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落内円は落ちている  作者: 七風


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アンチVS商業ギルド

「……というわけで」


EVの画面に、もう見慣れた男が映っていた。


『来た』


『五話目w』


『もう誰もアンチ配信だと思ってない』


『今日もゴール調査か』


「うるさい!」


男が机を叩く。


「今回はゴールの商売について調べる!」


『前回の予告通り』


『ちゃんと続けてるの偉い』


『もうゴールのこと好きだろ』


「それは違う!」


『はいはい』


『ツンデレ』


「誰がツンデレだ!」


男は咳払いをする。


「前回、冒険者ギルドを調べた」


「そこで分かったのは、ゴールには珍しい素材が多く、エキドナが作るものも多いということだ」


『確かに』


『魔道具とか普通に売ってるし』


『鍛冶屋も多い』


「では、それを誰が売っているのか?」


『エキドナじゃないの?』


『ニコラが店番してるの見たことないぞ』


『それは絶対嫌がるだろw』


「というわけで!」


男が指を立てる。


「今日は商業ギルドに来た!」


画面が切り替わる。


ゴールの商業ギルド。


男が建物の中へ入っていく。


「こんにちは」


「はい、こんにちは」


受付の職員が顔を上げる。


「ゴールの商業ギルドについて聞きたい」


「どうぞ」


「ここでは何をしている?」


「商品の売買に関する仲介や、商人同士の取引、店舗の登録などですね」


「普通だな」


『普通の商業ギルドだからな』


『何を期待してるんだよ』


「では、ゴールの商業ギルドは、いつできた?」


「町が大きくなり始めてからですね」


「最初からあったわけでは?」


「もちろんありません」


職員は笑う。


「そもそも、最初は売るものを大量に作る人間も、買いに来る商人もほとんどいませんでしたから」


『そりゃそうだ』


『開拓村跡地だもんな』


「では、なぜ商業ギルドが必要になった?」


「エキドナの商品です」


『やっぱりエキドナw』


『またエキドナが原因』


「エキドナが作った商品が売れるようになった」


「はい」


「それならエキドナが直接売ればいいのでは?」


職員は少し考え、


「……エキドナの皆さんに商売をさせたいですか?」


『www』


『絶対嫌だろ』


『ニコラが死ぬ』


「いや、俺は知らないが……」


「研究したり、物を作ったり、町のことを手伝ったりしていますからね」


「なるほど」


『忙しすぎる』


『そりゃ商売までやってられん』


「だから、商業ギルドが間に入った?」


「そうです」


「エキドナが作る」


「私たちが販売を支える」


「分業か」


「簡単に言えばそうですね」


男は少し頷いた。


「では、ゴールの店はエキドナの商品ばかりなのか?」


「いいえ」


即答だった。


『お』


『ここ重要』


「ゴールには、エキドナとは関係なく商売をしている店もたくさんあります」


「例えば?」


「食料品店、衣料品店、家具、道具、冒険者向けの商品、日用品などですね」


『普通に町じゃん』


『エキドナタウンじゃなかった』


『何度目だこの流れ』


男は少し苦笑する。


「では、その店をやっている人たちは、どこから来た?」


「元々この辺りに住んでいた人もいます」


「周辺の村から来た人も」


「そして、ゴールができてから移住してきた人もいます」


『やっぱり混ざってるんだな』


『一年でそこまで増えたのすごいな』


「さらに、エキドナから技術を教わって、自分で店を始めた人もいます」


「なるほど」


男が興味深そうに身を乗り出す。


「それ、具体的には?」


「例えば鍛冶です」


「グレタから?」


「はい」


「教わった人が、自分で鍛冶屋を?」


「そうです」


『弟子が独立したのか』


『それなら店が増えるわけだ』


『エキドナが全部作ってるわけじゃないんだな』


「農業もそうです」


別の職員が口を挟む。


「ヒナタさんから教わった方法を使って、農業を始めた人もいます」


「魔道具は?」


「ニコラさんやキャサリンさんから教わった人たちがいます」


『めちゃくちゃ先生やってるじゃん』


『エキドナ学校説、また出てきた』


『これ一年でやったの?』


「そうです」


職員は頷く。


「もちろん、全員がエキドナの弟子というわけではありません」


「そこは重要だな」


「元々技術を持っていた人が、それを発展させた場合もあります」


『前回の話と繋がった』


『元々の技術+エキドナの技術か』


