ビアンチ トライアングルを調査
翌週。
情報塔の画面に、いつもの告知が表示された。
『エキドナ徹底調査! 今回はアイドルユニット「トライアングル」を紹介します』
『エキドナ公式広報・ビアンチ』
配信が始まる。
「皆さん、こんにちは。エキドナ公式広報のビアンチです」
『もう普通に名乗ってる』
『広報慣れてきたな』
『最初は嫌がってたのに』
「……いえ、まだ納得したわけではありません」
『まだ言うのかw』
「ですが、今回は広報として重要な仕事があります」
ビアンチが少し真面目な顔になる。
「エキドナには、様々な活動があります」
「研究、魔道具、冒険者活動、商品開発、情報関係……」
「そして今回は、その中でも少し変わった活動をご紹介します」
画面が切り替わる。
「こちらです」
『トライアングル』
『おお!』
『来た!』
『トライアングル回!』
『ナナリーいる!?』
「エキドナ所属のアイドルユニット、トライアングルです」
ビアンチがエキドナのレッスン室へ入っていく。
そこには、三人の少女がいた。
「こんにちは!」
ナナリーが笑顔で手を振る。
「マドカです」
「アリシアです」
「そして、ナナリーです!」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
ビアンチも頭を下げる。
「本日はトライアングルについて、色々とお聞きしたいと思います」
「はい!」
ナナリーが元気よく返事をする。
「まずは、メンバー紹介からお願いしてもいいでしょうか?」
「もちろんです!」
ナナリーがマドカを指す。
「まずはこちら、マドカちゃん!」
「私?」
「トライアングルの大事なメンバーです!」
「大事じゃないメンバーなんていないよ」
マドカが苦笑する。
『マドカちゃん』
『いつもの』
『この二人の距離感いいな』
ビアンチも頷く。
「マドカさんについては、私も知っています」
「ゴールで何度もお見かけしていますし、エキドナの活動を調べていれば名前が出てきますからね」
「そうなんだ」
「はい。色々な活動をされていますよね」
「そうかな?」
「そうですよ」
『広報、マドカはちゃんと知ってる』
『ゴール調査してたからな』
「では、次はアリシアさん」
「はい」
アリシアが軽く頭を下げる。
「私も知っています」
「私も?」
「はい。ゴールで活動されている姿を何度か見ています」
「なるほど」
『アリシアも知ってる』
『そりゃゴール調査してたもんな』
ビアンチは二人を見て頷いた。
「では、最後に――」
ナナリーを見る。
「……こちらの方は?」
「ナナリーです!」
「はい。ナナリーさんですね」
「はい!」
「……」
ビアンチが少し考える。
「すみません。私は存じ上げないのですが」
「…………え?」
ナナリーの笑顔が止まった。
コメント欄が爆発する。
『は?????』
『ナナリー知らないの!?』
『おい広報!!』
『ナナリー様だぞ!?』
『色欲の聖女だぞ!!』
『トライアングルのメンバーだぞ!!』
『何を調査してきたんだビアンチ!』
『ナナリーガチファンだけどこれは許せん』
『いや活動地域が違うから仕方ないだろ』
『でも知らないのは衝撃だわ』
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ビアンチが慌てる。
「私は主にゴール周辺を中心に調査していたんです!」
『言い訳してるw』
「ナナリーさんについても、これからちゃんと調べます!」
「……」
ナナリーがじっとビアンチを見る。
「私、結構有名だと思ってたんですけど……」
マドカが横から言う。
「ナナリー、有名だよ?」
「ですよね!?」
アリシアも頷く。
「私もそう思います」
「ですよね!」
ナナリーがぱっと笑顔を取り戻す。
『マドカちゃんありがとう』
『アリシアありがとう』
『本人に言わせるなw』
『ナナリー様は有名です』
「では、改めて」
ビアンチが頭を下げる。
「ナナリーさんについても、今回しっかり紹介していただければと思います」
