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落内円は落ちている  作者: 七風


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呼び出し?えらい奴呼んで来い

王城。


「……本当に、あのリゼットなのですか?」


 文官が恐る恐る尋ねる。


「記録を確認しました」


 国王は古い資料をめくる。


「五百年以上前から、王家に仕えていた賢者」


「はい」


「歴代の王が困ったときに相談し――」


 ページをめくる。


「魔族との戦争を止め」


 さらにめくる。


「大規模な疫病を魔法で封じ」


 さらに。


「王都の地下水路を一晩で作り替え」


 さらに。


「……先代国王の無茶な要求を拒否して、森へ引きこもった」


 部屋が静かになる。


「最後の一文だけ妙に具体的ですね」


「事実だからな」


 国王は苦笑する。


「先代は、あの賢者を便利屋か何かと勘違いしていた」


「では……」


 文官が尋ねる。


「今回は、難しいのでは?」


「なぜ?」


「……」


 国王は笑った。


「国が困っている」


「ですが、先代の件があります」


「だからこそだ」


「?」


「私は先代ではない」


 国王は立ち上がる。


「私は彼女を丁重に扱う」


「…………」


「そして、丁重に国のために働いてもらう」


「それは……」


 文官は何も言えなかった。


「まずは招待状を」


「……はい」


     ◆


 一方その頃。


「ただいまー!」


 研究所の扉が開く。


「おかえり~」


 ニコラが机から顔だけ出す。


「聞いてよ!」


「ん~?」


「昨日すごい魔物と戦った!」


「へえ~」


「リゼットが倒した!」


「へえ~」


「森ごと!」


「…………」


 ニコラの手が止まる。


「森ごと~?」


「うん!」


「どういう意味~?」


 リゼットが平然と答える。


「少し広範囲の魔法を使っただけよ」


「少し?」


「ええ」


「……森がなくなるくらい?」


「そこは結果論ね」


「怖い~……」


 ニコラは魔道具の陰に隠れた。


「私、やっぱり戦闘には参加しないほうがいい~」


「最初から参加してないじゃん!」


「そうだった~」


 マドカが笑う。


     ◆


「ところで!」


 マドカが袋を取り出す。


「お土産!」


「何~?」


「魔物の角!」


「…………」


「ニコラさん、素材欲しいって言ってたでしょ?」


「言ったけど~」


 ニコラが角を受け取る。


「これ……」


「どう?」


「かなりいい素材だね~」


 目が輝く。


「何に使おうかな~」


「また新しい魔道具?」


「そう~」


「何作るの?」


「まだ決めてない~」


「そればっかりだね!」


「素材を見ると考えたくなるんだよ~」


 ニコラは角を眺める。


「……これなら魔力伝導率を上げられるかも~」


「ほら、始まった」


 リゼットが笑う。


     ◆


 その夜。


 研究所の外。


 マドカが空を見上げる。


「平和だねぇ」


「そうね」


「なんかさ」


「何?」


「最近、毎日楽しくない?」


 リゼットは少し考える。


「……そうね」


「昔は?」


「昔?」


「森で一人で暮らしてたとき」


「静かだったわ」


「楽しかった?」


「…………」


 リゼットは空を見る。


「静かで、面倒なこともなくて」


「うん」


「誰にも頼られず」


「うん」


「誰にも命令されず」


「うん」


「……悪くなかったわ」


「じゃあ今は?」


「…………」


 リゼットは研究所を見る。


 中ではニコラが何かを作っている。


 机の上にはマドカの描いた漫画。


 床には魔道具の部品。


「……少し騒がしいわね」


「うん!」


「それに、あなたはすぐ転ぶし」


「それは関係ない!」


「ニコラは生活能力がないし」


「ひどい~」


 研究所の中から声が聞こえる。


「聞こえてるよ~」


「起きてたの!?」


「起きてる~」


 リゼットは小さく笑った。


「でも――」


「?」


「今のほうが、退屈はしないわね」


 マドカが笑う。


「でしょ!」


翌朝。


 コンコン。


 研究所の扉が叩かれた。


「はーい!」


