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落内円は落ちている  作者: 七風


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アンチVSマドカ

「では、今回は――」


配信者がカメラに向かって話し始める。


「これまで調べてきたゴールについて、いよいよ本人に話を聞いてみたいと思います」


『来た』


『マドカ回』


『ついに元凶登場』


『本人は何も知らなそう』


「元凶ってなんですか……」


配信者がコメントを見て苦笑する。


その横で、マドカが首を傾げた。


「私、何かした?」


『した』


『めちゃくちゃした』


『ゴールの始まり』


「?」


マドカは本気で分かっていないらしい。


配信者は少し笑ってから、最初の質問を投げた。


「では、そもそものところから聞きましょう。マドカさん。どうしてゴールに住むことになったんですか?」


「新しい拠点が必要になったから」


「新しい拠点?」


「うん」


マドカは少し考える。


「みんなで暮らすには、それまでいた場所だと色々足りなくなってきたんだよね」


『あー、そこからか』


『ゴールって最初からゴールじゃなかったんだな』


「アリシアが来たり、グレタが鍛冶場を欲しがったりして」


「ああ、グレタさんの鍛冶場」


「ちゃんとした鍛冶場が欲しいって言ってたから」


マドカは当時を思い出すように続ける。


「それなら、みんなで暮らせる場所を探したほうがいいかなって」


「それが土地探しの始まり?」


「そう」


『なるほど』


『ここ重要だった』


『今までのゴール調査で聞いてきた話が繋がった』


「でも、普通なら便利な場所を探しますよね?」


「私は便利じゃなくてもよかったよ」


「なぜです?」


「人が少ないほうがよかったから」


『出たw』


『今のゴールから想像できない理由』


「静かなところがよかったんだよね」


「それで王様に?」


「うん。王様に、安くて、広くて、人があまり来なさそうな場所を探してもらった」


『要求が田舎暮らしガチ勢』


『王様への土地の頼み方じゃないw』


「普通はもっと便利な場所を欲しがるものだと思いますが」


「でも、ニコラが転移装置を作ってたから」


「ああ……」


「王都まで遠くても、転移できるなら困らないし」


『それで立地を気にしなかったのか』


『転移装置があるなら確かにそうだ』


『普通の町作りとは発想が違う』


「だから、あの場所じゃなきゃ駄目だったってわけじゃないよ」


「では、ゴールの土地を見たときは?」


「普通に、引っ越し先だね」


「町を作ろうとは?」


「思ってない」


『www』


『知ってた』


『ここまでの調査が一気にひっくり返った』


配信者は苦笑する。


「では、土地を購入したときのことを教えてください」


「お姉ちゃんが買ったよ」


「リゼットさんが?」


「うん。土地代はお姉ちゃんが払った」


「かなりの金額だったと聞いています」


「二十五億金貨だったかな」


『二十五億』


『また出た』


『規模が違う』


「お姉ちゃん、昔ずっと王宮の相談役をやってたから、そのときのお給料で払ったんだって」


「それで二十五億を……」


「お姉ちゃんは『安いわね』って言ってた」


『www』


『二十五億を安いって言うな』


『リゼットさんの金銭感覚どうなってるんだ』


「ただ、土地を買っただけではないんですよね?」


「うん」


マドカは頷く。


「後から王国に『返して』って言われたら困るから、そこは最初にちゃんと決めたよ」


「契約を?」


「そう」


「具体的には?」


「王様と話して、この土地は王国の中にあるけど、所有してるのは私たちっていう契約にした」


『ここ大事』


『土地の所有権をちゃんと確定させたのか』


「王様とは、どんな話をしたんです?」


「えっと……」


マドカは少し考えてから、当時の会話を思い出すように話し始めた。


「まず、ここを買いたいですって言った」


『シンプルw』


「王様に『本当にここでいいのか?』って聞かれて」


