アンチVS立ち入り禁止
「……では」
配信者は、本邸の前に立っていた。
「ついに来ました」
『おおお』
『本邸だ』
『総合エキドナ館とは違うぞ』
『本当に許可取れたんだな』
「先日、取材許可をいただきましたので」
配信者は少し緊張した様子で扉を見る。
「では、入りましょう」
扉が開く。
「いらっしゃい」
出迎えたのはリゼットだった。
「どうも。今日はよろしくお願いします」
「ええ」
リゼットは配信者を見て、それからカメラを見る。
「先に言っておきますけど」
「はい」
「ここは本邸です」
「……はい?」
「総合エキドナ館ではありません。商品を並べて、誰でも好きに見て回れる場所ではないということです」
『www』
『最初から釘刺された』
『リゼットさん圧あるな』
「もちろん分かっています」
「本当かしら?」
「……分かっています」
「ならいいです」
リゼットはさっさと歩き出した。
「見せられる場所なら、好きに見ていいですよ」
「ありがとうございます」
「ただし、見せられない場所まで見ようとしたら止めます」
「はい」
『完全に監督役』
『許可を出した側だからなw』
配信者が中へ入る。
「こちらは?」
「居間です」
「撮影しても?」
「構いません」
『おお』
『普通に見せてくれる』
配信者がカメラを向ける。
「なるほど……本邸らしいですね」
「当たり前でしょう。家なんですから」
『正論w』
「では、次に――」
廊下の先に目を向ける。
「こちらは?」
「研究室です」
「見ても?」
「駄目です」
「即答!?」
『www』
『そりゃそうだ』
『研究室はアウト』
「何を研究しているんです?」
「あなたに説明する必要があります?」
「……ありません」
「でしょう?」
リゼットは何でもないことのように言う。
「では、次へ行きましょう」
『強い』
『リゼットさん、客に遠慮がないw』
『でも筋は通ってる』
配信者は別の方向を見る。
「では、こちらは?」
「倉庫です」
「撮影は?」
「駄目です」
「中には何が?」
「いろいろです」
「具体的には?」
「だから、倉庫です」
『www』
『説明になってないw』
『でも聞く必要ないんだよな』
「では、あちらは?」
「駄目です」
「まだ何も聞いてませんよ!?」
「聞く前に止めておいたほうがよさそうでしたから」
『wwww』
『完全に読まれてる』
『ゴール研究家、信用されてない』
「私はただ、本邸について調査を――」
「調査すること自体は許可しています」
リゼットが足を止める。
「ただし、あなたが調査していい範囲までね」
「……はい」
「勘違いしないでくださいな」
リゼットは少しだけ笑った。
「取材を許可したからといって、本邸をあなたに公開したわけではありません」
『うわw』
『リゼットさん強い』
『でもこれは正しい』
「ここは私たちの家です。研究区画も、個人の部屋も、見せる必要のない場所もあります」
「分かりました」
「最初から分かっていてください」
『www』
『怒られてるw』
『ゴール研究家、撃沈』
「……以後、気をつけます」
「そうしてください」
リゼットは満足したように頷いた。
「では、食堂でも見ますか?」
「あ、お願いします」
「厨房も構いませんよ。邪魔をしないなら」
「ありがとうございます」
『おお』
『見せてもらえる場所も結構あるな』
「客間もいいでしょう」
「本当に?」
「ええ。客間を隠す理由もありませんから」
配信者は少し安心した様子で頷く。
「なるほど……」
しばらく歩いたところで、また一つ扉を見つける。
「では、こちらは――」
「駄目です」
「まだ聞き終わってません!」
『wwww』
『もう癖になってる』
『リゼットさんも絶対楽しんでるだろ』
「あなた、本当に懲りませんね」
「いや、気になったので……」
「気になるのは結構です」
リゼットはさらりと言った。
「でも、全部見られると思わないことですわ」
「……はい」
『完全敗北』
『本邸取材なのに半分くらい止められてるw』
『でもリゼットが許可した範囲ならちゃんと見せてくれてる』
配信者はカメラに向かって苦笑する。
「皆さん」
『はい』
「本邸は、思った以上に見せてもらえない場所が多いです」
「当然でしょう?」
横からリゼットが言う。
「あなたの家でも、知らない人に全部見せたりしないでしょう?」
『正論』
『何も言えない』
『ゴール研究家、常識を学ぶ』
「……その通りです」
「なら、分かったところで次へ行きましょう」
リゼットは再び歩き出した。
「せっかく来たんですから、メンバーにも話を聞いてみればいいでしょう」
「いいんですか?」
「ええ」
「誰に話を聞けますか?」
「その辺にいる人でいいでしょう」
「その辺にいる人って……」
『エキドナらしいw』
『扱いが雑』
「本人に聞いたほうが、あなたの知りたいことも分かるでしょう」
「確かに」
そのとき。
廊下の向こうから声がした。
「リゼット~、それ誰~?」
リゼットが振り返る。
「あら」
そして配信者を見る。
「ちょうどいいですね」
「え?」
「あなた、質問したいのでしょう?」
「はい」
「なら、本人にどうぞ」
『来た!』
『誰だ!?』
『ニコラ来い』
『マドカ来い』
『ガブちゃんだったら笑う』
配信者が廊下の先へカメラを向ける。
「では……次はエキドナのメンバーに直接話を聞いてみたいと思います」
『おおおお!』
『次回楽しみ』
『本丸取材きたな』
その横で、リゼットは満足そうに笑っていた。