 マドカが扉を開ける。


王家の使者が、研究所の前に立っていた。


「リゼット様。国王陛下より、王城へお越しいただきたいとのことで――」


「断るわ」


「…………え?」


 即答だった。


 騎士が固まる。


「いえ……まだ内容を――」


「関係ないわ」


 リゼットは腕を組む。


「私はもう王家に仕えていない」


「しかし、国の一大事が――」


「それはあなたたちの問題でしょう?」


「…………」


「私は百年以上、国のために働いていないわ」


 リゼットの声は静かだった。


「それでも国は滅びなかったのでしょう?」


「そ、それは……」


「なら今回も大丈夫よ」


 マドカは横で黙って聞いていた。


 いつものリゼットとは少し違う。


 笑っていない。


「そもそも」


 リゼットが続ける。


「私に用があるのなら、もっと偉い人間が自分で来なさい」


「……!」


「私は誰かに呼びつけられて動くような立場ではないわ」


 騎士は困り果てる。


「しかし……国王陛下からの正式な――」


「帰りなさい」


「…………」


「伝えておいて」


 リゼットは静かに言う。


「話があるなら、国王本人が来なさい」


「……承知しました」


 騎士は頭を下げ、去っていった。


     ◆


 扉が閉まる。


「…………」


「…………」


「…………」


 沈黙。


「お姉ちゃん」


「何?」


「行こうよ」


「……何が?」


「王城!」


「嫌よ」


「なんで!?」


「今の話を聞いていたでしょう?」


「聞いてたけど!」


 マドカは目を輝かせる。


「異世界のお城だよ!?」


「…………」


「私、異世界のお城なんて見たことない!」


「あなたは異世界から来たでしょう」


「あっ」


 マドカが一瞬固まる。


「……それでも見たい!」


「…………」


「どんなお城なんだろう」


「…………」


「城壁とか!」


「…………」


「大広間とか!」


「…………」


「王様とか!」


「…………」


「王様って、やっぱり王冠かぶってるのかな?」


「知らないわよ」


「玉座とか!」


「マドカ」


「はい」


「あなた、観光したいだけでしょう」


「うん!」


 即答。


 リゼットは頭を抱える。


「……私は国王と話をしに行くのよ?」


「私はお城を見に行く!」


「目的が違いすぎるわ」


 そこへ研究室からニコラが顔を出す。


「王城~?」


「そう!」


「へえ~」


「ニコラさんも行く?」


「貴族の使ってる魔道具とか見られるなら、行きたい~」


「ほら!」


 マドカがリゼットを見る。


「二対一!」


「…………」


 リゼットはため息をついた。


「……仕方ないわね」


「やった!」


「ただし」


 リゼットが指を立てる。


「話は私がするわ」


「うん!」


「あなたは勝手に王族に話しかけないこと」


「うん!」


「ニコラも余計なものを触らない」


「善処する~」


「信用できないわね……」


 リゼットは窓の外を見る。


「……それにしても」


「?」


「国王本人を呼びつけるなんて、随分と偉くなったものね」


 少しだけ。


 昔を思い出す。


 先代の王。


 無茶な命令。


 次から次へと押しつけられる仕事。


 そして。


 もう二度と王家とは関わらないと決めた日。


「……今度の王は、どんな人間かしら」


 マドカが笑う。


「いい人だったらいいね!」


「そう簡単にはいかないでしょうね」


「なんで?」


「王だからよ」


 リゼットは苦笑する。


「それに――」


「うん?」


「私を呼び戻したいなら、それなりの覚悟はしてもらわないとね」


 その頃。


 王城では。


「……断られました」


「そうか」


 国王は苦笑した。


「では、私が行こう」


「陛下ご自身で!?」


「ああ」


 国王は立ち上がる。


「五百年生きた賢者を相手に、使者だけで済ませようというほうが失礼だろう」


 その口元には笑み。


「それに――」


「はい」


「国の一大事だからね」


 こうして。


 王国史上でも珍しい。


国王自らが一人の冒険者を迎えに行くことになった。


 一方マドカは。


「王城! 王城!」


 完全に観光気分だった。

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