ドローンカメラ
「それじゃあ、今日の配信を始めるぞ!」
ゴールの町。
その少し外れにある森の中で、トーイが元気よく声を上げた。
「こんにちは~」
チティが手を振る。
「本日はよろしくお願いします」
カーンもカメラに向かって頭を下げる。
すると、すぐにコメントが流れ始めた。
『誰だこの三人?』
『エキドナの子供たちじゃん』
『トンチンカンだ!』
「トンチンカンってなんだよ!」
トーイが画面を見る。
「俺たちにはちゃんと名前があるぞ!」
「でも、前からそう呼ばれてるよね」
チティが苦笑する。
「俺は別に嫌じゃないけど」
カーンは淡々としている。
『冒険者になったって聞いたぞ』
『新人パーティー?』
『三人とも冒険者なの?』
「そうだぞ!」
トーイが胸を張る。
「俺たち、みんな冒険者だ!」
「トーイはつい最近登録したばかりだけどね」
「そうだけど!」
チティに突っ込まれ、トーイが少しだけむっとする。
『トーイ、十二歳になったの?』
『おめでとう』
『新人冒険者じゃん』
「ありがとう!」
トーイが嬉しそうに笑う。
「今日から本格的に冒険者として活動するんだ!」
「その最初の活動を配信する、ということですね」
カーンが説明する。
そして三人の前には、一台の小さな魔道具が浮かんでいた。
手のひらほどの大きさ。
四方に小さな羽根がついていて、三人の周囲をふわふわと飛んでいる。
『なんだこれ?』
『カメラ?』
『浮いてる!?』
「これが今日の主役だ!」
トーイが指差す。
「エキドナから貸してもらった、新製品の配信カメラ!」
『エキドナの新製品!?』
『また変なの作ってる』
『撮影係いないの?』
「そう!」
トーイが元気よく答える。
「今日は俺たち三人だけだ!」
「正確には、テスターとして提供してもらっています」
カーンが補足する。
「まだ発売前の製品です。発売はそろそろ予定されているそうです」
『発売前!?』
『新製品のテスト配信ってこと?』
『これ欲しい』
「そういうこと!」
トーイが頷く。
「ちゃんと使って、問題がないか調べるんだってさ!」
「使用中に不具合があった場合は、エキドナに報告することになっています」
カーンが真面目に説明する。
「なので、今日は冒険しながら実際の使用感を確認します」
『ちゃんとテスターしてて偉い』
『案件だった』
『冒険配信と相性よさそう』
「案件って言うなよ!」
トーイが笑う。
「いや、案件なんだけど」
カーンが冷静に訂正する。
「案件だね~」
チティも笑った。
「お前らまで!」
トーイが抗議する。
浮遊カメラが、そんな三人を少し離れた位置から撮影している。
「これ、ちゃんと俺たちを追いかけてくるんだぞ」
トーイが歩き出す。
カメラも一定の距離を保ったまま追従する。
「おお……」
トーイが振り返る。
「すげぇ!」
『めっちゃ自然に追ってる』
『カメラマンいらないじゃん』
『これなら少人数でも配信できるな』
「だろ?」
トーイが得意そうにする。
「今までの冒険配信って、誰かがカメラ持ってたんだろ?」
「ガブリエル様の配信でも、メイドさんが持っていましたね」
チティが思い出す。
「そうそう!」
『ガブちゃんはメイド撮影なの?』
『王女様だしな』
『あれはあれで面白い』
「俺たちはこれ!」
トーイが浮いているカメラを指差す。
「三人だけで冒険できる!」
『便利すぎる』
『発売いつ?』
『俺も欲しい』
「だから、まだ発売前だって」
カーンが苦笑する。
「もう少し待ってください」
『カーンが一番まとも』
『トーイが騒いでるだけ』
「おい!」
「まあ、いつも通りだね」
チティが笑った。
そのときだった。
森の奥から、魔物の気配が近づいてくる。
「来た!」
トーイが剣を抜く。
チティも杖を構えた。