「それで?」


「『人が少ないほうがいいです』って」


『王様困ってそう』


『普通の土地交渉じゃないw』


「王様も『普通はもっと便利な場所を欲しがるものだが』って言ってた」


「でしょうね」


「だから私は、『ここなら好きに暮らせる?』って聞いた」


「王様は?」


「『王国の法に従う限りは』って」


「なるほど」


「だから、『じゃあ、土地についてもちゃんと決めておきたい』って言って」


マドカはそこで一度言葉を切った。


「『この土地はエキドナが所有することにしてほしい。あとから返してって言われるのは困るから』って」


『ちゃんと交渉してる』


『マドカ、そこはしっかりしてる』


『リゼットに全部任せたわけじゃないんだな』


「王様は?」


「『そこまで疑う必要があるか?』って」


「まあ、そう言いますよね」


「だから、『疑ってるんじゃなくて、最初に決めておきたいだけです』って」


『強い』


『13歳の土地交渉とは思えない』


「それで契約を作ったんだよ」


「つまり、土地代を支払ったのはリゼットさん。そして、王様との交渉と契約の内容を決めたのはマドカさん?」


「うん」


マドカはあっさり頷いた。


「お姉ちゃんがお金を出して、私が話をした感じ」


『役割分担が完璧』


『ここ曖昧にしたらダメなところだな』


「なるほど……」


配信者は一度頷いてから、次の質問へ移った。


「では、土地を手に入れた後は?」


「みんなで住めるようにしたよ」


「最初から現在のゴールくらいの広さだったんですか?」


「ううん」


「最初はどのくらい?」


「私たちと、一緒に開拓してた人たちが住めるくらい」


「一緒に開拓していた人たち?」


「うん。昔から一緒にやってた人たち」


「何人くらいです?」


マドカは少し考える。


「三十人くらいの集まりが、いくつかあったかな」


『最初から結構いる』


『それでも今より全然小さい』


「みんなで家を作ったり、道を作ったりして」


「マドカさん自身も?」


「もちろん」


「何をしてたんです?」


「家のこととか、生活に必要なものを作ったり」


「例えば?」


「料理とか、裁縫とか」


「開拓以外も?」


「うん。みんなが生活しやすいように色々」


マドカは特別なことを話しているつもりもなさそうに続ける。


「外壁を作ったり、住める家を作ったり、道路を作ったり。井戸とか水路も作ったし」


「森を切り開いたりも?」


「そうそう」


「村と村を繋ぐ道も?」


「作ったよ」


『それ普通に町作りでは?』


『本人だけ自覚がない』


『「色々やった」の規模じゃないw』


「でも、その時点では?」


「まだ町を作ろうとは思ってなかったよ」


「じゃあ何をしていたんです?」


「暮らしてた」


『究極の回答』


『開拓しながら暮らしてた』


「それだけ?」


「うん」


配信者は少し苦笑した。


「では、マドカさんがゴールでしていたことを、もう少し聞かせてもらってもいいですか?」


「いいよ」


「料理や裁縫以外には?」


「Tシャツを作ったり」


『出た』


『ゴール名物』


「ぬいぐるみを作ったり」


『それもか』


「あと、色々思いついたものを作ってもらったり」


「誰に?」


「ニコラに」


『www』


『やっぱりニコラ』


「例えば?」


「モンバトとか」


コメント欄が一気に流れる。


『来た』


『モンバト!?』


『ゴールで生まれたの!?』


『マドカ発案だったのか』


「モンバトのアイデアって、マドカさんが出したんですか?」


「うん」


「どうして?」


「みんなで遊べるものがあったら面白いかなって」


「それでニコラさんに?」


「こういう感じのものが作れない?って話したら」


「はい」


「ニコラが『作れるよ~』って」


『ニコラw』


『いつもの流れ』


『マドカが思いつく→ニコラが作る』


「そこからモンバトが?」


「うん」


「現在ではゴールだけじゃなく、国中で遊ばれてますけど……」


「便利だよね、モンバト」


「そこなんですか?」


「うん」


