アンチVS受付
「……というわけで」
EVの画面に、またしてもいつもの男が映っていた。
『来た』
『まだ続いてるw』
『もう四話目だぞ』
『三部作とは何だったのか』
「うるさい!」
男が机を叩く。
「今回で一つ、はっきりさせる!」
『何を?』
「ゴールの冒険者ギルドだ!」
『来たか』
『前回から気になってた』
『なんであんなに小さいんだよ』
「そう!」
男は勢いよく指を立てた。
「町の規模を考えたら、どう考えても小さい!」
『普通の町のギルドくらいあると思ってた』
『初めて来たときびっくりした』
『受付何人いるんだっけ?』
「というわけで、今日は実際に行ってきた!」
画面が切り替わる。
そこには、ゴールの冒険者ギルドが映っていた。
「……」
男が建物を見上げる。
「やっぱり小さいな」
『失礼w』
『ギルドに直接言え』
『中はもっと普通だぞ』
男が扉を開ける。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
受付から声が返ってくる。
男が周囲を見回した。
「……」
『どうした』
『何かあった?』
「冒険者ギルドって、こんなに静かだったか?」
『ゴールだからな』
『昼間はこんなもん』
『依頼は町役場にもあるし』
「そこだ!」
男が受付へ向き直る。
「なぜ依頼が町役場にあるんですか?」
「最初は、冒険者ギルドそのものが今ほど必要とされていなかったからですね」
受付の職員が答える。
「この地域は、もともと大規模な開発地域ではありませんでしたから」
「つまり?」
「冒険者ギルドを大きくする理由がなかったんです」
『なるほど』
『開拓地だったからか』
『町になる前からの名残なんだな』
「でも今は町ですよね?」
「はい」
「しかも結構大きい」
「そうですね」
受付の職員が少し苦笑する。
「なので、今は町役場の方が大変になっています」
『www』
『やっぱり』
『町役場かわいそう』
「冒険者ギルドとしては?」
「もっと大きくした方がいいと思っています」
『拡張するのか』
『普通のギルドになる?』
「その話は進んでいます」
男は頷いた。
「では、もう一つ聞きたい」
「どうぞ」
「なぜ最初から大きな冒険者ギルドを置かなかった?」
受付の職員は少し考える。
「……この土地を開発したのはエキドナです」
「そうですね」
「ですが、エキドナが最初から外部の冒険者を大量に呼び込もうとしたわけではありません」
『確かに』
『自分たちで魔物倒せるもんな』
「それに、周辺にはかなり良い素材が取れます」
「素材?」
「魔物から取れるものもそうですし、植物や鉱物などもあります」
「それなら冒険者が殺到しそうですが」
「実際、後から増えました」
『やっぱりw』
『そりゃ来るよな』
『素材目当ての冒険者いそう』
「ただ、最初の頃はそうではなかった」
受付の職員は続ける。
「周辺の村の人たちは、自分たちだけでは魔物に対処できませんでした」
「だから冒険者を呼ぶ必要があった?」
「そうです」
「でもギルドがなかった」
「なので、町役場で依頼を受け付ける形になりました」
『役場万能すぎる』
『何でも屋じゃん』
『住民登録! 土地! 行政! 冒険者依頼!』
『仕事増やすなw』
男も呆れた顔になる。
「町役場、大丈夫なのか?」
「正直、大丈夫ではないですね」
『本人が言ったw』
『ギルド拡張急げ』
「だからこそ、今後は冒険者ギルドに仕事を移していく予定なんです」
「なるほど」
男は少し納得した。
「では、現在のゴール周辺の魔物は?」
「強いですよ」
受付の職員は即答した。
「王都周辺とは比べない方がいいです」
『またこの話かw』
『王都の魔物弱い問題』
「でも、エキドナの人たちは?」
「……比較対象にしないでください」
『正論』
『ギルド職員が分かってるw』
「エキドナの方々からすると、素材を取りに行く感覚でしょうから」
「やっぱりそうなのか」
「はい」
『基準がおかしい』
『ゴール周辺の魔物、普通の冒険者には普通に危険なんだな』
『エキドナがおかしいだけ』
男は掲示板を見た。
そこには、いくつもの依頼が並んでいる。
「魔物討伐」
「素材採取」
「護衛」
「調査」
「……普通の冒険者ギルドじゃないか」
『そりゃそうだろw』
『何を期待してたんだ』
「いや、もっと特殊なのかと思っていた」
受付の職員が笑う。
「ゴールだからといって、冒険者まで特殊になるわけではありませんよ」
『正論w』
『町としては普通なんだよな』
『周りがおかしいだけ』
「では、ゴールの冒険者たちは?」
「普通に冒険者です」
「エキドナの所属者ではない?」
「もちろん違います」
『また出た』
『エキドナ所属じゃなくても普通に活動できる』
「冒険者として稼いで、店を持つ人もいます」
「なるほど」
男は少し考える。
「……ゴールって、本当に普通の町になってるんだな」
『今さらw』
『四話目だぞ』
『気づくの遅い』
「うるさい!」
男がコメント欄を睨む。
「最初は、エキドナが町を全部管理していると思っていた」
「でも違った」
「土地を持っている人間と、町を運営する人間も違う」
「冒険者もエキドナとは関係なく活動している」
「商人もそう」
『ようやく理解したな』
『成長した』
『アンチ卒業?』
「それとこれとは別だ!」
男は即答した。
『出たw』
『そこは変わらない』
『安心した』
男は少し笑ってから、掲示板に目を向ける。
「……でも、一つ気になるな」
『何?』
「この町、冒険者向けの依頼が多いのに、どうして商人も職人もこんなに多いんだ?」
『確かに』
『素材が良いからじゃない?』
『エキドナの技術があるからだろ』
『その辺はまだ調べてないな』
「……」
男が黙る。
『おい』
『その顔やめろ』
『また続くぞ』
「……次回」
『やっぱりw』
「ゴールの商売について調べる」
『五話目決定』
『もう普通にシリーズじゃん』
『アンチさん頑張って』
「だからアンチさんって呼ぶな!」
男が叫ぶ。
「そもそも俺はエキドナを調べるために始めたんだぞ!」
『ゴールを調べてるじゃん』
『ゴール=エキドナだけじゃないって分かったからな』
『むしろエキドナ以外の話が増えてる』
「……」
男はしばらく黙った。
「……まあ、それもそうだな」
『認めたw』
『今日の収穫』
『一歩前進』
男は苦笑する。
「では今回はここまで!」
「次回は――」
少しだけ間を置いて、
「ゴールの商売について調べる!」
『楽しみ』
『もう普通に見るわ』
『アンチ配信なのにゴール紹介番組』
『次も待ってる』
「だからアンチ配信だって!」
画面が暗くなる。
配信終了。
その日の夕方。
ゴールの冒険者ギルドでは、いつも通り冒険者たちが依頼を受けていた。
「この依頼、町役場に出してたやつだな」
「そうそう。こっちに移ってきたら楽なのにな」
「町役場も大変らしいからな」
「そのうちギルドが大きくなるって話だろ?」
「ああ」
冒険者たちはそんな話をしながら、それぞれの依頼へ向かっていく。
まだ小さな冒険者ギルド。
けれど、それもまた一年の間に大きくなってきたゴールの一部だった。




