△ ヒロバト案件を受ける
### トライアングル、ヒロバトを試す
「というわけで!」
カメラの前で、トライアングルの三人が並んでいた。
「本日はヒロバトの案件です!」
ナナリーが元気よく宣言する。
「発売間近の話題のゲームですからね」
隣のメンバーも頷く。
「今回は実際に私たちのデータを登録して、幻影を作ってみたいと思います!」
『おおお!』
『トライアングルとヒロバト!?』
『案件きたー!』
『ナナリーのデータくる?』
「はい」
ナナリーが嬉しそうに頷く。
「せっかくですから、私たちらしいものを登録してみようと思います」
「戦闘だけじゃないんですよね?」
「そうなんです」
ナナリーが説明する。
「ヒロバトでは、自分のデータを登録すると、そのデータをもとに幻影を作ることができます」
「そして、その登録時に――」
ナナリーが少し考える。
「話し方や、動きなども登録できるんですよね?」
『しゃべるだけじゃないの?』
『動きも?』
『どういうこと?』
「実際にやってみましょう!」
ナナリーが笑った。
そして登録作業が始まる。
「まず、基本的な動作」
画面の前でナナリーが動く。
歩く。
振り返る。
手を振る。
軽くポーズを取る。
そして――。
「ここからは、歌と踊りです!」
ナナリーがステージ用の振り付けを始めた。
歌いながら動く。
手を上げる。
身体を回す。
最後に決めポーズ。
「これで登録です」
「思ったよりちゃんと登録するんですね」
「はい」
ナナリーが頷く。
「自分の動きを、そのままデータとして登録してもらいます」
そして――。
「では、呼び出してみましょう!」
端末から幻影が現れる。
「…………」
そこに立っていたのは、ナナリーと同じ姿。
『おおおおお!』
『ナナリー出た!』
『すげえ!』
幻影がこちらを向く。
「こんにちは」
『喋った!?』
『声もナナリーじゃん!』
ナナリーが手を振る。
「こんにちは!」
「こんにちは」
幻影も同じように手を振る。
「…………」
ナナリーが少し驚いた顔になる。
「本当に同じ動きしますね」
「登録した動作だからね~」
説明担当の声が入る。
「では、次!」
ナナリーが歌い始める。
すると――。
幻影も歌う。
声も。
タイミングも。
振り付けも。
ナナリーが身体を回れば、幻影も同じように回る。
手を上げれば、同じ角度で手を上げる。
最後の決めポーズまで、完全に一致した。
「…………」
スタジオにいた全員が固まる。
『え?』
『完コピじゃん』
『これすごくない?』
『ナナリーそのものじゃん』
「ふふ」
ナナリーが嬉しそうに笑う。
「すごいですね!」
もう一度動く。
幻影も動く。
今度は少し違う振り付け。
それも完璧についてくる。
「なるほど……」
ナナリーが幻影を見ながら頷く。
「これなら、ステージの練習にも使えそうですね」
『いや待って』
『これ、会話も増やせるんじゃ?』
『最初の一言だけじゃないの?』
『動作登録できるなら、会話も登録できるのでは?』
コメント欄の流れが変わっていく。
「……あ」
ナナリーもコメントを見る。
「そういうことですか」
『歌手とか踊り子なら何曲も登録できる?』
『この曲やって、って言ったら反応するの?』
『曲ごとに動き登録できるならすごくね?』
『戦闘だけのゲームじゃないじゃん』
ナナリーが少し考える。
「では、試してみましょうか」
「何を?」
「曲を指定してみます」
ナナリーが幻影を見る。
「三曲目」
幻影が反応する。
「はい」
そして、三曲目として登録されていた歌と踊りを始めた。
『うわあああ!』
『反応した!』
『これできるの!?』
『何曲でも登録できるならヤバいぞ!』
ナナリー自身も驚いている。
「本当に反応しましたね……」
「登録した動作と、その指定方法をセットにしておけば、そういう使い方もできるよ~」
説明役が答える。
「なるほど……」
ナナリーは幻影を見る。
「つまり、歌手の方なら、自分の曲を複数登録しておいて――」
「曲名や番号を指定して呼び出す、とかもできるわけですね」
『ライブできるじゃん』
『自分の幻影でライブできるじゃん』
『本人いなくても歌える?』
『これ、歌手や踊り子にめっちゃ向いてない?』
「これは……」
ナナリーが少し興奮した顔になる。
「面白いですね」
幻影が隣で同じように微笑む。
そしてナナリーが一歩動く。
幻影も同じ動きをする。
「本当に、私そのものみたいです」
ナナリーは幻影を見つめる。
「歌も踊りも、ちゃんと私が教えた通りにできる」
『完コピすぎる』
『ヒロバトの使い方が想像以上だった』
『これ案件動画なのに新情報出てない?』
『歌手がデータ登録したらすごそう』
『踊り子もいけるじゃん』
ナナリーがコメント欄を見る。
「皆さん、そこに気づきましたね」
そして、少しだけ笑う。
「でも、私たちもまだ全部の使い方を試したわけではありませんから」
「まずは自分で色々試してみるのが一番ですね」
ナナリーの横で、幻影がまた同じポーズを取った。
「……それにしても」
ナナリーが幻影を見る。
「本当にそっくり」
幻影が笑う。
ナナリーも笑う。
二人の動きは、まるで鏡のようにぴったりと重なっていた。
『これ、他の歌手もやってほしい』
『推しのデータ登録してほしい』
『踊り子の幻影とか絶対見たい』
『ヒロバト、思ってたより色んなことできるな……』
コメント欄は、すっかりヒロバトの新しい使い方の話題で埋め尽くされていた。
「ふふ」
ナナリーは楽しそうに笑う。
「これは発売が楽しみですね!」
こうして。
トライアングルのヒロバト案件は、ただのゲーム紹介では終わらなかった。
本人の動きや歌を登録できるという仕様を実演したことで――。
視聴者たちは、ヒロバトが持つ新しい可能性に気づき始めていた。