『本人が一番どうでもよさそうw』


『モンバト誕生秘話がこの温度差』


「他にもマドカさんのアイデアから作られたものは?」


「いっぱいあると思う」


「思う?」


「ニコラとかキャサリンが色々作ってるから」


「全部把握してないんですか?」


「してないよ」


『www』


『発明者が一番把握してない』


「でも、マドカさんが教えた技術も多いんですよね?」


「みんなだよ」


「エキドナの皆さんが?」


「うん」


「どういうことです?」


「生きていくのに必要だったから」


マドカは不思議そうに答える。


「料理ができる人が料理を教えたり、鍛冶ができる人が鍛冶を教えたり、魔法が使える人が魔法を教えたり」


「つまり、エキドナの皆さんがそれぞれ持っている知識や技術を、住民に教えていた?」


「そうだよ」


「マドカさんは?」


「私も教えられるものは教えた」


「料理、裁縫、物作り……」


「うん」


「それに色々なアイデア」


「そうだね」


『これ、ゴールの生活文化にエキドナがかなり関わってるな』


『でも本人は「みんなだよ」で終わらせる』


『町を作った自覚が本当にない』


「では、そんな生活をしている中で、周辺の村から助けを求められた?」


「そうそう」


「そこで、合流することに?」


「私が『合併したら?』って言った」


『軽いwww』


『町の拡張理由、それ?』


『「合併したら?」で町が拡大』


「もっと大きな計画があったわけでは?」


「ないよ」


「本当に?」


「うん」


「じゃあ、周辺の村が加わっていって、人口が増えて、お店も増えて――」


「そういう感じ」


「今のゴールになった?」


「たぶん」


『たぶんw』


『自分の町の歴史なのに』


「でも、住民が自分たちで店を作ったり、仕事を始めたりしたんですよね?」


「うん」


「マドカさんが全部決めたわけではない?」


「全然」


マドカは即答する。


「住んでる人たちが好きなものを作ってたから」


「お店が増えたら?」


「嬉しいよね」


「新しい仕事ができたら?」


「いいことだと思う」


「それを支援したりは?」


「必要なら手伝うけど、基本的には自分たちでやってるよ」


『ここが今のゴールに繋がってるんだな』


『エキドナが全部管理してる町じゃない』


『土地の所有者と町の運営者が別なんだ』


「では、エキドナはゴールを運営しているわけでは?」


「運営は町の人たちに任せてるよ」


「土地はエキドナの所有なのに?」


「うん」


「では、移住してきた人たちとは?」


「配信とかで仲良くなれたらいいかなって思うけど……」


マドカは少し考える。


「町の人に会いに行くとか、そういう時間はあんまりないし」


『忙しいんだな』


『本人も拠点でやることいっぱいあるもんな』


「それに、住んでる人たちが自分たちでやってることに対して、私が『ありがとう』って言われても困るよね」


『www』


『そこまで言うかw』


『でもマドカらしい』


「むしろ、こっちがありがとうって言いたいくらいだよ」


「え?」


「だって、私たちが最初に住み始めただけで、そこから町を大きくしてくれたのは住んでる人たちだから」


『あー』


『この考え方なんだな』


『「みんなで作った町」ってことか』


配信者は少し考えてから、さらに質問した。


「では、ゴールという名前については?」


「ああ」


マドカが少し考える。


「なんか、そうだった気がする」


「どういう意味なんです?」


「スローライフのゴール地点」


『おお』


『ちゃんと意味あった』


「田舎でゆっくり暮らして、釣りとかして」


「そのための場所だった?」


「そう」


「でも、現在のゴールはかなり大きな町になっています」


「そうだね」


「今のゴールを見て、どう思います?」


「便利だね」


「……それだけですか?」


「うん」


『www』


『マドカらしい』


『壮大な町になったのに「便利」』


「では最後に」


配信者が少しだけ真面目な声になる。


「マドカさん自身は、ゴールを自分が作った町だと思っていますか?」


「え?」


