お姉ちゃん・・・ やっちゃいました~?
「昇格審査の対象になる依頼……ですか?」
ギルドの受付。
サリーが一枚の依頼書を差し出していた。
「はい。最近、北西の森で通常より強い魔物が確認されています」
マドカの目が輝く。
「強い魔物!」
「嬉しそうにしないでください」
「だって最近、簡単な依頼ばっかりだったし!」
「……あなたたちは簡単な依頼を全部終わらせてしまったんですけどね」
サリーはため息をつく。
「今回の依頼は、討伐だけではありません。異常個体の調査も含まれています」
「異常個体?」
「ええ。普通の魔物より明らかに知能が高いそうです」
リゼットが依頼書を見る。
「……知能が高い?」
「はい」
「それなら少し気をつけたほうがいいわね」
「お姉ちゃんが警戒するってことは、結構強い?」
「さあ?」
「そこは分かんないんだ……」
「会ってみないと分からないでしょう」
◆
森の奥。
「……静かすぎない?」
マドカが周囲を見る。
「そうね」
「魔物の気配がない」
「ええ」
リゼットが立ち止まる。
「――来るわ」
「え?」
木々の間。
何かが動いた。
巨大な獣。
しかし普通の魔物とは違う。
体中に黒い魔力の筋が走っている。
「……何あれ」
マドカが剣を構える。
「気をつけなさい」
「うん!」
魔物が飛びかかる。
「速っ!」
マドカが横へ跳ぶ。
地面が砕ける。
「ちょっと!」
マドカが斬りかかる。
しかし。
魔物は一歩下がって避けた。
「……」
「避けた?」
もう一度。
マドカが同じ軌道で斬る。
魔物は今度も避ける。
「……学習してる?」
マドカの顔が引きつる。
「さっきの攻撃、もう見切ってる!」
リゼットが魔法を放つ。
「――火槍」
炎の槍が飛ぶ。
魔物は身体を捻って回避。
「魔法まで避けた……」
「厄介ね」
リゼットが目を細める。
◆
「だったら!」
マドカが走る。
「真正面から――!」
「待ちなさい!」
「うおおおお!」
「話を聞きなさい!」
マドカは突っ込んだ。
魔物が爪を振る。
ギリギリで避ける。
「危なっ!」
もう一撃。
避ける。
さらに一撃。
「うわっ!」
マドカが吹き飛ぶ。
「マドカ!」
「痛ったぁ……!」
立ち上がる。
「こいつ、強い!」
「だから言ったでしょう」
「でも!」
マドカは剣を構える。
「こういうの燃える!」
「……本当にあなたは……」
リゼットが額を押さえる。
◆
魔物が再び突進する。
マドカが迎え撃つ。
だが。
魔物の動きが変わった。
「……!」
マドカの攻撃を完全に読んでいる。
剣を弾かれる。
「しまっ――」
爪が迫る。
その瞬間。
リゼットが前に出た。
「そこまでね」
空気が変わる。
「……お姉ちゃん?」
リゼットの周囲に、膨大な魔力が集まる。
大地が震える。
森の木々がざわめく。
「ちょっと待って」
マドカが一歩下がる。
「これ……」
リゼットが静かに手を掲げる。
「久しぶりに――」
魔力が収束する。
「本気を出すわ」
「え?」
次の瞬間。
ズドォォォォォォン!!!!
森が白く染まった。
◆
数秒後。
「…………」
マドカは立っていた。
正確には。
立っている場所しか残っていなかった。
「…………」
「…………」
魔物は跡形もない。
そして。
森も。
かなりない。
「…………お姉ちゃん」
「何かしら」
「敵は?」
「倒したわ」
「うん」
「問題ないでしょう?」
「……森は?」
「…………」
リゼットが周囲を見る。
「…………少し減ったわね」
「少し!?」
視界いっぱいに広がっていた森。
その一部が。
綺麗さっぱり消滅していた。
「これ、依頼として大丈夫なの!?」
「討伐は成功したでしょう?」
「そういう問題じゃない!」
リゼットは少し考える。
「……報告書には、魔物を討伐した、とだけ書きましょう」
「絶対ダメでしょ!」
「余計なことを書く必要はないわ」
「それ隠蔽って言うんだよ!」
◆
同じ頃。
王都。
王国軍の魔道具が異常な魔力反応を検知していた。
「何だ、この魔力反応は!?」
「北西の森です!」
「規模は!?」
「……測定不能!」
兵士たちが騒然となる。
そして数時間後。
討伐報告が王城へ届けられた。
「冒険者二名による討伐……?」
報告書を読んだ文官が眉をひそめる。
「異常個体を確認」
「はい」
「討伐者は?」
「マドカという新人冒険者と――」
文官が次の名前を読む。
そして。
「…………リゼット」
手が止まった。
◆
王城。
「リゼット……だと?」
国王が報告書を見る。
「間違いありません」
「……生きていたのか」
「はい」
「百年以上、冒険者として活動していなかったはずだが?」
「記録上はそうなっています」
国王は黙り込む。
そして。
口元に、わずかな笑み。
「……なるほど」
「陛下?」
「これは――」
国王は椅子に深く腰掛ける。
「ちょうどいい」
「……何がでしょう?」
「国の一大事を、解決できる者が見つかった」
その顔には。
善良な国王らしい笑顔。
しかし。
その目は。
明らかに獲物を見つけた者の目だった。
◆
一方。
森。
「……帰ろうか」
マドカが言う。
「ええ」
「今日の晩ご飯どうする?」
「いつものものでいいでしょう」
「じゃあニコラさんにもお土産買って帰ろう!」
「そうね」
二人は歩き出す。
自分たちが今。
王国に再び目をつけられたことなど。
知る由もなかった。




