ガブちゃん 村を観光
「さて……」
村の通りを歩きながら、ガブリエルは周囲を見回していた。
「この地には、まだ我々の知らぬ場所があるようですわね……」
「そうよ」
ティニアが満足そうに頷く。
「この村は広いから、まだまだ見どころがあるわよ」
『ガブちゃんもう始まってるw』
『順応したなあ』
『さっきまで困惑してた王女とは思えない』
『ティニア嬉しそうで草』
「まずはあちらへ向かいましょう」
ティニアが指差した先には、露店が並んでいた。
「市場よ!」
「なるほど……」
ガブリエルが目を細める。
「では、この村の商人たちが何を扱っているのか……この目で確かめてみますわ!」
『言い方w』
『完全に村のノリ覚えてる』
『「この目で確かめてみますわ!」じゃねえよw』
二人が市場へ入る。
店先には野菜や果物、パンなどが並んでいる。
「おや」
店主が二人を見る。
「旅の者か」
「ええ」
ガブリエルが胸を張る。
「我々は、この地に秘められしものを求めて参りましたわ」
ティニアが横でニヤニヤしている。
店主は真剣な顔で一つの赤い野菜を取り上げた。
「ならば見せよう……」
「!」
「この地の大地より生まれし、赤き果実を」
「……トマトですわね」
「そうだ」
「普通のトマトですわ!」
『wwwww』
『ガブちゃん冷静w』
『でも言い方は完全に村人』
『もう半分村人だろ』
店主は気にせず続ける。
「しかし、ただ食べるだけではない」
「ほう……」
ガブリエルが興味深そうに身を乗り出す。
「塩を振るのだ」
「……」
ガブリエルが黙る。
ティニアが肩を震わせている。
「なるほど……」
ガブリエルがゆっくり頷く。
「禁断の赤き果実に、塩という新たなる力を与えることで……その味を引き出すのですわね」
「そうだ」
「……奥が深いですわ!」
『乗ったwww』
『そこまで言う料理じゃねえw』
『ガブちゃん楽しんでるだろ』
『ティニア笑いこらえてるw』
「では一ついただきますわ!」
「毎度あり」
「……」
ガブリエルがトマトを受け取る。
「我が旅路に、新たなる力が加わりましたわ」
『もうダメだw』
『トマト一個でここまで壮大になるの草』
市場を抜けると、今度は武器屋が見えてきた。
「次はこちらね!」
ティニアが入っていく。
店主が二人を見る。
「……武器を求めるか」
「ええ!」
ガブリエルが一歩前に出る。
「我らの旅に相応しき力があるのなら、見せていただきたいですわ!」
『ガブちゃんノリノリじゃんw』
『王女どこ行ったw』
『いや王女なのはそのままなんだよなw』
店主が一本の剣を取り出す。
「これを見よ」
「……!」
ガブリエルが目を輝かせる。
「これは……」
「この村に古くから伝わる――」
「おいくらですの?」
「銀貨十枚」
「現実的ですわね!?」
『そこは現実に戻るのかよw』
『価格交渉し始めそう』
『村人もそこは普通なの草』
「ですが……」
ガブリエルが剣を見つめる。
「この剣に宿りし力……確かに感じますわ」
「分かるか」
「ええ」
「ならば、この剣を――」
「買いませんわ」
「なぜだ」
「モンバトのカードを買うお金が必要ですもの!」
『wwwww』
『結局モンバト』
『ガブちゃんそこだけ現実w』
『王女の趣味が強い』
ティニアが腹を抱えて笑う。
「もう、ガブちゃん最高!」
「何ですの!」
「いや、ちゃんとこの村のノリに合わせながら、最後だけいつものガブちゃんなんだもの!」
「……ふふ」
ガブリエルも笑った。
「ですが、せっかくですもの」
そして再び店主へ向き直る。
「その剣がいつか我が運命と交わる日が来たなら、その時は再び訪れましょう」
「……待っているぞ」
『店主も乗るなwww』
『この村全員プロだろ』
『ガブちゃん完全に楽しんでる』
二人はさらに村の中を歩いていく。
宿屋。
パン屋。
雑貨屋。
広場。
どこへ行っても、村人たちは大真面目に普通の出来事を壮大に語ってくる。
「この先にあるのは……我らが日々を癒やす場所」
「温泉ですわね?」
「そうだ」
「ならば行きましょう!」
『ガブちゃん理解が早すぎるw』
広場では、村人たちが何かをしていた。
「何をしているのですの?」
「鍛錬だ」
「何の?」
「身体を鍛えるための運動だ」
「なるほど……」
ガブリエルが腕を組む。
「では、我らもその鍛錬に参加いたしましょう!」
「ガブちゃん、何するか分かってる?」
「分かりませんわ!」
『分かってねえじゃねえかwww』
村人たちに混ざって、二人も身体を動かす。
ただの軽い運動だった。
それなのにガブリエルは妙に真剣だった。
「この程度……わたくしには造作もありませんわ!」
「いいわよ、ガブちゃん!」
「まだ終わりではありませんわ!」
『なんでこんな楽しそうなんだよw』
『完全にハマってる』
『この配信ずっと見てたい』
やがて二人は再び通りへ戻る。
ティニアがガブリエルを見る。
「どう? 面白いでしょ?」
「ええ!」
ガブリエルは満面の笑みだった。
「最初は何事かと思いましたけれど……」
少しだけ考える。
「この村では、普通の出来事にも物語を与えているのですわね」
「そういうこと!」
「それなら……」
ガブリエルが楽しそうに笑う。
「わたくしも、もっとこの世界観に合わせてみたいですわ!」
『まだやる気なのかw』
『ガブちゃん完全に気に入ってる』
『もう村から出したくないw』
ティニアも嬉しそうに笑った。
「じゃあ次は、もっと面白いところに連れてってあげる!」
「望むところですわ!」
ガブリエルが前を向く。
「我らの旅は、まだ始まったばかりですもの!」
『我らの旅www』
『完全に感染した』
『↑でもちょっと使いたくなるなこれ』
『もうコメント欄も感染してるぞ』
『我、次なる配信を待つ』
『お前ら普通に使い始めてるじゃねえかw』
二人はそのまま、村の奥へと歩いていった。