カーンは少し後ろへ下がる。
「カメラ、大丈夫?」
「たぶん!」
「たぶんじゃ困るよ……」
『戦闘だ!』
『カメラ逃げないの?』
『自動で追従するならすごいな』
「そこもテストだな!」
トーイが笑う。
「行くぞ!」
魔物が飛び出してきた。
トーイが駆け出す。
カメラも三人の動きを追いながら空中を移動する。
「トーイ、右!」
「分かってる!」
トーイが攻撃を避ける。
「今!」
チティの魔法が魔物の動きを止めた。
「トーイ!」
「おう!」
トーイが踏み込む。
一撃。
魔物が倒れた。
「よし!」
トーイが剣を掲げる。
「ちゃんと撮れてるか!?」
浮遊カメラがトーイの前へ移動する。
『撮れてるぞ!』
『普通にすげぇ』
『戦闘中もちゃんと追ってる』
『これなら冒険配信できるな』
「だってさ!」
トーイが嬉しそうに笑う。
「これなら三人だけで冒険できるじゃん!」
「そこが、このカメラの一番便利なところかもしれませんね」
カーンが頷く。
「撮影係が必要ないので、パーティー全員が冒険に集中できます」
『カーン解説担当』
『トーイ戦闘担当』
『チティは?』
「私は?」
チティが首を傾げる。
『ヒーラー』
『癒やし担当』
『かわいい担当』
「えっ……」
チティの顔が赤くなる。
「かわいい担当って……」
「いいじゃん!」
トーイが笑う。
「俺は?」
『うるさい担当』
『元気担当』
『突撃担当』
「なんでだよ!」
トーイが叫ぶ。
「ちゃんと戦ってるだろ!」
『そこがトーイらしい』
『期待の新人パーティー』
『三人とも連携いいな』
カーンがコメントを眺める。
「ありがとうございます」
「おう!」
トーイも笑う。
「もっと強い魔物が出てきても、ちゃんと倒すからな!」
「トーイ」
チティが振り返る。
「テストだから、カメラの確認も忘れないでね」
「あ」
「本来そっちが目的ですよ」
カーンが淡々と指摘する。
「そうだった!」
トーイが頭を掻く。
『目的忘れてて草』
『テスターとして大丈夫か?』
『エキドナに怒られるぞ』
「怒られないって!」
トーイが慌てて否定する。
「ちゃんとテストする!」
「では、次は探索中の追従性能を確認しましょう」
カーンが歩き出す。
「それなら俺が先に行く!」
「勝手に行かないで!」
チティが追いかける。
カメラも三人を追って飛んでいく。
その様子を見ながら、コメントがまた流れていった。
『この三人、普通にパーティーとして完成してない?』
『新人とは思えない』
『エキドナで鍛えられてるからな』
『名前ないの?』
「名前?」
トーイが立ち止まる。
「パーティー名ってことか?」
『そうそう』
『三人組の名前ほしい』
『エキドナの子供たちだからエキドナ……』
『エキドナチルドレン』
「エキドナチルドレン?」
トーイが呟く。
「なんかカッコよくね?」
「私たち、エキドナのみんなに育ててもらいましたから」
チティが笑う。
「私はいいと思う」
カーンも頷いた。
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
「よし!」
トーイがカメラを見る。
「俺たちは今日から――」
胸を張る。
「エキドナチルドレンだ!」
『エキドナチルドレンw』
『そのまんまだな』
『でも覚えやすい』
『期待の新人パーティーだな』
「だろ?」
トーイが笑う。
「これからいっぱい冒険するからな!」
「配信も頑張ろうね」
「はい」
三人が並ぶ。
その姿を、浮遊する新型カメラが映していた。
まだ発売前。
現在はテスト中の新製品。
けれど、その日から。
ゴールの町では、三人の新人冒険者パーティーが少しずつ知られるようになっていった。
エキドナチルドレン。
それが、三人の新しい名前になった。