「そういうことです」


男は少し考える。


「つまり、ゴールの商品って――」


『何?』


「エキドナ製品だけじゃない」


『そうだな』


『住民が作ったものもある』


『普通の商店街みたいになってる』


「そうです」


職員が答える。


「だから商業ギルドとしても、エキドナの商品だけを扱っているわけではありません」


「町で作られたものを、町の外へ売る」


「それも商業ギルドの仕事です」


「なるほど」


男は少し納得した顔になる。


「では、商人がゴールに来る理由は?」


「商品の品質です」


「品質?」


「エキドナが作ったものだけではありません」


職員が続ける。


「ゴールで作られたものは、全体的に品質が高いんです」


『町全体の技術水準が高いのか』


『一年なのに?』


『元々の技術者が集まって、そこにエキドナの技術が入ったからか』


「そうですね」


「だから商人が来る」


「はい」


「商品を買う」


「はい」


「そして売る」


「はい」


『なんか普通に経済の話になってるw』


『ゴール経済講座』


『アンチさん、もう商業の勉強してるじゃん』


「……」


男はコメント欄を見つめる。


「俺はエキドナを調べていたはずなんだが」


『結果ゴールの勉強になってる』


『でも面白いだろ?』


「……まあな」


『認めたw』


男は少しだけ笑う。


「それにしても……」


男が商業ギルドの外を見る。


通りには、様々な店が並んでいる。


鍛冶屋。


衣料品店。


魔道具店。


食料品店。


冒険者向けの道具を扱う店。


そして、エキドナとは関係なく営業している普通の店。


「これだけの店が、一年で?」


「はい」


「すごいな……」


『ゴールすごい』


『最初は何もなかったんだよな』


『今じゃ普通に商店街』


『住民が頑張った結果なんだな』


男は少し黙った。


「……なるほど」


そして、何かを思いついたように顔を上げる。


「じゃあ、ゴールで商売を始めたい人はどうする?」


「町役場で手続きをしていただいて――」


「待て」


男が遮る。


「また町役場か?」


『www』


『万能役場』


『また仕事増える』


「最初の頃は、何でも町役場でしたから」


職員が苦笑する。


「今は商業ギルドでできることも増えています」


「なるほど」


「今後はもっと分担していく予定です」


『町が成長してる』


『一年目だから制度がまだ発展途中なんだな』


『最初から完成された町じゃないんだ』


男はしばらくコメント欄を眺めていた。


そして、小さく笑った。


「……そういうことか」


『何が?』


「俺、ゴールがエキドナに作られた町だと思っていた」


「でも違うんだな」


「エキドナがきっかけを作った」


「住民が集まった」


「それぞれが技術を持ち寄った」


「教わった人間が新しい店を始めた」


「商人が商品を外へ売った」


「その積み重ねで、今の町になった」


『だいぶ理解してきたな』


『もうアンチじゃなくてゴール研究家』


『次は何調べるんだ?』


男はコメント欄を見る。


『エキドナの研究施設』


『鍛冶場』


『魔道具』


『転移装置』


『町の学校』


『あと、なんでこの町だけこんなに変なものが多いのか』


「……」


男が黙る。


『おい』


『また始まるぞ』


『次回予告しろ』


男は頭を抱えた。


「……まだ調べることがあるじゃないか」


『あるな』


『いっぱいある』


『五話で終わるわけない』


「……」


男はしばらく悩んだあと、顔を上げた。


「次回も調べる」


『知ってたw』


『もう毎週これでいい』


『普通に楽しみになってきた』


『アンチさん頑張って』


「だからアンチさんって呼ぶな!」


男の叫び声とともに、配信が終了した。


その夜。


ゴールの商店街では、今日の配信を見た店主たちが話していた。


「うちの店も紹介されてたな」


「エキドナとは関係ない店って言われてたぞ」


「実際そうだろ」


「まあな」


「でも、グレタさんに教えてもらった技術は使ってる」


「うちもだ」


「じゃあ、やっぱりエキドナとは関係あるんじゃないか?」


「……そう言われると、少しあるな」


そんな会話をしながら、店主たちは笑った。


ゴールはまだ一年しか経っていない。


だからこそ、この町の形はまだ完成していない。


エキドナが作ったもの。


住民が作ったもの。


昔から受け継いできたもの。


新しく生まれたもの。


それらが混ざり合いながら、今日も少しずつ町が大きくなっていた。


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