたくしが王女だということを忘れているのではないかと思うくらいですわ」
『ニコラならありそう』
『ガブちゃん→ドクターニコラ』
『むしろ質問攻めにしてそう』
「実際、ニコラさんとはよく話されるんですか?」
「ええ。魔道具について聞くと、色々と教えてくださいますわ」
「質問が多すぎるとも聞きましたが」
「……」
ガブリエルが少し目を逸らす。
「それは……」
『www』
『自覚あるんだ』
『ドクターニコラ逃げて』
「まあ、少しくらいは」
「少しくらい?」
「……たくさんですわ」
ビアンチが笑う。
「では次です」
「どうぞ」
「エキドナの中で、特に好きなものは?」
「モンバトですわ」
「……」
「どうしましたの?」
「やはりそこですか」
「当然ですわ!」
『予想通り』
『モンバト以外の答えを期待したビアンチが悪い』
「では、モンバト以外では?」
「それなら、カフェですわね」
「カフェ?」
「ええ。エキドナには色々なお店がありますでしょう? 友人と行くのも楽しいですわ」
「食べ物も好き?」
「好きですわ」
「何が一番?」
「それは難しい質問ですわね……」
ガブリエルが真剣に考え始める。
「……決められませんわ」
『ガブちゃん真剣w』
『モンバトより難しい質問』
『食べ物ランキング作ってほしい』
「では、エキドナの人で、一番よく話すのは?」
「それは……」
また考える。
「マドカですわね」
「マドカさんですか」
「ええ。学校の話をしたり、モンバトの話をしたり、買い物をしたり」
「マドカさんもモンバトを?」
「もちろんですわ」
「かなり強い?」
ガブリエルの表情が少し変わった。
「……強いですわよ」
『お?』
『ガブちゃんの顔が変わった』
『マドカ強いのか』
『大会見た人は知ってる』
「では、ガブリエル様から見て、マドカさんの強さは?」
「……」
ガブリエルが腕を組む。
「嫌なところを突いてくる強さですわね」
「嫌なところ?」
「こちらがこう動くと分かっているような動きをするんですの」
「それはかなりの実力者なのでは?」
「ええ。だから対戦していて楽しいんですわ」
「なるほど」
ビアンチはメモを取る。
「では、次――」
「ちょっと待ってくださいませ」
ガブリエルが手を上げた。
「はい?」
「そろそろ、わたくしからも質問してよろしい?」
「あ、もちろんです」
「では――」
ガブリエルがビアンチを見る。
「ビアンチさんは、どうしてエキドナを調べ始めたんですの?」
「……」
『きたw』
『逆襲』
『ビアンチ頑張れ』
『本人の原点質問だ』
「最初は、エキドナという組織について、情報が少なかったからです」
「それで?」
「何をしているのか、誰が運営しているのか、どうしてあれほど色々なものを作れるのか。疑問がありました」
「それで調べてみた?」
「はい」
「今はどうですの?」
「かなり分かりました」
「では、怪しいところは?」
「……」
ビアンチが黙る。
『wwwww』
『始まった』
『王女に聞かれてるぞ』
『答えろw』
「……まだあります」
「どこが?」
「……」
「具体的には?」
「……」
ガブリエルがにっこり笑う。
「ありませんの?」
「いえ、あります」
「では、どうぞ」
「…………」
『完全に詰んでるw』
『広報なのにw』
『ガブちゃん容赦ない』
『これ対談じゃなくて尋問だろ』
「では、質問を変えましょう」
ガブリエルが楽しそうに続ける。
「今までエキドナを調べて、一番驚いた人は?」
「これはすぐ答えられます」
ビアンチが少し考える。
「リゼットさんです」
「リゼット?」
「はい。五百年以上生きているという話もそうですが……」
「大賢者ですものね」
「ええ。それほどの人物なのに、組織の中ではかなり普通に振る舞っている」
「普通ですか?」
「私からすると、十分普通ではないんですが……」
『分かるw』