マドカは首を傾げた。


「私が?」


「はい」


「違うんじゃない?」


『来た』


『この答え』


「だって、引っ越した先が勝手に大きくなっただけでしょ?」


『wwwww』


『出た』


『14回やってきたゴール調査、本人の認識これかよw』


『田舎に住みたかっただけ』


『モンバトまで作ってるのに』


『本人「便利だね」』


配信者はカメラを見つめたまま、しばらく黙っていた。


「……つまり」


「うん?」


「ゴールは、最初はエキドナの新しい拠点として作られて」


「そうだね」


「マドカさんたちが土地を開拓して、家や道路や水路を作って」


「うん」


「その中で、料理や鍛冶、魔法などの技術が広がって」


「そうそう」


「マドカさんが新しい遊びを考えたり、ニコラさんがそれを形にしたり」


「うん」


「周辺の村が合流して」


「うん」


「住民が自分たちで店や仕事を作って」


「そう」


「気がついたら、今のゴールになっていた」


「そういうことじゃない?」


『完璧なまとめ』


『本当にそれだけだった』


『壮大な町の歴史なのに始まりが「田舎に住みたい」なの笑う』


『しかもモンバトまで途中で生まれてる』


『ゴールの歴史=エキドナの生活史でもあるんだな』


配信者は少し笑った。


「では、最後に一つだけ」


「なに?」


「ゴールを作ったのは誰だと思います?」


マドカは少し考えた。


「……みんなじゃない?」


『来た』


『それだよ』


『住民もエキドナも全部含めて』


「エキドナでは?」


「私たちはきっかけだよ」


マドカは迷うことなく答える。


「最初に住み始めて、必要なものを作って、色々教えたりしただけ」


「でも、そこから町にしたのは?」


「住んでる人たち」


「マドカさん自身は?」


「私も住民の一人でしょ?」


『www』


『最後まで本人が自分を特別扱いしない』


『でも発端ではあるんだよな』


『本人「きっかけ」』


「……ありがとうございました」


「どういたしまして」


マドカが笑う。


そして、少ししてから首を傾げた。


「で、これ何の配信?」


『wwwww』


『今それ聞く!?』


『ゴール研究です』


『本人が最後まで知らないw』


『お前の町だよw』


『いや、本人は町を作ったと思ってないんだろうな』


配信者は思わず吹き出した。


「……ゴールについて調べる配信です」


「そうなんだ」


『そうなんだじゃないw』


『14回分の結論それ!?』


『田舎に住みたかった』


『↓』


『拠点を作った』


『↓』


『モンバトまで生まれた』


『↓』


『村が合流した』


『↓』


『町になった』


『↓』


『本人「便利だね」』


マドカは流れていくコメントを眺めながら、楽しそうに笑っている。


「でも、ゴールが大きくなったのは嬉しいよ」


「……そこは嬉しいんですね」


「うん」


マドカは少しだけ考えてから、続けた。


「だって、みんなが楽しそうに暮らしてるから」


『あ』


『それはマドカらしい』


『結局そこなんだな』


『町を作った自覚はなくても、住んでる人が幸せなのは嬉しい』


「じゃあ、本当に最後に」


配信者がカメラに向き直る。


「ゴールは誰が作ったのか――」


「みんな」


マドカが先に答えた。


「私たちが始めて、住んでる人たちが大きくしてくれた町」


「……なるほど」


配信者が頷く。


「それが、ゴールなんですね」


「うん」


マドカは笑った。


「私としては、ただの引っ越し先だったんだけどね」


『www』


『最後までそれかw』


『ゴール研究、完結』


『お疲れ様でした』


『面白かった』


『マドカ本人に聞くの大正解だったな』


こうして、長々と続いたゴールの調査は――


一番の当事者によって、あまりにもあっさりと締めくくられた。


ただし、その本人だけは最後まで。


自分がゴールの「始まり」にいたことを、少しも大げさには考えていなかった。


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