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落内円は落ちている  作者: 七風


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212/501

ドローンカメラ

「それじゃあ、今日の配信を始めるぞ!」


 ゴールの町。


 その少し外れにある森の中で、トーイが元気よく声を上げた。


「こんにちは~」


 チティが手を振る。


「本日はよろしくお願いします」


 カーンもカメラに向かって頭を下げる。


 すると、すぐにコメントが流れ始めた。


『誰だこの三人?』


『エキドナの子供たちじゃん』


『トンチンカンだ!』


「トンチンカンってなんだよ!」


 トーイが画面を見る。


「俺たちにはちゃんと名前があるぞ!」


「でも、前からそう呼ばれてるよね」


 チティが苦笑する。


「俺は別に嫌じゃないけど」


 カーンは淡々としている。


『冒険者になったって聞いたぞ』


『新人パーティー?』


『三人とも冒険者なの?』


「そうだぞ!」


 トーイが胸を張る。


「俺たち、みんな冒険者だ!」


「トーイはつい最近登録したばかりだけどね」


「そうだけど!」


 チティに突っ込まれ、トーイが少しだけむっとする。


『トーイ、十二歳になったの?』


『おめでとう』


『新人冒険者じゃん』


「ありがとう!」


 トーイが嬉しそうに笑う。


「今日から本格的に冒険者として活動するんだ!」


「その最初の活動を配信する、ということですね」


 カーンが説明する。


 そして三人の前には、一台の小さな魔道具が浮かんでいた。


 手のひらほどの大きさ。


 四方に小さな羽根がついていて、三人の周囲をふわふわと飛んでいる。


『なんだこれ?』


『カメラ?』


『浮いてる!?』


「これが今日の主役だ!」


 トーイが指差す。


「エキドナから貸してもらった、新製品の配信カメラ!」


『エキドナの新製品!?』


『また変なの作ってる』


『撮影係いないの?』


「そう!」


 トーイが元気よく答える。


「今日は俺たち三人だけだ!」


「正確には、テスターとして提供してもらっています」


 カーンが補足する。


「まだ発売前の製品です。発売はそろそろ予定されているそうです」


『発売前!?』


『新製品のテスト配信ってこと?』


『これ欲しい』


「そういうこと!」


 トーイが頷く。


「ちゃんと使って、問題がないか調べるんだってさ!」


「使用中に不具合があった場合は、エキドナに報告することになっています」


 カーンが真面目に説明する。


「なので、今日は冒険しながら実際の使用感を確認します」


『ちゃんとテスターしてて偉い』


『案件だった』


『冒険配信と相性よさそう』


「案件って言うなよ!」


 トーイが笑う。


「いや、案件なんだけど」


 カーンが冷静に訂正する。


「案件だね~」


 チティも笑った。


「お前らまで!」


 トーイが抗議する。


 浮遊カメラが、そんな三人を少し離れた位置から撮影している。


「これ、ちゃんと俺たちを追いかけてくるんだぞ」


 トーイが歩き出す。


 カメラも一定の距離を保ったまま追従する。


「おお……」


 トーイが振り返る。


「すげぇ!」


『めっちゃ自然に追ってる』


『カメラマンいらないじゃん』


『これなら少人数でも配信できるな』


「だろ?」


 トーイが得意そうにする。


「今までの冒険配信って、誰かがカメラ持ってたんだろ?」


「ガブリエル様の配信でも、メイドさんが持っていましたね」


 チティが思い出す。


「そうそう!」


『ガブちゃんはメイド撮影なの?』


『王女様だしな』


『あれはあれで面白い』


「俺たちはこれ!」


 トーイが浮いているカメラを指差す。


「三人だけで冒険できる!」


『便利すぎる』


『発売いつ?』


『俺も欲しい』


「だから、まだ発売前だって」


 カーンが苦笑する。


「もう少し待ってください」


『カーンが一番まとも』


『トーイが騒いでるだけ』


「おい!」


「まあ、いつも通りだね」


 チティが笑った。


 そのときだった。


 森の奥から、魔物の気配が近づいてくる。


