チート能力、選び放題?
では、能力一覧はこちらです」
悪魔のお姉さんが、何枚もの紙をテーブルに並べた。
「……多くない?」
「一応、転生者向けの標準的なラインナップです」
「標準!?」
私は紙を覗き込んだ。
剣術適性。
魔法適性。
身体能力強化。
鑑定。
アイテムボックス。
状態異常耐性。
自動回復。
「これ、ゲームなら課金パックじゃん……」
「ゲームではありません」
「分かってるよ!」
私は真剣に一覧を眺める。
転生。
異世界。
チート能力。
ここまで揃ったなら、当然――
「無敵系は?」
「ありません」
「即死系」
「ありません」
「不老不死」
「ありません」
「世界改変」
「ありません」
「時間停止」
「……あります」
「それ!!」
食い気味に指差した。
悪魔のお姉さんが少し困った顔をする。
「ただし、条件があります」
「どんな?」
「敵と戦闘状態になったときのみ発動可能です」
「ほう」
「敵が存在しない状態では時間を止められません」
「なるほど」
私は腕を組んだ。
「じゃあ、町中で時間を止めて盗み放題、とかは?」
「できません」
「犯罪対策も完璧じゃん」
「あなたを危険人物として転生させるつもりはありませんので」
「私、そんな信用ない?」
「今の質問で少し」
「…………」
まあいい。
敵と戦うときだけ時間停止。
ゲームで言えば、戦闘開始時限定の超強力スキル。
私はゲーマーとして即決した。
「これ!」
「本当に?」
「これ以外ないでしょ」
「では、決定します」
悪魔が指を鳴らした。
紙の一枚が光になって消える。
「ただし、能力は万能ではありません」
「え?」
「あなた自身の能力値は、普通の人間として成長します」
「チートじゃないの?」
「チートです」
「どっちだよ」
「例えば、あなたは魔法を覚えることもできます」
「おお!」
「ですが、知力の成長率は非常に低く設定されています」
「…………」
「身体能力は鍛えればかなり伸びます。特に筋力と防御力は成長しやすいでしょう」
「つまり?」
「魔法は苦手です」
「そこだけ妙に現実的!」
私は頭を抱えた。
だが考えてみれば悪くない。
時間停止がある。
身体を鍛えれば強くなる。
魔法は……まあ、なくてもいい。
「ゲームだって、脳筋ビルドは存在するし」
「何か言いました?」
「こっちの話」
悪魔は最後の書類を確認した。
「では、転生先を決めます」
「美少女で!」
「もう決まっています」
「早い!」
「あなたが入る身体は――」
悪魔が書類を読む。
「九歳の少女です」
「…………」
「どうしました?」
「いや、もっとこう……」
「何ですか?」
「スタート地点、せめて普通の家庭とか……」
「ありません」
「え?」
「スラムです」
「…………」
「両親は死亡済み」
「…………」
「身寄りなし」
「…………」
「所持金ほぼゼロ」
「…………」
「現在、食事も十分に取れていません」
私はゆっくり顔を上げた。
「……チート能力って、スタート地点を補正する能力じゃないの?」
「そこまでは含まれていません」
「クソゲーじゃん!!」
悪魔が初めて笑った。
「では、頑張ってください」
「他人事!」
「実際、他人ですから」
「悪魔ァ!!」
次の瞬間。
身体が光に包まれた。
「待って! 最後に一つ!」
「何でしょう?」
「私、今度こそ――」
視界が白く染まる。
「落ちない人生を送りたい!」
「…………」
最後に聞こえたのは、悪魔の小さな呟きだった。
「それは……難しいかもしれませんね」
「え?」
そして私は。
再び落ちた。
◆
ドサッ。
「……痛い」
目を開ける。
知らない天井。
いや。
天井というより、木の板だった。
身体を起こす。
小さな手。
細い腕。
「……九歳……」
言われた通りの身体らしい。
周囲を見渡す。
ボロボロの部屋。
家具はほとんどない。
食べ物もない。
財布もない。
「…………」
私は静かに立ち上がった。
「まずは――」
お腹が鳴った。
「……飯だな」
二度目の人生。
私の最初の目標は、
世界征服でも魔王討伐でもなく、今日のご飯だった。




