勇者モンバトにハマる
「……よし」
勇者はモンバトの画面を見ながら頷いた。
「次のデータを探すか」
最近の勇者は、すっかりモンバトにハマっていた。
最初は暇潰しだった。
ところが、モンスターのデータを集め始めると止まらなくなった。
「このモンスターも持ってない」
「こっちもだ」
「地域限定まであるのか……」
気づけば、旅の目的の一つがモンバトのデータ収集になっていた。
「……そうだ」
勇者は地図を広げる。
「困っている人を助けながら旅をすれば、いろんなモンスターに出会える」
「勇者様」
仲間が呆れた顔をする。
「それ、普通に人助けをすればいいんじゃないですか?」
「違う」
勇者は即答した。
「モンバトのためだ」
「…………」
それでも、勇者が町に入ると自然と依頼が集まった。
「森に入った商隊が戻ってこないんです!」
「分かった。案内してくれ」
「ありがとうございます!」
「あと、森にいるモンスターは?」
「……え?」
「いや、なんでもない」
森へ向かえば、当然モンスターが出てくる。
「一体目!」
勇者が倒す。
「データ登録!」
「勇者様! 商隊の捜索が先です!」
「ああ、分かってる!」
商隊を見つけた後も――。
「もう一種類いた!」
「そこなんですね……」
別の日には、畑を荒らすモンスターの退治を頼まれた。
「任せろ」
「本当に助かります!」
「ちなみに、出てくるモンスターは全部倒していいか?」
「……もちろんですけど」
「よし!」
そしてまたデータが増える。
迷子の子供を探してほしいと言われたときも同じだった。
「勇者様!」
「分かってる!」
「子供を先に!」
「分かってるって!」
モンスターを倒しながら森を進み、無事に子供を見つける。
「ありがとうございました!」
「よかったな」
勇者は頷く。
そしてモンバトを見る。
「……五種類増えた」
「勇者様」
「なんだ?」
「最近、依頼を受ける理由が全部モンバトになってませんか?」
「そんなことはない」
「では、さっきの迷子探しは?」
「人助けだ」
「畑の依頼は?」
「人助けだ」
「商隊の捜索は?」
「人助けだ」
「終わった後にデータを確認していたのは?」
「…………」
勇者はモンバトを見る。
「データ収集だ」
「そこは認めるんですね……」
そんな勇者の噂は、少しずつ町に広がっていった。
「勇者様に頼めば、困りごとを解決してくれるらしいぞ」
「森のモンスター退治もしてくれた」
「迷子探しまで?」
「商隊の護衛もだ」
「なんでそんなに働いてるんだ?」
「さあ?」
本人は知らない。
いや、知っていても気にしない。
「勇者様!」
今日も町の人間が集まってくる。
「今度はうちの店を!」
「俺のところにも!」
「森の調査を!」
「荷物運びを!」
「…………」
勇者は少し考えた。
「全部やろう」
「全部!?」
「どうせ旅をするんだ」
勇者はモンバトを取り出す。
「ついでにデータも集められる」
「結局それか!」
こうして。
勇者は世界を救う旅の途中で、なぜか町の便利屋になっていった。
本人だけは、最後まで認めなかった。
「俺は勇者だぞ」
そう言いながら。
今日もまた、モンバトのデータを求めて依頼を受ける。
「……次はどんなモンスターがいるかな」
その目は、魔王を探していたときよりも輝いていた。