「もちろんです!」
ナナリーが笑顔になる。
「私、歌ったり踊ったりするのが大好きなんです!」
「なるほど」
「そして、トライアングルでは三人で歌ったり踊ったりしています!」
「活動頻度はどのくらいなんですか?」
「三人の予定が合うときですね」
マドカが答える。
「ナナリーが色欲から転移して来られるときに、三人で活動しています」
「なるほど。常に一緒に活動しているわけではないんですね」
「そうですね」
「でも、トライアングルは現在も活動中です!」
ナナリーがすかさず言う。
『解散してないよ!』
『ちゃんと現役!』
『ナナリー来られるときは活動してる』
「それでは、せっかくですので」
ビアンチが少し緊張した様子で言う。
「実際の歌とダンスを見せていただくことはできますか?」
「もちろんです!」
ナナリーが即答する。
「じゃあ、いきましょう!」
三人が並ぶ。
マドカ。
アリシア。
ナナリー。
音楽が流れ始めた。
三人が息を合わせて動き出す。
マドカの動きは軽やかで、アリシアは丁寧に振りを合わせる。
そしてナナリー。
歌いながら踊り、時折カメラへ視線を向ける。
にっこりと笑って、手を振る。
画面越しに見ているビアンチが、いつの間にか黙っていた。
『ビアンチ?』
『固まってるぞ』
『おーいw』
『ナナリーのファンサ受けてる』
『目が完全にファン』
『広報仕事しろ』
曲が終わる。
三人が最後のポーズを決める。
「ありがとうございました!」
ナナリーがカメラに向かって手を振る。
「どうでしたか?」
「…………」
ビアンチはしばらく何も言わなかった。
「ビアンチさん?」
「……すごい」
「ありがとうございます!」
ナナリーが笑う。
「歌も踊りもすごいですが……」
ビアンチが真剣な顔で続ける。
「ナナリーさん、ものすごくカメラを見ますね」
「え?」
「ずっとこちらを見ていた気がします」
「ファンサですよ!」
ナナリーが笑顔で答える。
「見てくれている人に、ちゃんと楽しんでもらいたいですから!」
「なるほど……」
ビアンチが頷く。
「……これは」
「はい?」
「これは、かなり強いですね」
『完全に落ちた』
『ビアンチファン化』
『広報がファンになってるw』
ナナリーがカメラに向かって、もう一度手を振る。
「ビアンチさんも、また見に来てくださいね!」
「……はい!」
即答だった。
『即答www』
『お前ファンになっただけだろ!』
『広報じゃなくてファン!』
『ナナリーガチ勢、仲間が増えたぞ』
『ビアンチさんようこそ』
「……」
ビアンチは少し我に返ったように咳払いする。
「いえ、これはあくまで広報として――」
『はいはい』
『広報広報』
『顔が嬉しそうだぞ』
「……エキドナ、怪しいです」
『何がだよw』
ビアンチは真剣な表情を作る。
「こんな魅力的なアイドルを所属させているエキドナが、まだ私の知らないことを隠している可能性があります」
『言い訳始まった』
『ただのファンです』
『ナナリーさんのこともっと知りたいだけだろ』
「なので私は――」
ビアンチがナナリーを見る。
「ナナリーさんのことを、もっと知らなければ」
『お前ファンになっただけだろ!!』
『完全にファンじゃんw』
『広報終了』
『ナナリーの勝ち』
『ビアンチ、ようこそ』
ナナリーが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、次も来てくださいね!」
「はい!」
『また即答www』
マドカとアリシアが顔を見合わせて笑う。
「ビアンチさん、ナナリーのファンになったね」
「そうですね」
「違います!」
ビアンチが慌てて否定する。
「私はあくまで、エキドナ公式広報として――」
『もう遅い』
『次回もナナリー出してやって』
『広報さん、頑張って』
配信終了。
その日の配信コメント欄には、いつもとは違うコメントが一つ増えていた。
『ナナリーさんの次の出演予定、どこで確認できますか?』
『お前じゃん』
『ビアンチ本人だろ』
『広報権限で調べるなw』




