EV
「みんな見てるかしら エキドナ代表リゼットよ」
情報塔の画面と、EVの配信画面にマドカたちが映る。
久しぶりのエキドナ配信。
今日はEVの発売日ということもあり、いつも以上にコメントが流れていた。
『EV買った!』
『今EVで見てる!』
『情報塔から見てるぞー!』
『同じ配信が両方に流れてる!』
『本当に同時配信できるんだな』
『便利すぎる』
「ちゃんと両方で見られてるみたいだね」
マドカがコメントを眺める。
「情報塔でも普通に見られてるし、EVからも同時に見られてる。これなら今まで通り情報塔で見る人も困らないね」
「EVなら、好きな時間に配信もできるしね~」
ニコラが隣から付け加える。
「まあ、今日は夕方だから情報塔でも問題ないけどぉ~」
「夜中に突然配信することもできますしね」
ヒナタが笑う。
「そうそう。情報塔で夜中にやったら、街中の画面にマドカちゃんたちが映っちゃうからね」
「それはそれで面白そうだけど」
「近所迷惑でしょう」
リゼットが即座に返した。
『夜中のエキドナ配信見たい』
『深夜ガブちゃんとか絶対やりそう』
『情報塔じゃできないな』
『EV買ってよかった』
「まあ、そのうち夜の配信もやってみようか」
マドカがそう言ったところで、ニコラがふと思い出したように口を開く。
「そういえばさぁ~」
「うん?」
「ヒロバト、もうすぐ発売なんだよね~」
『来た!』
『ヒロバト!』
『発売楽しみ!』
『予約したぞ!』
『幻影見たい!』
「せっかくだし、今日はちょっと遊んでみる?」
マドカが提案すると、ニコラが頷く。
「いいよぉ~。」
「私もやります!新しいの覚えたので!」
ヒナタも手を挙げる。
リゼットも立ち上がった。
「なら、私も参加しましょう」
「四人でいいね」
マドカが笑う。
「じゃあ、コロシアムに行こうか」
場所を移し、エキドナの四人はコロシアムへ。
中央に立った四人の前に、ヒロバトから作られた四体の幻影が現れる。
マドカ。
リゼット。
ヒナタ。
ニコラ。
見た目は本人たちそのもの。
ただし、幻影は一言も喋らない。
『本人VS本人!?』
『これ面白そう』
『幻影エキドナだ!』
『ニコラの幻影までいるw』
「それじゃあ、始めようか」
マドカが刀を抜く。
幻影のマドカも同じように構えた。
開始と同時に、幻影ニコラが後方へ下がる。
「……やっぱりそこから撃つんだ」
ニコラが呟く。
次の瞬間。
バンッ!
幻影ニコラの銃から放たれた攻撃が、マドカのすぐ横を通り抜ける。
「おお……」
『命中率たけえ!』
『幻影ニコラ強い』
『本人より強くない?』
「でも、近づかれたら弱いよぉ~」
「自分で言う?」
マドカが笑いながら幻影ニコラへ走る。
幻影ニコラも正確に射撃を続けるが、マドカは攻撃を避けながら距離を詰めていく。
「ほら~。こうなると弱いんだよね~」
「自分の幻影にそれ言う?」
マドカが懐へ入り込んだ。
一撃。
幻影ニコラの身体に塗料が付着する。
「……」
さらに一撃。
幻影ニコラが大きくよろめく。
「もう一回!」
マドカの攻撃が直撃した瞬間、幻影ニコラの身体が光になって消えた。
『消えた!』
『倒した!』
『耐えられないダメージで消滅するのか』
『分かりやすい』
「今みたいに、幻影は攻撃を受けると塗料が付いて、耐えられないダメージを受けると消えるんだよ~」
ニコラが説明する。
「珍しくちゃんと説明した」
「たまにはね~」
その頃、反対側ではヒナタの幻影が仲間を回復させていた。
「やっぱりヒナタは回復役なんだ」
「それだけじゃありませんよ」
ヒナタが言った直後。
幻影ヒナタの手から光が集まる。
「……来ますね」
眩い光が一直線に放たれた。
ドォォォン!
「うわ!」
マドカが横へ飛ぶ。
「ホーリーレーザーみたいな攻撃ですね」
『かっけえ!』
『ヒナタ強い!』
『回復だけじゃないのか』
「本物の私も使えますよ」
「え、そうなの?」
「あとで見せましょうか」
「それは楽しみ」
その直後。
巨大な魔法陣がコロシアムの中央に広がった。
「……あ」
リゼットが幻影を見つめる。
「どうしたの?」
「私の幻影ね」
「広っ!」
マドカが叫ぶ。
幻影リゼットの周囲に巨大な魔法が展開されていく。
「これ、逃げる場所ある?」
「ありませんね」
ヒナタが周囲を見る。
「じゃあ、近づけばいいでしょう」
リゼットが淡々と言った。
「え?」
次の瞬間。
シュンッ。
リゼットの姿が消える。
そして――
幻影リゼットのすぐ横に現れた。
「ええ!?」
マドカが目を丸くする。
「範囲攻撃は、近くにいる相手には使いにくいものよ」
リゼットが幻影の懐へ入り込む。
幻影リゼットが魔法を放とうとした瞬間。
ドンッ!
強烈な一撃。
幻影リゼットの身体に大量の塗料が付着した。
さらにもう一撃。
幻影リゼットが大きく吹き飛ぶ。
「……なるほど」
ヒナタが感心する。
「本人だからこそ分かる攻略法ですね」
「私なら、そうするもの」
リゼットが涼しい顔で答える。
「いや、自分の幻影を自分で潰してるんだけど」
マドカが笑う。
『リゼット容赦ないw』
『本人攻略法』
『パイセンつええ』
『幻影かわいそう』
最後に幻影リゼットが大きくよろめく。
リゼットが追撃。
幻影リゼットは光になって消えた。
残った幻影はマドカとヒナタ。
ヒナタの幻影が再び光線を放つ。
マドカが避ける。
リゼットが魔法を放つ。
ヒナタが回復する。
マドカが走る。
コロシアムの床が砕ける。
壁が抉れる。
轟音が何度も響き渡る。
『ちょっと待って』
『コロシアム壊れてない?』
『これ大丈夫?』
『ヒロバトの紹介なのにコロシアムが大変なことに』
『エキドナ何してるんだ』
やがて最後の幻影が消滅した。
「勝った!」
マドカが刀を下ろす。
ヒナタもほっと息を吐く。
「面白かったですね」
「そうね」
リゼットも満足そうに頷く。
ニコラだけが周囲を見回した。
「……あ~」
「どうしたの?」
マドカが振り返る。
ニコラは無言でコロシアムを見る。
床はひび割れ。
壁には大きな傷。
一部は大きく抉れている。
四人が同時に黙った。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ニコラが小さく呟いた。
「……やりすぎちゃったね~」
『wwwww』
『やりすぎちゃったねじゃねえw』
『コロシアム壊れてるw』
『ヒロバトすごい!』
『発売日に買うわ』
『最後までエキドナだった』
『EV最高だなw』
マドカは壊れたコロシアムを見ながら、苦笑した。
「……まあ、ヒロバトが面白いってことは伝わったかな」
「十分でしょう」
リゼットが答える。
「では、今日はこの辺りで終わりましょうか」
「うん。みんな、見てくれてありがとう」
マドカが手を振る。
情報塔の大型画面にも、EVの画面にも、四人の姿が映っていた。
そして配信が終わった後も、EVには今日の映像がそのまま残ることになる。