「来た!」


 トーイが剣を抜く。


 チティも杖を構えた。


 カーンは少し後ろへ下がる。


「カメラ、大丈夫?」


「たぶん!」


「たぶんじゃ困るよ……」


『戦闘だ!』


『カメラ逃げないの?』


『自動で追従するならすごいな』


「そこもテストだな!」


 トーイが笑う。


「行くぞ!」


 魔物が飛び出してきた。


 トーイが駆け出す。


 カメラも三人の動きを追いながら空中を移動する。


「トーイ、右!」


「分かってる!」


 トーイが攻撃を避ける。


「今!」


 チティの魔法が魔物の動きを止めた。


「トーイ!」


「おう!」


 トーイが踏み込む。


 一撃。


 魔物が倒れた。


「よし!」


 トーイが剣を掲げる。


「ちゃんと撮れてるか!?」


 浮遊カメラがトーイの前へ移動する。


『撮れてるぞ!』


『普通にすげぇ』


『戦闘中もちゃんと追ってる』


『これなら冒険配信できるな』


「だってさ!」


 トーイが嬉しそうに笑う。


「これなら三人だけで冒険できるじゃん!」


「そこが、このカメラの一番便利なところかもしれませんね」


 カーンが頷く。


「撮影係が必要ないので、パーティー全員が冒険に集中できます」


『カーン解説担当』


『トーイ戦闘担当』


『チティは?』


「私は?」


 チティが首を傾げる。


『ヒーラー』


『癒やし担当』


『かわいい担当』


「えっ……」


 チティの顔が赤くなる。


「かわいい担当って……」


「いいじゃん!」


 トーイが笑う。


「俺は?」


『うるさい担当』


『元気担当』


『突撃担当』


「なんでだよ!」


 トーイが叫ぶ。


「ちゃんと戦ってるだろ!」


『そこがトーイらしい』


『期待の新人パーティー』


『三人とも連携いいな』


 カーンがコメントを眺める。


「ありがとうございます」


「おう!」


 トーイも笑う。


「もっと強い魔物が出てきても、ちゃんと倒すからな!」


「トーイ」


 チティが振り返る。


「テストだから、カメラの確認も忘れないでね」


「あ」


「本来そっちが目的ですよ」


 カーンが淡々と指摘する。


「そうだった!」


 トーイが頭を掻く。


『目的忘れてて草』


『テスターとして大丈夫か?』


『エキドナに怒られるぞ』


「怒られないって!」


 トーイが慌てて否定する。


「ちゃんとテストする!」


「では、次は探索中の追従性能を確認しましょう」


 カーンが歩き出す。


「それなら俺が先に行く!」


「勝手に行かないで!」


 チティが追いかける。


 カメラも三人を追って飛んでいく。


 その様子を見ながら、コメントがまた流れていった。


『この三人、普通にパーティーとして完成してない?』


『新人とは思えない』


『エキドナで鍛えられてるからな』


『名前ないの?』


「名前?」


 トーイが立ち止まる。


「パーティー名ってことか?」


『そうそう』


『三人組の名前ほしい』


『エキドナの子供たちだからエキドナ……』


『エキドナチルドレン』


「エキドナチルドレン?」


 トーイが呟く。


「なんかカッコよくね?」


「私たち、エキドナのみんなに育ててもらいましたから」


 チティが笑う。


「私はいいと思う」


 カーンも頷いた。


「じゃあ、それでいいんじゃない?」


「よし!」


 トーイがカメラを見る。


「俺たちは今日から――」


 胸を張る。


「エキドナチルドレンだ!」


『エキドナチルドレンw』


『そのまんまだな』


『でも覚えやすい』


『期待の新人パーティーだな』


「だろ?」


 トーイが笑う。


「これからいっぱい冒険するからな!」


「配信も頑張ろうね」


「はい」


 三人が並ぶ。


 その姿を、浮遊する新型カメラが映していた。


 まだ発売前。


 現在はテスト中の新製品。


 けれど、その日から。


 ゴールの町では、三人の新人冒険者パーティーが少しずつ知られるようになっていった。


 エキドナチルドレン。


 それが、三人の新しい名前になった。


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