アンチVSエキドナ館
「さて」
配信者は、巨大な建物を見上げていた。
「今回は、ここです」
画面に映っているのは、ゴールの中心部にある大きな建物。
「総合エキドナ館です」
『おお』
『来たか』
『エキドナ館だ』
『でかいな』
「最初に言っておきますが、ここはエキドナの本邸ではありません」
配信者が建物を指差す。
「エキドナの本邸は別の場所にあります。ここは一般の人も普通に利用できる、いわばデパートのような商業施設です」
『そうそう』
『本邸とは別』
『ここ普通に買い物できる場所だからな』
『猫カフェもあるぞ』
「今回は、ゴールの商業について調べる一環として、こちらを見て回ります」
『ゴール研究家の聖地』
『また研究するのか』
「誰がゴール研究家ですか」
『本人以外全員そう思ってる』
「……では、行きましょう」
自動扉が開く。
中へ入った瞬間、配信者が少し驚いた。
「……広い」
『デパートじゃん』
『普通に人多いな』
『エキドナの商品いっぱいあるぞ』
館内には様々な店が並んでいた。
衣類。
武具。
魔道具。
食品。
美容用品。
そして、エキドナに関係する様々な商品。
「なるほど……」
配信者が店内を見回す。
「本当に何でもありますね」
『エキドナのデパート』
『だいたい揃う』
「では、まず衣類から――」
そこで、壁に並んだTシャツが目に入った。
「……なんでしょう、これ」
白いシャツ。
胸元には、大きく日本語が書かれている。
『無敵』
「……」
『出た』
『マドカのTシャツ』
『意味分からないけど着てる人多いぞ』
「この文字、何と読むんです?」
近くにいた客が答えた。
「分からない」
「分からない?」
「でも格好いいから着てる」
『www』
『意味不明でもデザインとして成立してる』
「なるほど……」
配信者は真剣な顔でTシャツを見る。
「意味が分からなくても売れる、と」
『そこ研究するなw』
『また研究が始まった』
「これはゴールの商業を考えるうえで重要な――」
『ただのTシャツだぞ』
「……次へ行きます」
その隣には、最近増えたばかりの商品が並んでいた。
ナナリー関連グッズ。
三人組ユニットのグッズ。
モンバトとヒロバトのコラボ商品。
「おお……」
『ナナリーグッズだ』
『ユニットグッズもある』
『この辺最近増えたよな』
「ナナリーさんは、こちらでも人気なんですね」
店員が笑う。
「はい。最近特に増えました」
「なるほど」
配信者は商品を一つ手に取る。
「そしてこちらは……モンバトとヒロバトのコラボ」
『今のエキドナって感じする』
『両方持ってる人多いぞ』
『ヒロバト発売前からコラボ商品あるの面白い』
「商品展開まで広いですね……」
配信者が感心していると、別の売り場が目に入った。
「……EV?」
そこにはEV本体と、撮影用カメラが並んでいた。
『あるぞ』
『EV売ってるw』
『そりゃ総合エキドナ館だし』
「これ、最近かなり普及してますよね」
『配信者なら持ってそう』
『お前も使ってるだろ』
「……」
配信者がカメラを見る。
「これは、私が今使っているものと同じ型ですね」
『持ってんじゃん』
『愛用者』
『エキドナ製品ユーザー』
「だからといってエキドナを全面的に支持しているわけではありませんよ」
『誰も聞いてない』
『また始まった』
配信者は無視して先へ進む。
そして、ある店の前で足を止めた。
「……モンバトのデータ販売?」
『おお』
『ここ来たか』
『外の店より強いデータあるぞ』
「強いデータ?」
店員が説明する。
「はい。通常の店舗では扱っていない、より強力なモンスターのデータもあります」
「……」
配信者の目が変わった。
『あ』
『食いついた』
『モンバト好きだったっけ?』
『この人、結構やるぞ』
「具体的には?」
「こちらですね」
店員がデータ一覧を見せる。
配信者が黙って画面を見る。
数秒後。
「……なるほど」
『何がなるほどなんだ』
『急に専門家』
「このデータ構成なら、特定の相手に対してかなり有効ですね」
『詳しいw』
『お前ほんとにアンチか?』
『ゴール研究家からモンバト研究家になってるぞ』
「私は調査をしているだけです」
『はいはい』
『調査でモンバトデータを見る男』
『そのうちエキドナ商品レビュー始めそう』
配信者は少しだけ悩んだ。
「……ちなみに」
店員を見る。
「これ、一つ購入できますか?」
『買うんかいwww』
『調査とは』
『ついに購入者側へ』
「調査のためです」
『絶対嘘』
『ゴール研究家、エキドナ館で買い物』
『記念すべき第一号』
「違いますからね!」
その後も配信者は館内を歩き続けた。
美容用品を見て。
食品売り場を見て。
魔道具を見て。
そして――
「猫カフェ……」
『来た』
『絶対入る』
『調査終了のお知らせ』
「……ここも見ておきましょう」
『絶対猫見たいだけだろ』
「施設の調査です」
配信者はそう言いながら、猫カフェの入口へ向かった。
「では、総合エキドナ館の調査を続けます」
『絶対猫と遊ぶぞ』
『もう研究家でいいよ』
『ゴール研究家、次はどこへ行く?』
配信者はコメント欄を見ながら苦笑した。
「……次回は、まだ決めてませんよ」
その言葉とは裏腹に。
配信画面には、猫を見つけた配信者の足が止まる様子が映っていた。




