ガブちゃん やらかす
「それでは、本日の配信はここまでですわ!」
十九階層から戻ってきたモンバト部の配信も、そろそろ終わりの時間だった。
「本日は自力で十九階層まで来られましたし、非常に有意義な配信でしたわね!」
『お疲れー!』
『自力19階おめでとう!』
『次も楽しみにしてる』
『ガブちゃんおつかれ』
「ありがとうございますわ!」
ガブリエルは満足そうに笑う。
「次回もまた、モンバトの面白い情報を――」
「そういえば!」
突然、何かを思い出したように顔を上げる。
「今度、ヒロバトとのリンクも――」
そこで、一瞬だけ止まった。
「……」
だが。
「……まあ、そのうちですわ!」
『???』
『今なんて?』
『ヒロバト?』
『リンクって言った?』
『モンバトとヒロバト?』
「それでは皆様!」
ガブリエルは何事もなかったように手を振る。
「また次回ですわー!」
配信終了。
画面が暗くなる。
数秒。
コメント欄だけが、異様な勢いで流れていた。
『待って』
『今なんか言ったよな?』
『ヒロバトとのリンクって聞こえた』
『俺も聞こえた』
『いや、聞き間違いじゃね?』
『ガブちゃん何か言ってたよな』
『モンバトとヒロバトをリンク?』
『そんな機能あるの?』
『初耳なんだけど』
『開発中とか?』
『でもヒロバトってまだ一般公開されてないよな?』
『いやいや、さすがにガブちゃんがそんな情報漏らすわけ』
『でも本人めっちゃ自然に言ってたぞ』
『誰か録音してない?』
『切り抜き班はよ』
その中に、一つのコメントが流れる。
『……これ、もしかして重大情報じゃないか?』
それをきっかけに、さらにコメントが増えていく。
『やっぱり?』
『でもガブちゃん、何も気にしてなかったぞ』
『つまり本当なのか?』
『いや、ガブちゃんの言い間違いかもしれない』
『そもそもリンクって何のことだよ』
『ヒロバトとモンバトが連動するとか?』
『そんな話聞いたことない』
『公式発表待ちだな』
結局。
視聴者たちの間では、一つの結論も出なかった。
――ガブリエルは、何か重大なことを言った。
それだけは、多くの視聴者が感じていた。
だが、それが本当なのか。
単なる言い間違いなのか。
そもそも、そんな計画が本当に存在するのか。
誰にも分からない。
そして、その日の夜。
ガブリエルは何も知らずに、いつものように屋敷へ戻っていた。
「ただいまですわー!」
「ガブちゃん」
「はい?」
ニコラが笑顔で立っていた。
「ちょっとお話ししよっか~?」
「……?」
ガブリエルは首を傾げる。
「何のお話ですの?」
「今日の配信のことだよぉ~」
「配信?」
「うん」
ニコラは笑っている。
いつも通りの、のんびりした笑顔。
ただし――。
「ヒロバトとモンバトのリンクって、何のことかな~?」
「…………」
ガブリエルが固まる。
「……あ」
「うん」
「…………」
「気づいてなかったんだね~?」
「……はい」
「でしょうね~」
ニコラはため息をついた。
「まだ視聴者には発表してないんだから、勝手に言っちゃダメだよぉ~?」
「でも!」
ガブリエルが反論する。
「そのうち発表する予定なのでしょう?」
「そうだけど~」
「なら問題ないのでは?」
「問題あるよぉ~!」
屋敷の中に、ニコラの声が響いた。
「発表するまでが秘密なんだよ~!」
「……なるほど」
「分かった?」
「はい!」
ガブリエルは素直に頷いた。
「次から気をつけますわ!」
「本当に~?」
「本当ですわ!」
「ならいいけど~」
ニコラはようやく笑った。
しかし。
ガブリエルが帰った後。
「……まあ、もう遅いけどね~」
ニコラは小さく呟いた。
すでに視聴者たちは、あの一言を聞いてしまっている。
翌日。
街では早くも噂が流れていた。
「モンバトとヒロバトが繋がるらしいぞ」
「本当?」
「昨日ガブリエルが言ったらしい」
「でも、ガブリエルだろ?」
「……それはそう」
「じゃあ、ガセか」
「いや、でもニコラの開発ならありそうじゃない?」
「確かに」
「じゃあ本当?」
「知らん」
結局。
誰も確かなことは分からなかった。
ただ一つ。
モンバトとヒロバト。
その二つが、いつか何かの形で繋がるのではないか。
そんな噂だけが、静かに広がっていった。




