△とレオ対談配信
「――というわけで、本日はちょっと特別な配信です!」
情報塔とEV、その両方に映像が流れている。
画面の前にいるのは、マドカ、アリシア、ナナリー。
そして、その少し離れたところに。
「……」
緊張した顔で座っている青年が一人。
「えーっと……レオさんです」
マドカが紹介すると、レオは慌てて立ち上がった。
「は、はい!」
「座ってて大丈夫だよ?」
「す、すみません!」
「謝らなくていいって」
レオは言われるまま座る。
その様子を見て、アリシアが少し笑った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今日は面談ですけど、怖いことを聞くわけじゃありませんから」
「め、面談……」
レオの顔がさらに固まる。
「そんな堅い感じじゃないよ」
マドカが笑う。
「今日は音楽の話をしたいだけだから」
『レオさん完全に借りてきた猫』
『路地裏で一人で歌ってた人とは別人じゃん』
『面談って言われて緊張してるw』
『頑張れレオ!』
マドカがコメントを見て笑った。
「みんなも言ってるよ。レオさん、すっごく緊張してるって」
「……はい」
「自覚あるんだ」
「あります……」
アリシアが穏やかに尋ねる。
「まず、改めて聞きたいんですけど。最近、かなり人気が出てますよね」
「……え?」
レオが顔を上げる。
「人気……ですか?」
「うん」
マドカが頷く。
「EVの再生数も伸びてるし、コメントもすごく増えてるよ」
「……俺が?」
「そう」
「……」
レオはしばらく黙った。
「……本当に?」
「本当だよ」
「情報塔で演奏したときも、かなり反響ありましたよ」
「……」
レオは両手で顔を覆った。
『本人が一番信じてないw』
『この反応、ガチで自覚なかったんだな』
『レオさんおめでとう!』
『最初の動画から追ってるぞ!』
ナナリーも笑っている。
「本当に人気になってますよ」
「……はい」
「私も動画、見ました」
「…………」
レオの動きが止まった。
「……え?」
ナナリーが首を傾げる。
「『路地裏で一曲だけ』っていう動画ですよね?」
「…………はい」
「すごくかっこよかったです」
「…………」
「歌も演奏も」
「…………」
レオが完全に固まった。
マドカが横から顔を覗き込む。
「レオさん?」
「……」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
声が明らかに震えている。
アリシアが少し笑う。
「もしかして……ナナリーさんのファンなんですか?」
「…………」
レオの視線が泳ぐ。
「……はい」
「やっぱり」
マドカが笑った。
「めちゃくちゃファンなんだって」
「そ、そういう……わけでは……」
「違うの?」
ナナリーが聞く。
「…………大ファンです」
即答だった。
『wwwww』
『急に認めた』
『これは本物』
『ナナリー様本人の前でそれ言えるの強い』
『いや顔真っ赤じゃんw』
ナナリーは少し嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます」
「い、いえ……こちらこそ……」
「私の曲、聴いてくれてたんですか?」
「はい」
「どのくらい?」
「……全部……」
「全部?」
「はい……」
レオは俯いたまま答える。
「昔から、ずっと……」
「まあ」
ナナリーが少し驚いた顔をする。
「それなら、私のほうが嬉しいですね」
「……」
レオがゆっくり顔を上げる。
ナナリーは普通に笑っている。
「レオさんの歌、本当にかっこいいですよ」
「…………」
「だから、これからも聴きたいです」
「…………」
レオの顔が完全に真っ赤になる。
『レオさん死んだw』
『完全にファンの顔』
『今日一番のダメージ食らってる』
『人気歌手から直接褒められる推し』
マドカが楽しそうにコメントを見る。
「すごいね。レオさん、今たぶん今日一番緊張してるよ」
「……はい」
「ナナリーがいるから?」
「……はい」
「素直だなぁ」
アリシアも笑う。
「でも、今日は音楽の話をするために来てもらったんですから、聞きたいことはまだありますよ」
「……はい」
「レオさんは、これからどうしたいですか?」
レオは少し考えた。
さっきまでとは違って、今度は真面目な顔になる。
「……もっと、歌いたいです」
「うん」
「路地裏でもいいし、情報塔でもいい。誰かが聴いてくれるなら、歌いたい」
ナナリーが静かに頷く。
「いいですね」
「それに……」
レオが少しだけ笑う。
「いつか、ナナリーさんと一緒に歌えたらいいなって……」
「え?」
ナナリーが目を丸くする。
マドカとアリシアも顔を見合わせる。
『おおおおお!』
『言った!』
『レオさん頑張った!』
『ナナリー様と共演!?』
『これは見たい』
ナナリーは少し考えてから笑った。
「いいですよ」
「……え?」
「今、一曲やってみます?」
「…………え?」
マドカが目を輝かせる。
「え、今やるの?」
「せっかくレオさんが来てくれてるんですから」
ナナリーは立ち上がった。
「レオさんの曲、私も歌ってみたいです」
「……」
「音、合わせられますか?」
「は、はい!」
レオも慌てて立ち上がる。
「じゃ、じゃあ……『路地裏で一曲だけ』を……」
「はい」
ナナリーが頷く。
そして、レオが演奏を始める。
いつもの音。
路地裏で一人、誰かに聴いてもらえるかも分からないまま弾いていた曲。
その旋律に、ナナリーの歌声が重なった。
「……」
レオの指が一瞬だけ震える。
それでも演奏は止まらない。
ナナリーは楽しそうに歌っている。
そして曲が終わる。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
『うわああああああ!』
『めちゃくちゃいい!!』
『この二人で合うじゃん!』
『レオの曲、ナナリーが歌ってるのすごい』
『情報塔企画からここまで来るとは思わなかった』
『二人ともかっこいい!』
『もう一回聴きたい!』
『レオさんの顔見て!』
カメラがレオを映す。
「…………」
レオは俯いていた。
「レオさん?」
マドカが声をかける。
返事がない。
ナナリーが隣から覗き込む。
「レオさん?」
「……すみません」
声が震えている。
「……ちょっと、無理です」
「え?」
レオが顔を上げる。
目から涙がこぼれていた。
「……俺の曲を……」
言葉が続かない。
「ナナリーさんが……歌ってくれて……」
ナナリーが少し驚いたあと、優しく笑った。
「だって、いい曲ですから」
「……っ」
レオは両手で顔を覆った。
「……ありがとうございます……」
『レオさん泣いてる!』
『そりゃ泣くわ』
『これは泣く』
『ずっとファンだったナナリーが自分の曲歌ってくれたんだぞ』
『こっちまで泣きそう』
『今日の配信すごすぎる』
『レオさん本当におめでとう』
マドカも少しだけ声を落とす。
「……よかったね、レオさん」
「……はい……」
アリシアが微笑む。
「これからも、たくさん歌ってくださいね」
レオは涙を拭きながら頷いた。
「……はい」
ナナリーが笑う。
「また一緒に歌いましょうね」
「…………はい!」
今度の返事は、泣きながらでもはっきりしていた。
コメント欄は、その後もしばらく止まらなかった。




