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落内円は落ちている  作者: 七風


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ビアンチ 神狼と妖精を調査

情報塔の画面に、今日も配信タイトルが表示された。


『エキドナ徹底調査! ティニアと神狼を調査します』


画面が切り替わる。


「皆さん、こんにちは。ビアンチです」


いつものように、少し硬い表情でカメラに向かって話す。


『ビアンチきた』

『今日も調査か』

『もう広報じゃん』

『本人だけ認めてない』

『今日は誰だ?』


「本日はですね、エキドナにいるという神狼について調査します」


ビアンチが少し真面目な顔になる。


「巨大な狼だということは、以前から聞いていました。しかし、私はまだ直接お会いしたことがありません」


『あー、神狼回か』

『神狼しゃべるぞ』

『ビアンチ初対面だっけ』

『絶対面白くなる』

『ティニアもいる?』


「そして、本日はティニアさんにもご協力いただきます」


「こんにちはー!」


画面の横からティニアがひょこっと顔を出した。


「ティニアです!」


「よろしくお願いします」


「よろしくー!」


ティニアは元気よく挨拶すると、すぐにビアンチの隣までやってくる。


「ビアンチさん、今日は神狼と遊ぶんだよ!」


「……調査です」


「遊びながら調査するんだよね?」


「まあ……そういうことです」


『もうティニアに負けてるw』

『調査とは』

『今日も広報大変そう』

『ティニア自由だな』


「じゃあ、神狼呼んでくるね!」


ティニアが走っていく。


ビアンチはその後ろ姿を見送りながら、小さく息を吐いた。


「……非常に元気な方ですね」


『今さら?』

『エキドナだからな』

『それを調査してくれ』


ほどなくして、地面を踏みしめる大きな音が聞こえてきた。


ズシン。


ズシン。


ビアンチが振り返る。


そこには――巨大な狼がいた。


「……」


しばらく、ビアンチは無言になった。


「……大きいですね」


『初見の反応w』

『でかいよな』

『神狼さんお久しぶりです』

『相変わらずデカい』


神狼はゆっくりとビアンチを見る。


そして、鼻を近づける。


すん。


すんすん。


ビアンチが少し後ろへ下がる。


「……?」


神狼はさらに近づいた。


すん。


すんすん。


「ちょっと待ってください。何を嗅いでいるんですか?」


神狼はしばらくビアンチの周囲を歩き――


「ふむ」


低い声が響いた。


「貴様、怪しい匂いがする」


「…………」


ビアンチが固まった。


『wwwww』

『きたw』

『神狼しゃべったw』

『ビアンチ初対面だからな』

『神狼さん通常運転』

『怪しい匂い認定w』


「……今、この狼が喋りました?」


「うん」


ティニアが普通に答える。


「神狼、喋るよ?」


「いや、そういうことではなく……」


ビアンチが神狼を見る。


神狼もビアンチを見る。


「本当に喋りましたよね?」


「喋ったな」


「…………」


『そこ確認するんだw』

『目の前で返事されてるぞ』

『エキドナの広報なのに知らなかったのか』

『情報不足だぞビアンチ』


「……では、質問します」


ビアンチはすぐに取材モードへ戻った。


「神狼さん。なぜ私を怪しいと?」


「エキドナの広報を名乗っているからだ」


「そこですか!?」


ティニアが笑う。


「神狼もビアンチさん怪しいって思ったんだね!」


「うむ」


「なんで?」


「エキドナにいる者は、大抵どこか怪しい」


「なるほど!」


「納得しないでください!」


『神狼、分かってるw』

『正しい認識』

『エキドナの身内に言われてるの草』

『ビアンチ同盟結成』

『怪しい者同士』


「そもそも私はエキドナの広報になった覚えが――」


「でも広報だよね?」


ティニアが首を傾げる。


「……そういう扱いになっています」


「じゃあ広報だ!」


「あなたまで断定しないでください」


ティニアは楽しそうに笑っている。


その横で、神狼が再びビアンチの匂いを嗅いだ。


すん。


「……ふむ」


「まだ何かありますか?」


「妙な匂いがする」


「それはさっき聞きました」


「ナナリーの匂いもする」


「!?」


ビアンチの表情が変わった。


『!?』

『wwwww』

『神狼すげえ』

『ナナリー回の影響だw』

『完全にファンの匂い』

『神狼の嗅覚どうなってんだよw』


「……それは、どういう意味でしょうか」


「知らん」


「知らないんですか!?」


「だが、確かにする」


ビアンチは少し黙った。


「……ナナリーさんの取材もしましたから」


「そうか」


神狼は納得したように頷いた。


