人材発掘
情報塔の画面に、いつもの配信とは違う告知が映し出された。
『情報塔からのお知らせです』
いつもの大きな画面に、文字が表示される。
『現在、EVでは様々な動画が投稿されています』
『音楽、演奏、歌、漫才、コメディ、特殊なスキルを使ったパフォーマンス、冒険者による技術披露など、ジャンルを問わず多くの動画が投稿されています』
街中で画面を見ていた人たちが、なんとなく足を止める。
『そこで、情報塔では新しい企画を開始します』
画面が切り替わる。
『EVに投稿された動画の再生数を参考に、今後注目される人物を発掘します』
『対象は、現在活動している有名人に限りません』
『まだ知られていない音楽家、芸人、パフォーマー、冒険者、職人、その他様々な技能を持つ方を対象とします』
街のあちこちで声が上がった。
「へぇ、そんなこと始めるのか」
「EVの再生数を見るのか?」
「ってことは、人気の動画を出せばいいってこと?」
『そして――』
再び画面が切り替わる。
『エキドナが「面白い」と判断した人物については、活動を支援します』
『支援内容は、状況に応じて以下のようなものを予定しています』
『情報塔の配信枠の提供』
『グッズ制作の協力』
『宣伝協力』
『その他、本人と相談の上で決定します』
「グッズまで作ってくれるの?」
「それって結構すごくない?」
「情報塔の枠って、予約取るの大変なんだろ?」
『なお、支援の対象となるために、エキドナへの所属や加入は必要ありません』
この一文に、画面を見ていた人たちが少しざわついた。
『エキドナに所属していない方でも応募・活動可能です』
『また、特定のジャンルを優先するものではありません』
『音楽でも、芸でも、技能でも、皆様が「これは面白い」と思うものを投稿してください』
『人気だけでなく、内容や独自性なども含めて選考します』
「へぇ……」
「じゃあ、本当に誰でもいいんだ」
「俺、変な芸持ってる奴知ってるぞ」
「それ動画にして投稿しろよ」
『最後に』
画面に大きく文字が出る。
**「あなたの『面白い』を、見せてください」**
『情報塔からのお知らせでした』
画面が通常表示へ戻った。
少しして、EVにも同じ告知動画が投稿された。
そして、その下には早くもコメントが増えていく。
『こういう企画待ってた』
『今まで知らなかった人の動画を探すのが楽しくなりそう』
『再生数だけで決めないって書いてあるのいいな』
『俺の地元にすごい笛吹く爺さんいるから撮影許可取ってくる』
『特殊スキルのパフォーマンスって何だよw』
『いや、魔法使いの大道芸とか普通に見たい』
『芸人ってこの世界にもいるんだな』
『新しい音楽家が出てくるの楽しみ』
『情報塔の予約枠って人気配信者は取りにくかったから、これは結構大きいぞ』
そして、そのコメントの中に一つ。
『これ、トンチンカンの3人も対象になる?』
別のコメントが続く。
『あいつらもう普通に配信者だろ』
『雑用しかしてないけどな』
『その雑用が面白いんだよ』
『カーンの説明好き』
『チティの魔法洗濯また見たい』
『トーイがまた何か壊すところも見たい』
少しずつ、様々な名前が挙がっていく。
その一方で、まだ誰にも知られていない配信者たちもいた。
自分で作った曲を歌う青年。
路地裏で一人、奇妙な芸を披露する男。
魔法を使った大道芸を研究している少女。
冒険者仲間と、誰も知らないダンジョン攻略法を試している者。
彼らにとってEVは、ただ動画を見るための道具ではなくなりつつあった。
「……投稿してみるか」
そんな声が、世界のあちこちで生まれ始めていた。
情報塔で新企画が告知されてから、数日。
EVの動画一覧には、それまで見かけなかった名前が増えていた。
その中でも、妙に再生数が伸びている動画が一つあった。
タイトルは、
**『路地裏で一曲だけ』**
投稿者の名前は、レオ。
まだ誰も知らない青年だった。
動画の内容は単純だった。
街の片隅。
人通りの少ない路地で、レオが一人で楽器を弾いている。
派手な魔法もない。
衣装も普通。
背景もただの街角。
ただ、演奏だけが妙に良かった。
「……」
レオは最後まで一曲を弾き終えると、楽器を下ろした。
「……こんなもんかな」
それだけ言って、動画は終わっている。
最初は再生数も少なかった。
『いい曲だな』
『楽器うまい』
『これどこで撮ったんだ?』
『もうちょっと長く聞きたい』
そんなコメントが少し付いただけだった。
ところが翌日。
再生数が急に増えた。
『昨日見つけてから何回も聞いてる』
『この人誰?』
『路上でこんな演奏してたの?』
『音が綺麗すぎる』
『余計な演出がないのが逆に好き』
さらに翌日。
再生数は、また増えた。
レオ本人は自宅でその数字を眺めていた。
「……なんで?」
隣にいた友人が画面を覗き込む。
「お前、結構見られてるぞ」
「いや、なんでだよ」
「知らないよ」
「俺、一曲弾いただけだぞ?」
「それが良かったんじゃない?」
レオは首を傾げた。
「……よく分からん」
その頃、EVでは視聴者同士のコメントも増えていた。
『この人、もっと動画出してくれないかな』
『次は別の曲聞きたい』
『この曲、自分で作ったの?』
『演奏技術もすごいけど、曲そのものがいい』
『こういう人を発掘する企画なんだろ?』
『情報塔の企画担当、もう見つけてそう』
そして数日後。
レオが二本目の動画を投稿した。
タイトルは、
**『また一曲』**
今度は前回とは違う曲。
再生数は、最初の動画より早い勢いで伸び始めた。
『来た』
『待ってた』
『また路地裏なの草』
『場所変えないの?w』
『この人、コメント見てるのかな』
『次はいつ投稿するんだ』
レオはコメントを眺めながら困った顔をした。
「……これ、返事した方がいいのか?」
友人が横から言う。
「動画なんだから好きにすればいいだろ」
「そうか」
レオは一つのコメントを選んだ。
『次も楽しみにしてます』
「……ありがとう」
短い返事を書き込む。
その返事にも、すぐに反応が付いた。
『本人いた!』
『返信きた!』
『ありがとうって言われたw』
『次も絶対見る』
レオは画面を見ながら、少しだけ笑った。
「……変なの」
それからさらに数日。
情報塔の画面に、新しい告知が流れた。
『EVで現在話題となっている演奏家、レオさんについて、情報塔よりお知らせです』
レオは、自宅でその文字を見て固まった。
「……俺?」
『近日、情報塔にて特別配信を予定しています』
『本人による演奏をお楽しみください』
レオはしばらく画面を見つめた。
「……いやいや」
友人を見る。
「俺、ただ路地裏で弾いてただけなんだけど」
友人は笑った。
「それが人気になったんだろ」
「……どうしよう」
「弾けば?」
レオは少し考えてから、楽器を手に取った。
「……じゃあ、弾くか」
こうして、EVから初めて大きく話題になった新人演奏家が、情報塔の舞台へ上がることになった。




