エキドナアンチのEV配信
EVに、新しい配信が始まった。
『新しい配信きた?』
『誰だこれ』
『タイトル……「エキドナについて言いたいことがあります」』
『あっ』
『アンチ配信か?』
画面に映っているのは、三十代くらいの男だった。
男は少し緊張した様子で椅子に座っている。
「……えー、本日はですね」
一度、息を整える。
「エキドナについて、色々と思うところがありまして。せっかくEVという便利なものができたので、こういう場で話してみようと思いました」
『いきなり真面目』
『まあ聞こう』
『エキドナアンチって珍しいな』
「最初に言っておきます。私はエキドナが嫌いです」
『潔い』
『嫌いなのにEV買ったの?』
「……それは便利だったので」
『草』
「そこは別問題でしょう!」
『もう論破された』
「まだ何も言ってないでしょうが!」
男は咳払いをした。
「では、一つ目の話です」
少し間を置く。
「エキドナは、ゴールという町を丸ごと所有していますよね」
『うん』
『そうだね』
『王様から買ったやつ』
「これ、普通に考えておかしくないですか?」
『何が?』
『契約書残ってるぞ』
「……え?」
『王様と正式に売買した土地だよ』
『ゴールの所有権はエキドナにある』
『学校で習わなかった?』
男が黙る。
「……いや、でも」
『知らなかったのか』
『そこからかよ』
「王国の中にある町を、一つの組織が全部所有しているんですよ?」
『王国の領域ではあるけど土地の所有者がエキドナなんだろ』
『王国も所有権を主張してないぞ』
『契約があるなら何もおかしくなくない?』
「……」
男は机の上の紙を見た。
「一応、そこは調べてきました」
『じゃあなんで最初に言った』
「問題提起です!」
『問題になってないw』
「……では、次!」
男は少し早口になった。
「ゴールの住民は、エキドナの土地を借りて暮らしている。つまり家賃を払っているわけですよね?」
『そうだね』
『その家賃が町の運営費』
『税金みたいなもんじゃない?』
「でも、エキドナに土地を握られていることには変わりないでしょう」
『嫌なら出ていけばいい』
『そこは普通の土地の賃貸と同じでは』
『大家が土地を所有してるんだから、借りたくなければ借りない』
「……」
『何か問題ある?』
「いや……」
男が腕を組む。
「私は、エキドナが嫌いなので」
『それ個人の感想だな』
『今日一番強いコメント』
「……そうですね」
少しだけ苦笑した。
「では、別の話です」
『お、頑張れ』
「エキドナは技術を独占しすぎじゃないですか?」
『これは分かる』
『何作ってるか分からん技術もあるしな』
『でも情報塔は公開してるぞ』
「情報塔だけじゃない。最近はEVまで出してきた。ヒロバトもある。通信機器もある」
『便利なものばっかりだな』
『で、何が問題?』
「一つの組織に技術が集中しすぎていると思うんです」
コメント欄が少し変わった。
『あー、それは分かる』
『確かにエキドナ製品多いな』
『でも他の人が作れないからエキドナが作ってるだけじゃない?』
『技術を独占してるというより、技術力が異常なんじゃ』
「そこなんですよ!」
男が身を乗り出す。
「私が怖いのは、エキドナが何を考えているのか分からないことなんです」
『それは分かる』
『確かに内部事情は謎だよな』
『でも研究施設の中身まで公開する必要ある?』
『軍事技術だったら公開しろって言うのか?』
「いや、それは……」
『企業でも研究内容は全部公開しないだろ』
『むしろエキドナって公開してる方じゃない?』
男は黙り込んだ。
「……そう言われると、そうですね」
『素直』
『アンチなのに』
「私はエキドナが嫌いなんですよ!」
『それはもう分かったw』
「ただ……」
男は少し考えた。
「嫌いだからといって、何でも悪いと言えばいいわけではないでしょう」
『急にまとも』
『最初からそうしてくれw』
「次です」
男は気を取り直した。
「エキドナは、ゴールの町をほぼ自治都市のように運営しています」
『ほぼ自治都市だね』
「王国の中にあるのに、王国がゴールの土地について口を出せない」
『所有権がないからな』
「そこです」
男が指を立てる。
「私はこれが危険だと思います」
『どうして?』
「もしエキドナが突然、家賃を十倍にしたら?」
『嫌なら出ていく』
『でもそれは確かに困る』
『実際にそんなことするかどうかと、できるかどうかは別の話だな』
『契約とか町の運営ルールはどうなってるんだ?』
男が少し驚く。
「……それは、私も知りません」
『調べてないのかよ』
「全部は無理ですよ!」
『アンチ配信なのに視聴者に資料を探してもらってる』
「うるさい!」
笑い声のようなコメントが流れる。
『でも議題としては面白い』
『エキドナが悪いって話じゃなくて、所有者に権限が集中してることへの不安ってことだろ』
『それなら分かる』
男も頷いた。
「そうです。私は、エキドナが悪いと言いたいだけじゃない」
「一つの組織が、これだけ大きな土地と技術を持っていることについて、もっと考えるべきだと言いたいんです」
『それは確かに議論していいと思う』
『ただ、今のところエキドナが実際に住民を困らせてる証拠はないよね』
「……」
『むしろゴールに住みたいから住んでる人も多いだろ』
『家賃払ってでも住みたいって人がいるなら、それも住民の選択だ』
「そうなんですよね……」
男が頭を抱える。
「さっきから私の主張がどんどん崩れていくんですが」
『頑張れ』
『まだ議題はあるぞ』
「では最後です!」
男が勢いよく顔を上げた。
「エキドナの人間関係について!」
『急にそっち?』
『何の話だ』
「エキドナには、王族や有名人が普通に出入りしていますよね」
『いるね』
『ガブちゃんとか』
『エレノア王女とか』
『ナナリーも来るし』
「王族とあれだけ親しくしている組織って、普通に考えたらかなり特殊でしょう!」
『まあ特殊』
『でも仲良くしてるだけじゃない?』
『王女がエキドナ製品買ってるの面白いけど』
「私はそこが怪しいと思っているんです!」
『何が?』
「……」
男が言葉に詰まった。
『具体的には?』
『怪しいと思った理由は?』
『証拠は?』
「…………」
長い沈黙。
「ありません」
『www』
『言っちゃった』
『今日一番正直』
「いや、でも怪しいものは怪しいでしょう!」
『それはもう感情だな』
『エキドナ嫌いフィルターかかってるぞ』
「……」
男は深く椅子にもたれた。
「……そうかもしれません」
『お?』
「私、エキドナが嫌いだから、エキドナがやること全部を疑って見ていたのかもしれません」
コメント欄が少し静かになる。
『まあ、そういうこともある』
『でも今日の話は面白かったぞ』
『最初よりだいぶ話が整理されたな』
『また議論配信やれば?』
「……やりません」
『なんでw』
「コメント欄が怖いんですよ!」
『最後に負けたw』
『EV買ってまで配信したのに』
『アンチ配信者、視聴者に教育されて終了』
「違います!」
男が慌てて手を振る。
「今日は……その……私自身、色々考え直す必要があると思ったので」
『それならいい配信だったんじゃない?』
「……そうかもしれません」
少しだけ笑った。
「ということで、本日の配信はここで終了します」
『お疲れ』
『面白かった』
『またやってくれ』
「やりません!」
『絶対またやるやつ』
「やりませんからね!」
配信終了。
その数分後。
EVの動画一覧には、一本の新しい記録動画が残っていた。
タイトルは、
**『エキドナについて言いたいことがあります』**
再生数は、配信終了直後から少しずつ増え始めていた。