「ならば問題ない」


「何が問題だったんですか?」


「怪しい匂いがしただけだ」


「結局そこに戻るんですか!」


ティニアが神狼の首元を撫でる。


「神狼、ビアンチさん気に入ったんじゃない?」


「そうなの?」


ビアンチが聞き返す。


神狼は少し考える。


「……まあ、悪くはない」


「それはどうも……」


「ただし怪しい」


「評価が下がってませんか!?」


『神狼の評価w』

『悪くはない+怪しい』

『最高評価じゃん』

『ビアンチ、神狼に認められたな』

『本人は全然嬉しくなさそう』


ティニアが笑いながらビアンチの袖を引っ張る。


「じゃあ、神狼と遊ぼう!」


「私は調査を――」


「ほら!」


「ちょっと待ってください!」


ティニアが神狼の前へ行く。


「神狼、いつものやって!」


「いつもの?」


ビアンチが聞く。


神狼はティニアを見ると、少しだけ姿勢を低くした。


「乗るか?」


「乗る!」


「待ってください」


ビアンチが慌てる。


「それは大丈夫なんですか!?」


「大丈夫だよー」


ティニアはあっという間に神狼の背中へ乗った。


『始まったw』

『ティニア強い』

『普通に乗るんだな』

『神狼でかいからな』

『ビアンチが一番心配してる』


「じゃあ行くよー!」


神狼がゆっくり歩き出す。


ティニアは楽しそうに笑っている。


「もっと速く!」


「分かった」


「待ってください! 配信中ですよ!?」


神狼が少し速度を上げる。


ビアンチはその横を追いかける。


「ちょっと! 私は取材側なんですが!」


『ビアンチ走れw』

『調査員が一番動いてる』

『今日の調査対象、神狼とティニアじゃなくてビアンチになってない?』


神狼が急に止まった。


ビアンチも止まる。


「……?」


神狼が振り返る。


「乗るか?」


「乗りません」


「そうか」


神狼はまた歩き出した。


「即答w」

『神狼さん容赦ない』

『ビアンチ、完全に遊ばれてる』


するとティニアが神狼の背中から顔を出す。


「ビアンチさんも乗ればいいのに!」


「私は結構です!」


「楽しいよ?」


「仕事ですから!」


「じゃあ仕事として乗れば?」


「どういう理屈ですか!?」


『ティニア無敵w』

『広報の仕事の範囲が広すぎる』

『神狼取材なら乗る必要あるかもしれん』

『ないw』


ビアンチはしばらく神狼を見つめた。


そして、諦めたようにため息をつく。


「……一度だけですよ」


「やったー!」


ティニアが喜ぶ。


神狼が戻ってくる。


ビアンチは恐る恐る神狼の背中に手を置いた。


「……本当に大丈夫なんでしょうね?」


「大丈夫だ」


「なら……」


ビアンチが乗る。


神狼はゆっくり立ち上がった。


「うわっ……」


思った以上の高さに、ビアンチが声を漏らす。


ティニアが笑う。


「高いでしょ?」


「……高いですね」


「神狼、ちょっと走って!」


「分かった」


「待っ――」


神狼が走り出した。


「うわあああああっ!?」


『wwwww』

『ビアンチwww』

『今日一番面白い』

『調査どころじゃない』

『神狼めっちゃ楽しそう』

『ティニアも楽しそうで草』


しばらくして、神狼が止まった。


ビアンチは神狼の背中にしがみついたまま、荒い息を吐いている。


「……」


「大丈夫?」


ティニアが心配そうに見る。


「……大丈夫です」


ビアンチはゆっくり顔を上げた。


「非常に……貴重な体験でした」


『お?』

『ちょっと楽しんでない?』

『顔が嬉しそう』

『神狼ファンになったか?』


「ただし!」


ビアンチがカメラを見る。


「これはあくまで調査です!」


『はいはい』

『出た』

『今日もそれ』

『エキドナ怪しいです、だろ?』


ビアンチは少し黙った。


神狼が横から顔を出す。


「エキドナ、怪しいな」


「……」


ビアンチが神狼を見る。


そして、カメラを見る。


「……エキドナ、怪しいです」


『神狼に言われたから言ったw』

『今日は共同戦線かよ』

『広報と神狼の意見が一致した』

『でも楽しそうだったぞ』

『ビアンチ、完全にエキドナに馴染んできてる』


ティニアが笑う。


「また遊ぼうね、ビアンチさん!」


「……取材としてなら」


「神狼も!」


「もちろんだ」


「じゃあ次はもっと速く走ろう!」


「それは困ります!」


『次回決定w』

『ビアンチ逃げられない』

『もうエキドナの一員じゃん』

『広報のお仕事頑張ってください』


ビアンチは最後まで困った顔をしていた。


ただ――


その表情は、いつもの「エキドナは怪しい」という顔よりも、少しだけ楽しそうだった。


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