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落内円は落ちている  作者: 七風


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王都最強の広告塔

 王都。


 この日も、貴族夫人たちが集まるお茶会が開かれていた。


「そういえば……」


 一人の夫人が、何気なく話題を振る。


「最近、主人からヒロバトというものについて聞きましたの」


「私もですわ」


「うちでも話していました」


「かなり新しい魔道具なのでしょう?」


 夫人たちの間で、ヒロバトの話題が広がっていく。


 説明会で話を聞いた者もいる。


 主人や家族から説明された者もいる。


 けれど――。


「実際に見たことはありませんわね」


「ええ」


「説明だけでは、いまひとつ想像しにくいですもの」


 そんな声が続いたところで。


「でしたら」


 クリスティーナが紅茶を飲みながら、穏やかに口を開いた。


「私が見せましょうか?」


「……え?」


「クリスティーナ様が?」


「ヒロバトをお持ちなんですの?」


 夫人たちの視線が、一斉にクリスティーナへ集まった。


「ええ」


 クリスティーナは微笑む。


「実は、テストユーザーに選ばれまして」


「…………」


 一瞬。


 部屋が静かになった。


「テストユーザー……?」


「はい」


「ヒロバトの?」


「そうです」


「…………」


 夫人たちが顔を見合わせる。


「まあ……」


「それは……」


「すごいですわね」


「クリスティーナ様が選ばれたんですの?」


「ええ」


「まあ……」


 今度は別の意味でざわめきが広がった。


「やはり、クリスティーナ様にはこういう新しいものが似合いますわ」


「さすがですわね」


「王都で最初に試される方がクリスティーナ様だなんて」


「いえ、そこまで大したことでは――」


 クリスティーナが苦笑する。


「ですが、せっかくですから少しお見せしますわ」


「ぜひ!」


「お願いします!」


「見たいですわ!」


 反応が早い。


 クリスティーナは少し驚きながらも、鞄から端末を取り出した。


「これがヒロバトです」


「まあ……」


「思っていたより小さいですわね」


「普通の魔道具に見えますわ」


「ええ」


 クリスティーナは端末を手に取る。


「私も最初はそう思いましたわ」


 画面を操作する。


「こうして登録したデータを呼び出すと――」


 端末から幻影が現れた。


「…………」


 夫人たちが固まる。


「まあ!」


「本当に出ましたわ!」


「人の姿ですの!?」


「幻影ですわ」


 クリスティーナが笑う。


「登録した人間のデータをもとにしているんですの」


 クリスティーナが一歩動く。


 幻影も一歩動く。


「……まあ」


 クリスティーナが手を上げる。


 幻影も手を上げる。


「まあまあ!」


「同じ動きをしていますわ!」


「本当にそっくりですわね!」


「ええ」


 クリスティーナ自身も少し楽しそうに笑う。


「こういうところは、実際に見た方が分かりやすいですわね」


「クリスティーナ様が動くと、幻影も動くんですの?」


「登録されている動作なら再現できますわ」


「では、戦闘も?」


「できます」


 クリスティーナが操作する。


 幻影が構えを取った。


「まあ!」


「戦えるんですの!?」


「はい」


 さらにいくつか操作してみせる。


 幻影が剣を振る。


 回避する。


 構え直す。


「すごい……」


「主人から聞いた話より、ずっと分かりやすいですわ」


「私もです」


 クリスティーナは少し考える。


「では、せっかくですから……」


 幻影を別の動作に切り替える。


「こういうこともできますわ」


 幻影が軽く礼をする。


「まあ!」


「礼まで!」


「戦闘だけではありませんの?」


「登録した動作なら、いろいろ再現できますわ」


 クリスティーナが答える。


「私もまだ試している途中ですけれど」


「……クリスティーナ様が使っている」


 一人の夫人が、ぽつりと呟いた。


「はい?」


「実際にクリスティーナ様が使っていらっしゃるんですのね」


「ええ」


「…………」


 その夫人が隣を見る。


 隣の夫人も頷く。


「これは……欲しいですわ」


「私もです」


「え?」


 クリスティーナが目を丸くする。


「皆さん、まだ実物を見ただけでしょう?」


「だから欲しくなったんですわ!」


「そうですわ!」


「説明だけでは分かりませんでしたもの!」


「実際にクリスティーナ様が使っていらっしゃるところを見ると、安心できますわ」


「安心?」


「ええ」


 別の夫人が力強く頷く。


「クリスティーナ様がテストユーザーに選ばれているということは、それだけ信頼できるものなのでしょう?」


「いえ、それは私が決めたわけでは――」