『リゼット普通じゃない』
『エキドナ基準では普通』
「では、二番目は?」
「ニコラさんです」
「まあ」
「魔道具を作っている姿を見ていると、どう考えても普通ではありません」
「そうですわね」
「三番目は――」
ビアンチが少し考える。
「ガブリエル様です」
「わたくし!?」
『www』
『王女きた』
『なんで!?』
「なぜですの?」
「王女様が、あれほどモンバトに本気だとは思っていませんでした」
「……」
ガブリエルが胸を張る。
「趣味に身分は関係ありませんわ!」
「その通りですね」
「では次ですわ」
「まだあるんですか?」
「当然ですわ」
ガブリエルが少し身を乗り出す。
「ビアンチさんは、エキドナで一番楽しかった取材は?」
「それは……」
ビアンチが思い返す。
「全部、それぞれ楽しかったですよ」
「全部?」
「はい。最初は町のことを調べて、施設を見て、鍛冶場へ行って、魔道具を見て……」
「最近では料理も?」
「はい」
「ナナリーさんのところも?」
「……はい」
「神狼にも会いましたわね?」
「……はい」
『www』
『神狼回きた』
『ナナリーのとき顔変わってたぞ』
『料理も気に入ってたよな』
「では、ナナリーさんと神狼と料理では、どれが一番――」
「質問が変な方向に向かっています!」
「ふふっ」
ガブリエルが楽しそうに笑った。
「では、わたくしから最後の質問ですわ」
「どうぞ」
「ビアンチさんは、エキドナの広報になったことをどう思っていますの?」
「……」
今度はビアンチがしばらく黙った。
「最初は困りました」
「でしょうね」
「私はエキドナを調べる側だったので」
「今は?」
「今は……」
ビアンチは画面の向こうを見た。
「知らない人にエキドナのことを説明する仕事は、思ったより悪くありません」
「まあ」
「自分で調べてきたことを説明できますから」
「それなら、よかったですわね」
「ただし」
ビアンチが人差し指を立てる。
「私は今でもエキドナが怪しいと思っています」
『出たw』
『結局それw』
『安心した』
『ガブちゃんどうする?』
ガブリエルは少し考えてから、笑った。
「では、わたくしからも最後に一つ」
「まだあるんですか?」
「ええ」
「何でしょう?」
「ビアンチさん」
「はい」
「今でも、本当にエキドナが怪しいと思っていますの?」
「……はい」
「どこが?」
「…………」
沈黙。
ガブリエルはじっとビアンチを見る。
コメント欄も一気に流れる。
『どこだよw』
『答えられないw』
『ビアンチ終了』
『広報、陥落』
『もう好きなんだろ』
『エキドナのこと詳しすぎるんだよなぁ』
「……」
ビアンチはしばらく考え――
「……調べる価値があるところです」
ガブリエルが目を細める。
「それ、怪しいの意味が変わってませんこと?」
「……」
『正論w』
『ガブちゃん強い』
『今日のMVPガブちゃん』
『ビアンチ完全敗北』
「では、そろそろ終わりにしましょうか」
ビアンチがまとめに入る。
「本日はガブリエル様、ありがとうございました」
「こちらこそ楽しかったですわ」
「最後に一言いただいても?」
「もちろんですわ!」
ガブリエルがカメラに向き直る。
「皆様、モンバトは楽しいですわよ!」
『知ってるw』
『宣伝になってないw』
『結局モンバト』
『次はモンバト対談して』
「……」
ビアンチがコメント欄を見る。
そして、小さく笑った。
「次回は……モンバト対戦になるかもしれませんね」
「まあ!」
ガブリエルが嬉しそうに振り向く。
「それはぜひお願いしますわ!」
『きたああああ!』
『ビアンチ逃げられないぞ』
『ガブちゃん本気だ』
『次回モンバト!?』
『広報から対戦相手に昇格w』
「……仕事として検討します」
「ふふっ。楽しみにしておりますわ!」
配信は、そんな二人の笑い声と大量のコメントが流れる中で終了した。




