トンチンカンVSトンチンカン
「ニコラ!」
トーイが勢いよく駆け込んできた。
「お願いがある!」
「なに~?」
ニコラが顔を上げる。
「俺たちの幻影と戦わせてくれ!」
「…………」
ニコラの隣にいたチティとカーンも、揃って頭を下げる。
「お願いします」
「自分たちがどれくらい強くなったのか、試してみたいんです」
「へぇ~」
ニコラは三人を見る。
「自分自身と戦ってみたいんだ?」
「そう!」
「なるほどね~」
ニコラは少し考えた。
「まぁ、いいけど~」
「本当か!?」
「ただし、あくまでテストプレイだからね~」
ニコラが指を立てる。
「まだ正式な仕様じゃないし、テスト中の機能もあるから、ここで知ったことを必要以上に人に話したりしないでね~?」
「分かった!」
「はい」
「もちろんです」
三人が勢いよく頷く。
「よし。じゃあ出してみようか~」
ニコラがヒロバトを操作する。
「登録データ――トーイ」
光が集まる。
そこに現れたのは。
「…………俺?」
トーイと瓜二つの幻影だった。
「すげぇ……」
トーイが目を輝かせる。
「動きまで俺なのか?」
「登録されてるデータの範囲ならね~」
「じゃあ……」
トーイが剣を握る。
「勝負だ!」
幻影のトーイも剣を構える。
「始め!」
戦闘が始まった。
「うおおおっ!」
トーイが突っ込む。
幻影も同じように踏み込んでくる。
「うわっ!」
剣がぶつかる。
「こいつ、俺の動き読んでやがる!」
「そりゃ自分だからね~」
「それでも!」
トーイは一度距離を取る。
幻影も同じように下がる。
「……やりにくい」
「自分の癖も分かっちゃうからね~」
再び激突する。
剣を振る。
避ける。
踏み込む。
受ける。
まるで鏡写しだった。
「くっ……!」
トーイの額に汗が浮かぶ。
そのとき。
『マスター』
「ん?」
腰に差していた剣が喋った。
『右』
「右?」
『次、右から来る』
「!」
トーイが反射的に身を捻る。
直後。
幻影の剣が目の前を通り過ぎた。
「当たってた!」
『そのまま一歩下がれ』
「こうか!」
『違う。半歩だ』
「細けぇ!」
それでもトーイは言われた通りに動く。
幻影の攻撃が空を切る。
『今』
「――っ!」
トーイが踏み込む。
『剣を横に』
「こう!」
剣が閃く。
幻影の姿勢が崩れた。
「今だあああ!」
トーイが一気に距離を詰める。
最後の一撃。
幻影が光となって消えた。
「…………」
「…………」
「勝った?」
トーイが恐る恐る尋ねる。
「勝ったよ~」
「やったああああ!」
トーイが拳を突き上げる。
「俺、やったぞ!」
『マスター』
「なんだ?」
『先ほどの動き、覚えておけ』
「え?」
『今までのお前にはなかった動きだ』
トーイが自分の剣を見る。
「……新技?」
『そう呼んでもいい』
「すげぇ!」
トーイが嬉しそうに笑った。
「俺、新しい技覚えた!」
「じゃあ次、チティだね~」
「はい!」
チティも自分の幻影と向き合う。
最初は動きが遅かった。
けれど、自分の弱点を知っているからこそ、少しずつ修正していく。
「そこ……!」
幻影の攻撃をかわす。
一歩。
また一歩。
「今!」
チティが攻撃を当てる。
幻影が消える。
「……勝った」
「おめでとう~」
「はい……!」
チティが小さく拳を握る。
「次は僕です」
最後にカーン。
幻影と向き合った。
「…………」
「…………」
互いに動かない。
「カーン、動かないの~?」
「相手が僕なら、最初に動いた方が不利です」
「なるほど~」
しばらく睨み合ったあと。
幻影が先に動いた。
「そこです!」
カーンが一歩踏み込み、攻撃を受け流す。
そして反撃。
「――!」
幻影が崩れる。
最後の一撃。
幻影が消えた。
「……勝ちました」
「三人とも勝ったね~」
トーイが二人の肩を叩く。
「俺たち、やったな!」
「はい!」
「うん!」
三人が嬉しそうに笑う。
その様子を見ていたニコラも微笑む。
「いいテストになったよ~」
すると。
『マスター』
しゃべる剣が再び口を開いた。
「ん?」
『先ほどの技は、お試しだ』
「……お試し?」
『そうだ』
剣は淡々と告げる。
『あれで、今の性能の三パーセントほどだと思え』
「…………」
トーイが固まった。
「え?」
『三パーセントだ』
「いやいやいや!」
トーイが剣を持ち上げる。
「あれで三パーセント!?」
『そうだ』
「すごかったぜ!?」
『だから三パーセントだ』
「…………」
チティとカーンも顔を見合わせる。
「三パーセント……」
「それだけで、あれほど……」
トーイは自分の剣を見る。
「じゃあ……全部使えるようになったら?」
『その時に考えろ』
「なんだよ、それ!」
剣は答えない。
ただ静かに、トーイの手の中に収まっている。
「ニコラ……」
「なに~?」
「これ、もっと強くなれるのか?」
「さぁ~?」
ニコラは楽しそうに笑った。
「それもテストしてみたらいいんじゃない?」
「…………」
トーイが剣を握り直す。
「やる」
「トーイ?」
「もっと強くなる!」
すると。
『では――』
しゃべる剣の声が変わった。
『試練を開始する』
「……え?」
トーイの顔が引きつる。
「ちょっと待て」
『開始』
「おい!」
「試練モードに入ったね~。しゃべる剣が適切な修行方法を提示するはず~」
トーイたちが振り返る。
「じゃあ……これから修行が始まるんですか?」
ニコラは少しだけ目を細めた。
「……見てみようか~」
試練が、始まった。




