雑用配信
「はい、始まりましたー!」
チティがカメラに向かって元気よく手を振る。
「皆さんこんにちは! チティです!」
「トーイだ!」
「カーンです。よろしくお願いします」
三人が並んで画面に映っている。
『おお!』
『ガブちゃんの配信に出てた三人だ!』
『トンチンカントリオじゃん』
『本当に配信始めたのか』
『何するの?』
「今日はですねー!」
チティが胸を張る。
「エキドナのお手伝いをしていきます!」
「つまり雑用だな!」
トーイが即答する。
「言い方!」
チティが笑う。
「まあ、間違ってはいません」
カーンが淡々と頷いた。
『雑用配信w』
『エキドナの日常見られるのか』
『こういうの好き』
『三人とも頑張れー』
「では最初のお仕事です」
カーンが手に持った洗濯物を見る。
「洗濯ですね」
「任せて!」
チティが前に出る。
両手を広げると、地面に置かれた桶から水がふわりと浮かび上がった。
水は大きな球状になり、その中へ洗濯物が吸い込まれていく。
「おおー!」
トーイが声を上げる。
水球がゆっくり回転を始め、やがて勢いよくぐるぐると回り始めた。
『すげえええ』
『水球!?』
『洗濯機じゃん』
『チティ魔法使えるの!?』
『リゼットの弟子って本当だったんだ』
「えへへ」
チティが得意げに笑う。
「リゼット様に教えてもらったんですよ!」
「俺も魔法使えるようになりたい!」
トーイが水球を見上げる。
「トーイはその前に洗濯物を畳んでください」
「……はい」
カーンに言われ、トーイは渋々洗濯物の山へ向かった。
しばらくして、水球から水だけが抜けていく。
残った洗濯物は風に包まれ、ふわっと宙へ浮いた。
「乾燥もやりますよー!」
チティが指をくるりと回す。
風が一斉に吹き抜け、洗濯物がぱたぱたと揺れる。
『便利すぎる』
『これ欲しい』
『魔法すげえ』
『チティちゃん家事適性高い』
「はい、終わり!」
チティが満足そうに手を叩く。
「次は俺だな!」
トーイが立ち上がった。
「次は何?」
「神狼の餌やりです」
カーンが答える。
「おお!」
トーイが走り出す。
「神狼ー!」
「走るな。餌をこぼします」
「分かった!」
今度は歩いていく。
三人が向かった先には、巨大な白い狼がいた。
初めて見る視聴者には、その姿だけでも十分な迫力だった。
『え?』
『なにこのデカい犬』
『神狼!?』
『初めて見た』
『でかすぎるw』
神狼がゆっくりと顔を上げる。
「……我に何の用だ」
『しゃべった!?』
『神狼しゃべれるの!?』
『普通に会話してるw』
チティが笑う。
「ご飯ですよー!」
「メシか」
神狼が立ち上がる。
「はい。今日もいっぱいありますよ」
カーンが餌を置く。
神狼は一度三人を見て、それから餌へ視線を戻した。
「うむ」
「食べていいよ!」
「言われずとも食べる」
「ですよねー」
チティが笑う。
『我とか言ってるのにメシかw』
『神獣なのに食事には素直』
『かわいい』
『かわいいのか?』
「神狼って、普段何してるの?」
トーイが聞く。
「寝ている」
「それだけ?」
「腹が減れば食う」
「……」
トーイがカメラを見る。
「めっちゃ楽そうだな」
「お前もそうなりたいのか?」
神狼が顔を上げる。
「なりたい!」
「ならば働くな」
「それは嫌だ!」
『www』
『神狼に論破された』
『トーイ元気だな』
三人はそのまま厨房へ向かった。
「次は料理のお手伝いです」
カーンが説明する。
「俺、何すればいい?」
「野菜を運んでください」
「任せろ!」
トーイが箱を持ち上げる。
「重っ!」
「だから二人で持てと言ったでしょう」
「大丈夫だ!」
トーイがそのまま歩き出す。
「危ないですよー」
チティが後ろからついていく。
「……ほら」
カーンが箱の反対側を持った。
「三人で運びましょう」
「最初からそうすればいいじゃん」
チティが笑う。
『カーンが完全にまとめ役』
『この三人バランスいいな』
『トーイ単純w』
『チティ楽しそう』
厨房では、三人が食材を並べていく。
チティが野菜を洗い、トーイが運び、カーンが必要なものを確認していく。
「これ、食べてもいい?」
チティが一切れの野菜をつまむ。
「駄目です」
「まだ何もしてないのに!」
「顔に書いてあります」
「ひどい!」
『カーン有能』
『チティ絶対つまみ食いすると思った』
『トーイは?』
「俺も食べたい!」
「あなたも駄目です」
「なんでだよ!」
厨房に笑い声が響いた。
そして最後の仕事。
「買い出しです!」
チティがカメラに向かって宣言する。
「今日は町まで行きます!」
『おお!』
『外配信!』
『町見られるの嬉しい』
『三人で買い物か』
三人は荷物を持ってエキドナを出る。
町へ向かう途中、何人かがこちらを振り返った。
「……あれ?」
「どうしました?」
チティが振り向く。
「あの三人、ガブ姫様の配信に出てた子じゃない?」
「あ、本当だ」
声が聞こえてくる。
トーイが嬉しそうに笑った。
「俺たち有名になってきたな!」
「まだそんなに有名ではないと思います」
カーンが冷静に返す。
『見つかったw』
『ガブちゃん効果すげえ』
『トンチンカントリオだってバレてる』
店に到着すると、カーンが買う物を確認する。
「野菜、パン、それから調味料ですね」
「俺、持つ!」
トーイが荷物を受け取る。
「まだ買ってないだろ」
チティが笑う。
「……そうだった」
『www』
『トーイ大丈夫か』
『今日も平和だ』
買い物を終える頃には、トーイの両手は荷物でいっぱいになっていた。
「重い……」
「だから無理するなと言ったでしょう」
カーンが荷物をいくつか受け取る。
「私も持ちますよ!」
チティも袋を抱える。
三人で並んで歩きながら、エキドナへ戻っていく。
「今日はこんな感じでした!」
チティがカメラに向かって笑う。
「洗濯して、神狼にご飯あげて、料理のお手伝いして、買い出し!」
「結構働いたな!」
トーイが胸を張る。
「いつものことですけどね」
カーンが笑う。
『こういう配信いいな』
『エキドナの日常って感じ』
『またやって!』
『神狼また見たい』
『次は何するの?』
「そういえばさ」
トーイが思い出したように口を開く。
「俺たち、情報塔の予約ってほとんど取れないんだよな」
『え、そうなの?』
『情報塔って予約制だもんな』
『人気なんだな』
『そりゃ配信する人増えたら競争になるか』
「人気の方がいっぱい使ってますからねー」
チティがコメント欄を見ながら言う。
「なので、これからはEVがメインになると思います」
カーンがさらっと続けた。
『なるほど』
『三人組はEVメインか』
『EVなら好きな時間に配信できるもんな』
『また見に来るわ』
『次回も楽しみ』
「じゃあ、これからもEVでよろしくな!」
トーイがカメラに向かって手を振る。
「またねー!」
「次回もよろしくお願いします」
三人が手を振る。
その後ろで、神狼が大きくあくびをした。
『神狼www』
『最後までいた』
『また次回!』
『おつかれー!』
エキドナの日常を映した最初の雑用配信は、そんな穏やかな一日で終わった。




