アンチVSニコラ
「では……」
配信者はカメラを向けた。
廊下の先から歩いてきたのは、ニコラだった。
「ん~?」
ニコラは配信者を見る。
「誰~?」
「先ほど許可をいただいて、本邸の取材を――」
「あ~、あの人ね~」
ニコラはリゼットを見る。
「入れていいの~?」
「私が許可しました」
「じゃあいいんじゃない~?」
『軽いw』
『本邸なのに判断が軽い』
『ニコラだ』
「では、さっそく質問しても?」
「いいよぉ~」
「ありがとうございます」
配信者が少し姿勢を正す。
「まず、エキドナの皆さんは普段、何をしているんですか?」
「研究~」
「研究……ですか」
「うん~」
「具体的には?」
「いろいろ~」
「……」
『またそれかw』
『リゼットと同じ回答』
『エキドナの基本語彙:いろいろ』
「魔道具を作ったり~、新しいもの考えたり~、実験したり~」
「なるほど」
「あと、壊したり~」
「壊す?」
「実験でね~」
『物騒w』
『でもニコラならありそう』
「では、エキドナの活動で一番大きいものというと?」
「う~ん……」
ニコラが少し考える。
「最近だと、ヒロバトかな~」
『来た』
『ヒロバト』
『ゴール研究家、そこ聞いてくれ』
「ヒロバトというのは、エキドナの新商品ですよね?」
「そうだよぉ~」
「どういう発想から作ったんですか?」
「面白そうだったから~」
「……それだけですか?」
「それだけ~」
『www』
『天才の回答』
『技術者が「面白そう」で作るなw』
「ただ~」
ニコラが続ける。
「私たちが作るものって、だいたいそんな感じだよぉ~」
「なるほど……」
「作りたいから作る~。便利そうなら使う~。面白そうなら遊ぶ~」
「それで商品になるんですか?」
「売れるならね~」
『エキドナの商売哲学w』
『研究者なのか商人なのか分からん』
配信者が少し考える。
「では、ゴールの町を大きくしようと思って活動しているんですか?」
「ん~?」
ニコラが首を傾げる。
「別に~?」
「え?」
「ゴールを大きくしようとしてるわけじゃないよぉ~」
「では、なぜここまで町が?」
「必要だったから~」
『出た』
『これだよな』
『ゴールの成長理由、だいたいこれ』
「研究する場所が必要」
「うん~」
「鍛冶場が必要」
「うん~」
「畑が必要」
「うん~」
「人が増えた」
「そうだね~」
「店も必要になった」
「そうそう~」
「……結果的に町になった?」
「そんな感じ~」
配信者はカメラを見る。
「……非常にエキドナらしい話が聞けました」
『分かる』
『計画都市じゃなかった』
『必要だから作ったら町になった』
『ゴールって本当にそんな感じなんだな』
「でも~」
ニコラが思い出したように言う。
「最初に田舎で暮らしたいって言ったのはマドカだよぉ~」
「マドカさんが?」
「うん~」
『www』
『原因そこか』
『田舎暮らししたかった少年』
『そして町になった』
「本人は今どう思ってるんですか?」
「さあ~?」
ニコラが笑う。
「聞いてみれば~?」
「そうですね」
配信者が周囲を見る。
「マドカさんは今どこに?」
「知らない~」
「……」
『www』
『本邸なのに誰も把握してない』
『自由すぎる』
リゼットが横から口を挟む。
「マドカなら、そのうち戻ってくるでしょう」
「そうなんですか?」
「ええ」
「探さなくても?」
「探す必要があります?」
『リゼットw』
『信頼がすごい』
「では、次の質問です」
配信者が気を取り直す。
「エキドナの皆さんは、ゴールの住民に技術を教えていると聞きました」
「うん~」
「それは今も続いていますか?」
「もちろん~」
ニコラは少しだけ真面目な顔になる。
「魔道具を作りたいなら教えるし~、作れるようになったら自分で店をやればいいし~」
「エキドナに所属しなくても?」
「当たり前じゃん~」
『おお』
『ここ大事』
『エキドナ所属じゃなくても技術を使える』
「私たちが全部やってたら疲れるからね~」
『理由w』
「それに~」
ニコラは肩をすくめた。
「自分で作れる人が増えたほうが面白いでしょ~?」
「なるほど」
配信者は頷いた。
「では、ゴールの住民にとってエキドナとは――」
「先生だったり~」
ニコラが指を折る。
「取引相手だったり~」
もう一本。
「ご近所さんだったり~」
さらに一本。
「変なもの作ってる人たちだったり~」
『最後www』
『一番しっくりくる』
『ゴール住民から見たエキドナ』
「……かなり自由なんですね」
「うん~」
ニコラが笑う。
「私たちも自由だし、ゴールの人たちも好きにすればいいんじゃない~?」
「なるほど……」
配信者が少し考える。
「ありがとうございました」
「どういたしまして~」
ニコラがそのまま去っていく。
『え、終わり?』
『ニコラあっさりw』
『もっと聞きたい』
『次は誰だ』
配信者も少し名残惜しそうにニコラの背中を見る。
「……もう少し質問したかったですね」
「なら、別の人に聞けばいいでしょう」
リゼットが言う。
「エキドナには、他にも人がいるんですから」
「そうですね」
配信者がカメラを見る。
「次は別の方にも話を聞いてみたいと思います」
『誰だろ』
『グレタ来い』
『キャサリンも聞きたい』
『ヒナタも頼む』
『マドカは?』
『ガブちゃんは本邸にいないだろw』
配信者はコメント欄を見て笑った。
「では、次回は――」
リゼットが先に言う。
「私が選びましょうか?」
「……お願いします」
『え』
『リゼットが選ぶの?』
『誰が来るんだ』
リゼットは少し楽しそうに笑った。
「あなたが聞きたいことに、一番ちゃんと答えてくれそうな人を呼びますわ」
『怖いw』
『誰だよw』
配信者は、少しだけ身構えた。
「……よろしくお願いします」
本邸の取材は、まだ始まったばかりだった。




