冒険者ギルド お試しヒロバト
### 冒険者ギルドのお試しヒロバト
ある日のこと。
冒険者ギルドの演習場に、見慣れない機械が設置されていた。
「……なんだこれ?」
「新しい魔道具か?」
「看板があるぞ」
冒険者たちが集まってくる。
そこには大きく、
――お試しヒロバト。
と書かれていた。
「ヒロバト?」
「最近話題になってるやつだろ?」
「モンバトの新しいやつか?」
「説明あるぞ」
その横には、簡単な説明書きが置かれている。
人間の許可を得て登録した戦闘データを幻影として呼び出し、模擬戦を行う。
さらに、冒険者自身も一時的にデータ登録を体験できる。
「へぇ……」
「自分の動きを見られるのか?」
「そういうことらしい」
そこへ。
「はーい!」
マドカが手を上げながらやってきた。
「今日はヒロバトのお試しコーナーを見に来ました!」
その手には情報塔用の撮影機器がある。
「マドカ?」
「配信?」
「うん!」
マドカが笑う。
「今日は冒険者ギルドで、みんなにヒロバトを体験してもらいます!」
『おおお』
『ヒロバト実機!?』
『冒険者ギルドじゃん』
『マドカちゃんいるじゃん』
「いるよー」
マドカがカメラに手を振る。
「じゃあ、まず登録されてるデータを見てみよう!」
ヒロバトを起動する。
表示された名前は四つ。
マドカ。
アリシア。
リゼット。
クライブ。
「この四人のデータが登録されています」
マドカが紹介する。
「じゃあ、まず私から!」
演習場に幻影が現れる。
マドカ本人とほとんど変わらない姿。
「うわ……」
「本物そっくりだ」
「動くぞ!」
幻影のマドカが構える。
そして、目の前の冒険者へ向かって走った。
「――え?」
一瞬。
冒険者が吹き飛んだ。
「…………」
「…………」
周囲が静まり返る。
「はい、終了!」
マドカが笑う。
『速すぎw』
『何も見えなかった』
『これマドカ本人じゃないよな?』
「データだよ~」
『怖い』
『対戦ゲームとは』
「じゃあ、次!」
今度はアリシア。
銃を構えた幻影が現れる。
「遠距離型だな」
「じゃあ近づけば――」
冒険者が踏み込む。
次の瞬間。
幻影アリシアが距離を取った。
そして一発。
「ぐあっ!」
「はい、終了!」
『また瞬殺w』
「アリシア強いからね」
続いてリゼット。
「次はリゼット!」
「……私?」
本人が少し嫌そうな顔をする。
「ほら、やってみようよ」
「まあ、いいけれど」
幻影が現れる。
魔法を放つ。
「うわっ!」
「防御!」
冒険者が必死に耐える。
だが――。
「そこまで」
リゼット本人が言う。
「え?」
幻影の魔法が止まる。
「……今のは?」
「私が降参させたのよ」
「そんなのあり!?」
『強すぎるw』
『魔法使いに勝てるわけない』
「まあ、リゼットだから」
そして最後。
「クライブ!」
幻影のクライブが現れた。
「おお……」
冒険者たちがざわつく。
「A級冒険者だぞ」
「でも、マドカたちよりは……」
「やってみようぜ!」
一人の冒険者が挑戦する。
「お願いします!」
「来い」
クライブの幻影が剣を構える。
戦いが始まる。
剣と剣がぶつかる。
「おおっ!」
「いける!」
「今のは避けた!」
「そこだ!」
数分後。
「……勝った!」
冒険者が剣を下ろす。
「勝てた!」
周囲が沸く。
「クライブなら勝てる!」
「俺もやる!」
「俺も!」
「マドカたちは無理だけど、クライブなら!」
「おい」
本人が少し離れたところから呟いた。
「俺、そういう扱いなのか?」
マドカが笑う。
「でも人気だよ?」
「人気というか、勝てる相手としてだろ」
「いいじゃん」
「よくない」
それでも。
次々と冒険者がクライブの幻影に挑戦していく。
「今のは惜しかった!」
「もう一回!」
「次は勝つ!」
「クライブ、もう一回お願いします!」
「俺に言うな。データだからな」
『クライブ大人気w』
『めっちゃ使われてる』
『勝てるからな』
『現実的な人気』
「クライブ、使用回数すごいことになってるよ」
マドカが画面を見る。
「……本当だ」
クライブが呆れる。
「マドカ、これ配信で流してるんだろ?」
「うん」
「俺の評判が『勝てるA級』になってないか?」
「たぶん」
「たぶんじゃないだろ」
マドカが笑う。
「でも、ちゃんと強いよ?」
「それならいいが……」
そこへ別の冒険者がやってくる。
「クライブさん!」
「なんだ?」
「もう一回お願いします!」
「だから俺じゃなくて幻影だって」
「それでもお願いします!」
「……まあ、いいけど」
クライブの幻影が再び演習場へ出る。
冒険者が剣を構える。
「今度こそ勝つ!」
戦闘開始。
「おおおお!」
周囲から歓声が上がる。
マドカはその様子を楽しそうに配信していた。
「というわけで!」
カメラに向かって笑う。
「お試しヒロバト、大人気です!」
『めっちゃ楽しそう』
『これ普通に遊びたい』
『自分の幻影見たい』
『マドカと戦いたい』
『アリシアと戦いたい』
『リゼットは無理w』
「リゼットは強いからね」
『クライブなら勝てる?』
「うん。たぶん勝てるよ」
「おい」
クライブが即座に反応する。
「たぶんってなんだ」
「じゃあ、勝てる!」
「それも嫌だな」
『本人が一番困ってて草』
『クライブ頑張れ』
『今日だけで何人倒すんだ』
「……俺、今日何回戦えばいいんだ?」
クライブが遠い目をする。
その隣で、マドカが楽しそうに笑った。
「ヒロバト、おもしろいでしょ?」
演習場では、また一人。
クライブの幻影へ挑戦する冒険者が増えていた。
そして――。
この日以降。
冒険者ギルドでは、クライブの幻影だけ妙に使用回数が伸びることになるのだった。




