アンチVSグレタ
「では、次の方を呼びますわ」
リゼットが廊下の先へ声をかける。
「グレタ」
「ん?」
少しして、グレタがやってきた。
「なんだ?」
「こちらの方が、ゴールについて取材をしています」
「そういうことか」
グレタは配信者を見る。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
『グレタだ』
『鍛冶担当きた』
『これはゴールの話聞けそう』
「リゼットさんから、一番ちゃんと答えてくれそうな人だと伺いました」
「……あいつ、余計なこと言ってねえだろうな」
『www』
『すでに不安そう』
「では、さっそく」
配信者が質問する。
「グレタさんは、ゴールの住民に鍛冶を教えていたんですよね?」
「ああ」
「どうして教えることになったんですか?」
「武器も道具も必要だったからな」
「それだけですか?」
「それだけだ」
『シンプルw』
『エキドナ回答がみんな必要だから』
「最初から鍛冶ができる人がいたわけでは?」
「いたぞ」
「え?」
「昔から鍛冶をやってた家もあった。俺が教えたのは、そういう連中をさらに鍛えたり、今まで鍛冶をやってなかった奴に基礎を教えたりだ」
『おお』
『ゼロから全部作ったわけじゃないんだ』
「ゴールには、もともと職人の家系が?」
「鍛冶だけじゃねえぞ」
グレタは指を折る。
「木工、農業、魔法、冒険者、建築、商売……いろいろだ」
「それは、昔から?」
「昔の村にいた奴らの話ならな」
「なるほど」
グレタは少し考えてから続ける。
「だから、エキドナが全部作った町ってわけじゃねえ」
『ここ重要』
『ゴール住民側にも元々技能があった』
『エキドナが伸ばした感じか』
「エキドナはきっかけを作っただけですか?」
「きっかけっていうか……」
グレタは腕を組む。
「使える環境を用意したんだろ」
「環境?」
「材料がある。教えてくれる奴がいる。道具もある。売る場所もある」
「それなら、自分でやってみようとなる?」
「そういうことだ」
『なるほどなあ』
『教えただけじゃなく、仕事になる環境まであったわけか』
「実際、グレタさんに教わった人たちは?」
「店をやってる奴もいる」
「ゴールの鍛冶屋として?」
「ああ」
「では、グレタさんの弟子が、そのままエキドナの仕事をしている?」
「別にエキドナの仕事じゃねえぞ」
「え?」
「自分の店で、自分の仕事をしてる」
『またこれだ』
『エキドナ所属じゃなくてもいい』
『ゴールの人間として独立してるんだな』
「そういうのは、エキドナとしては?」
「知らねえよ」
「え?」
「売れるなら売ればいいだろ」
グレタはあっさり言った。
「俺が教えたからって、ずっと俺の弟子でいる必要もねえしな」
「かなり自由ですね」
「自由っていうか、普通だろ」
『www』
『グレタの普通』
『この町、普通の基準がおかしい』
配信者が笑う。
「では、逆にグレタさんから見て、ゴールの鍛冶屋はどうですか?」
「どうって?」
「技術的に」
「ああ」
グレタが少し考える。
「まだ伸びるな」
『お』
『厳しい』
「ただ、悪くはねえ」
『珍しく褒めた』
「材料がいいからな。腕が上がれば、もっと面白いものが作れる」
「では、これからさらに成長する可能性が?」
「そりゃあるだろ」
グレタは当然のように答えた。
「俺だって最初から今みたいに作れたわけじゃねえ」
『グレタにも新人時代がある』
『当たり前だけどなんか意外w』
「エキドナの技術を学んだ住民が、将来的にエキドナよりすごいものを作る可能性も?」
「あるんじゃねえか?」
「あるんですか?」
「何でないと思うんだよ」
『www』
『グレタ先生』
『こういうところ好き』
「エキドナが教えた技術だから、エキドナを超えちゃいけない、みたいなことは?」
「ねえよ」
即答だった。
「そもそも、俺たちがそんなこと気にしてどうすんだ」
『かっこいい』
『競争相手を育てることを気にしてない』
『むしろ育てたい側か』
「なるほど……」
配信者は少し考えた。
「では、グレタさんにとってゴールは?」
「……住んでる場所だな」
「それだけ?」
「ああ」
グレタは周囲を見る。
「店もある。仕事もある。飯も食える。人もいる」
そして、少しだけ笑った。
「俺が鍛冶やってられるなら、それでいいだろ」
『いい答えだな』
『町ってそういうもんかも』
『ゴール研究家、今日かなり良い話聞いてる』
「ありがとうございました」
「おう」
グレタが去っていく。
配信者はしばらくその背中を見送った。
「……エキドナの人たちって」
「何か?」
リゼットが聞く。
「自分たちが町を作った、という意識があまりないんですね」
「ありませんもの」
リゼットは即答した。
「私たちが住みやすいようにしていたら、人が増えただけですわ」
「それでも、結果として大きな町になっています」
「ええ」
「それについては?」
「別に?」
『www』
『リゼットw』
「大きくなったものを、今さら小さくする必要もないでしょう?」
「確かに……」
「それに」
リゼットが配信者を見る。
「ここまで育てたのは、住民たち自身ですわ」
『おお』
『リゼットからそれ聞けるのいいな』
『エキドナだけの町じゃないってことか』
「私たちは最初のきっかけを作っただけ」
リゼットはそう言って、廊下の先を見る。
「今のゴールを作っているのは、あそこに住んでいる人たちですもの」
配信者は、しばらく黙っていた。
そしてカメラに向かって言う。
「……ゴール研究、まだまだ奥が深そうです」
『まだ続くのかw』
『もう完全にシリーズ化してる』
『次は誰だ』
『ヒナタ聞きたい』
『キャサリンも』
『町長本人も聞いてくれ』
『町長回ほしい』
配信者はコメント欄を見て笑った。
「……町長さんにも、話を聞いてみますか」
リゼットが頷く。
「それがいいでしょうね」
こうして次の取材先は、ゴールの町長に決まった。