「でもクリスティーナ様が使っていらっしゃるんですもの」


「……まあ」


「なら、私も買いますわ」


「私も」


「私も予約します」


「ちょっと待ってくださいな」


 クリスティーナが苦笑する。


「私が使っているからというだけで決めてはいけませんわよ?」


「いいえ!」


 一人の夫人が即答した。


「私はクリスティーナ様が使っていらっしゃるから欲しいんですの!」


「…………」


 クリスティーナが固まる。


「ヒロバトがどういうものかは、これからちゃんと調べますわ」


 別の夫人が真顔で言う。


「でも、クリスティーナ様が選ばれたものなら、まず持っておきたいですもの」


「私もですわ!」


「私も!」


「主人に頼んで買ってもらいます!」


「うちも!」


「息子にも必要ですわね!」


「娘にも使わせたいですわ!」


 完全に勢いがついていた。


「皆さん……」


 クリスティーナは思わず笑ってしまう。


「少し落ち着いてくださいな」


「クリスティーナ様は、もうお使いなんですよね?」


「ええ」


「使っていて、どうですの?」


「そうですわね……」


 クリスティーナは端末を見る。


「面白いですわよ」


「!」


 夫人たちの目が輝く。


「やはり!」


「面白いんですのね!」


「ええ。私も最初は説明を聞いただけでしたけれど、実際に触ってみると――」


 クリスティーナが幻影を見る。


「思ったより自由に動かせるんですの」


「まあ!」


「それは楽しそうですわ!」


「それに、こうして自分の知っている人を登録できるというのも面白いですわね」


「主人を?」


「ええ」


「では、主人同士を戦わせることも?」


「できると思いますわ」


「まあ!」


「それは絶対にやりたいですわ!」


「うちの主人にも負けないでしょうね」


「まあ、うちの主人の方が――」


 いつの間にか、夫人たちは自分の家の話まで始めていた。


「……なるほど」


 クリスティーナは少し楽しそうに笑う。


「こういう使い方もあるのですね」


「クリスティーナ様も、ご主人のデータを登録なさるんですの?」


「まだですわ」


「ぜひ登録してください!」


「ええ、ぜひ!」


「クリスティーナ様の幻影とご主人の幻影が並んでいるところを見てみたいですわ!」


「…………」


 クリスティーナが少し考える。


「それは……少し面白そうですわね」


「でしょう!?」


 また夫人たちが沸いた。


「では!」


 一人の夫人が身を乗り出す。


「予約方法をご存じですの?」


「え?」


「発売はいつですの?」


「価格は?」


「どこで買えますの?」


「登録できる人数は?」


「主人が嫌がったらどうすれば――」


「皆さん!」


 クリスティーナが笑いながら制止する。


「一度に聞かれても答えられませんわ!」


「でも!」


「クリスティーナ様が使っていらっしゃるものですもの!」


「私も欲しいですわ!」


「私も!」


「私もです!」


 クリスティーナは呆れたように笑う。


「……こんなに欲しがるものなのですね」


「当然ですわ!」


 夫人の一人が即答する。


「クリスティーナ様が使っていらっしゃるんですもの!」


「そこなんですの!?」


 クリスティーナが思わず笑う。


「ええ!」


「クリスティーナ様が使っている」


「それだけで信用できますもの」


「…………」


 クリスティーナは苦笑しながら端末を見つめた。


 自分はただ、テストユーザーとして使っているものを見せただけだ。


 それなのに。


「……私、思った以上に宣伝してしまいましたわね」


「宣伝だなんて!」


「もっと見せてくださいませ!」


「次のお茶会にも持ってきてください!」


「私の友人にも見せたいですわ!」


「もちろんですわ」


 クリスティーナは笑った。


「次のお茶会でも、少しだけなら」


「まあ!」


「では次回は私も呼んでください!」


「私も!」


「私もですわ!」


 その場にいた夫人たちは、もう次の話を始めている。


 クリスティーナはそんな様子を見ながら、少しだけ目を丸くした。


「……これは」


 自分が思っていたよりも、大変なことになっているかもしれない。


 しかし。


「まあ、楽しそうですものね」


 クリスティーナは微笑んだ。


 そして、その日のお茶会が終わる頃には――。


「主人に買ってもらわなければ」


「私もですわ」


「次のお茶会までに予約しておきますわね」


「私も!」


 ヒロバトを実際に見た夫人たちは、すっかり購入する気になっていた。


 その理由は二つ。


 ヒロバトそのものが面白そうだったこと。


 そして――。


 **クリスティーナがテストユーザーとして使っていたこと。**


 王都の貴族夫人たちにとっては、それだけで十分すぎるほどの後押しだった。


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