新人、仕事がなくなる
「サリーさん!」
「はい?」
「今日の依頼は!?」
朝一番。
ギルドに駆け込んできたマドカは、受付に身を乗り出していた。
サリーは依頼書を確認する。
「えーっと……」
「薬草?」
「ありません」
「ゴブリン?」
「ありません」
「護衛!」
「ありません」
「猫探し!」
「……ありません」
「なんで!?」
マドカが叫んだ。
ギルド中の冒険者が振り返る。
「声が大きいですよ」
「だって仕事がない!」
サリーは困った顔をする。
「正確には、あなたたちが受けられる依頼がなくなったんです」
「……どういうこと?」
「この数週間で、低ランク向けの依頼を片っ端から片付けたでしょう?」
「うん」
「薬草採取」
「うん」
「魔物討伐」
「うん」
「素材採取」
「うん」
「護衛」
「うん」
「街道整備」
「……それもやった」
「猫探し」
「やった」
「倉庫整理」
「やった」
サリーは依頼記録の山を見る。
「新人の記録じゃないんですよね……」
リゼットが横から覗く。
「真面目に働いている証拠ね」
「私、もっと冒険したいんだけど……」
「お金も貯まったでしょう?」
「それは嬉しい」
「ならいいじゃない」
「でも暇!」
マドカが机に突っ伏した。
◆
「そこで」
サリーが一枚の依頼書を取り出した。
「少し特殊な依頼があります」
「特殊?」
「街道沿いの小さな村から、魔物が増えているという報告が来ています」
マドカが起き上がる。
「魔物!」
「はい」
「やる!」
「まだ説明が――」
「やる!」
「……聞いてください」
「はい」
サリーはため息をつく。
「依頼内容は、原因調査と討伐。危険度は通常の新人向けより高めです」
「報酬は?」
「少し高いです」
「やる!」
「お金に弱いですね……」
リゼットは依頼書を見る。
「村までどのくらい?」
「徒歩で半日ほどです」
「問題ないわね」
「ではお願いします」
サリーが依頼を受理する。
「ただし、無理はしないでください」
「大丈夫!」
「その台詞を言う人ほど心配なんですが……」
◆
村。
「最近、魔物が増えて困ってるんです」
村長が説明する。
「以前は一日に一匹見るかどうかだったのに、今では何匹も出てくるんです」
「どんな魔物?」
「ゴブリンやウルフ、それから夜になると妙な魔物まで……」
マドカが腕を組む。
「原因を探せばいいんだね」
「はい」
リゼットが周囲を見る。
「……おかしいわね」
「何が?」
「魔物の種類がバラバラすぎる」
「?」
「普通なら、特定の餌や環境に引き寄せられた魔物が増えるものよ」
「じゃあ何かが呼び寄せてる?」
「その可能性が高いわ」
二人は村の外へ向かった。
◆
「……いた」
森の中。
マドカが指差す。
「魔物!」
茂みの向こうから現れたのは、ゴブリン。
ウルフ。
そして見慣れない小型魔獣。
「結構いるね」
「ええ」
リゼットが周囲を見渡す。
「気をつけて」
「分かった!」
マドカが剣を抜く。
「今度こそ――」
地面を蹴った。
「せいっ!」
ゴブリンが吹き飛ぶ。
「次!」
ウルフが飛びかかる。
マドカは身体をひねってかわし、そのまま剣を振り抜いた。
ドンッ!
ウルフが地面を転がる。
「まだいる!」
小型魔獣が唸り声を上げて突進してくる。
「遅い!」
一閃。
魔獣が倒れた。
「……終わり?」
マドカが剣を下ろす。
森が静かになる。
「うん。全部倒したよ」
マドカは振り返って笑った。
「簡単だった!」
「…………」
リゼットは答えなかった。
「お姉ちゃん?」
「……ええ。そうね」
リゼットは倒れた魔物たちを見る。
確かに、マドカの相手にはならなかった。
戦闘そのものに問題はない。
だが――。
「……やっぱり、おかしいわ」
「何が?」
「魔物の数よ」
リゼットが森の奥を見る。
「この辺りに、これだけの種類の魔物が集まる理由が分からない」
「餌があるとか?」
「それなら、もっと同じ系統の魔物が増えるはずよ」
「じゃあ……」
「ええ」
リゼットは静かに頷いた。
「何か別の理由がある」
マドカも森の奥を見る。
「探してみる?」
「そうね」
リゼットは頷く。
「依頼は討伐だけじゃないもの」
――この魔物たちは。
いったい、何に引き寄せられているのか。
二人はまだ知らなかった。
今回の依頼が。
ただの魔物退治では終わらないことを。




