国王がきちゃった
「……本当に来るの?」
マドカが窓の外を見る。
「来るでしょうね」
リゼットはお茶を飲んでいる。
「国王が?」
「ええ」
「わざわざ?」
「私がそう言ったもの」
「すごい……」
マドカの目が輝く。
「国王が家まで来る!」
「そこに感動しないでほしいわ」
「だって王様だよ!?」
「ただの人間よ」
「でも王様!」
「面倒な人間の代表みたいなものよ」
「言い方!」
ニコラは机から顔だけ出す。
「国王って、魔道具持ってるかな~」
「そこ!?」
「王族が使う魔道具って、一般には出回らないからね~」
「ニコラさん、ブレないね……」
◆
昼過ぎ。
研究所の前に。
馬車が止まった。
「……」
マドカが窓から覗く。
「本当に来た」
「ええ」
馬車から降りてきたのは、豪華な服を身につけた男性。
その後ろには数人の騎士。
「国王陛下がお越しです」
騎士が告げる。
国王は研究所を見る。
「ここが……」
「そうよ」
リゼットが玄関まで出てきた。
「久しぶりね、王の顔を見るなんて」
「こちらこそ」
国王は笑顔を浮かべる。
「リゼット殿」
「殿?」
「昔のようにリゼットと呼んでも?」
「嫌よ」
「……そうか」
国王は苦笑する。
「では、リゼット殿で」
「それならいいわ」
マドカが小声でニコラに言う。
「なんか普通に会話してるね」
「王様ってもっと偉そうなのかと思ってた~」
「私も」
「聞こえているぞ」
「すみません!」
マドカが即座に頭を下げる。
「いや、構わん」
国王は笑う。
◆
「まずは」
国王が頭を下げた。
「先代の件について、謝罪させてほしい」
リゼットの表情が少し変わる。
「……」
「先代があなたに無理をさせたことは、私も知っている」
「そう」
「王家のために働いてくれたあなたに対して、あまりに身勝手だった」
リゼットは黙っている。
「だから――」
国王は顔を上げる。
「今回の件を頼むのも、非常に心苦しい」
「…………」
マドカは国王を見る。
思ったよりまともな人なのかもしれない。
しかし。
「だが」
国王は続ける。
「国の一大事なのだ」
「…………」
「どうか、力を貸してほしい」
リゼットが目を細める。
「やっぱりそれね」
「すまない」
「謝っておいて頼むの?」
「……」
「随分と都合がいいわね」
国王は苦笑する。
「否定はできない」
「正直ね」
「嘘をついても、あなたには通じないだろう?」
「そうね」
リゼットは少しだけ笑った。
◆
「ところで!」
マドカが手を挙げる。
「はい?」
国王が振り返る。
「お城、見ていいですか?」
「…………」
リゼットが目を閉じる。
「マドカ」
「はい!」
「今、何の話をしていたかしら?」
「国の一大事!」
「そうでしょう?」
「でも!」
マドカは力説する。
「異世界のお城だよ!?」
国王がぽかんとする。
「……異世界?」
「あ」
マドカが口を押さえる。
「えーっと……」
リゼットが助け舟を出す。
「この子、少し変わっているのよ」
「知っている。少し変わった冒険者だとは聞いているからな。」
「知ってるんだ……」
国王が笑う。
「構わんよ」
「本当!?」
「城を見るくらいならな」
「やった!」
マドカが拳を握る。
「じゃあ――」
「ただし」
国王が指を立てる。
「立ち入り禁止区域には入らないこと」
「はい!」
「宝物庫にも入らないこと」
「はい!」
「王族の私室にも――」
「分かってます!」
リゼットが頭を抱える。
「本当に分かっているのかしら……」
◆
ニコラが恐る恐る手を挙げる。
「あの~」
「何だね?」
「王城の魔道具を見せてもらうことって、できる~?」
国王は少し考える。
「構わない」
「本当~?」
「ああ。研究者なのだろう?」
「そう~」
「ただし、壊さないように」
「分かった~」
ニコラの目が輝く。
「……王城、行く~」
「ニコラさんまで!」
「だって珍しい魔道具が見られるから~」
リゼットは二人を見る。
「……結局、私が一番付き合わされるのね」
「お姉ちゃん!」
「何?」
「一緒に行こう!」
「最初からそのつもりでしょう」
「やった!」
◆
国王は馬車へ向かう。
「では、明日」
「ええ」
「王城へ招待しよう」
リゼットが頷く。
「分かったわ」
国王は去っていく。
マドカはその後ろ姿を見ながら。
「……なんか」
「何?」
「普通にいい人だったね」
リゼットは答えない。
しばらくして。
「……まだ分からないわ」
「そっか」
「王という立場の人間は、優しいだけでは務まらないもの」
「うん」
「明日、話を聞けば分かるでしょう」
リゼットは空を見る。
「何を望んでいるのか」
そして。
翌日。
三人は――
王城へ向かうことになった。
◆
その夜。
「お姉ちゃん!」
「何?」
「明日、どんな服で行けばいいかな!?」
「普通でいいでしょう」
「王様に会うんだよ!?」
「あなたは冒険者よ」
「でもお城!」
「……好きにしなさい」
「じゃあ正装!」
「持っているの?」
「ない!」
「…………」
「買いに行こう!」
「今から!?」
「うん!」
ニコラが研究室から顔を出す。
「私は普段着でいい~?」
「いいんじゃない?」
「じゃあそれで~」
「ニコラはもう少し緊張しなさい!」
「王様より新しい魔道具のほうが興味ある~」
「重症だ……」
王城訪問を翌日に控え。
三人の中で一番緊張していたのは――
意外にもマドカだった。




