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落内円は落ちている  作者: 七風


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モンバト部 十九階層配信

「皆様ー!」


 配信画面にガブリエルが映る。


「本日は、モンバト部のダンジョン攻略配信ですわ!」


『きたー!』


『今日はどこ?』


『またダンジョン?』


『エキドナ配信じゃないの珍しい』


「本日の目標は――」


 ガブリエルが胸を張る。


「十九階層ですわ!」


『19階!?』


『おお』


『モンバト部で19階まで行くの?』


『前も19階には行ってなかった?』


『エキドナに連れてってもらった時だな』


『今回はキャリーなし?』


「そうですわ!」


 ガブリエルが勢いよく頷く。


「これまでにも十九階層へ来たことはありますけれど――」


 一度、後ろの仲間たちを見る。


「今回は違いますわ!」


「私たちだけで来たんだよね」


 フローラが笑う。


「うん」


 エミリアも頷く。


「エキドナの皆さんには頼っていません」


「自分たちで十九階層まで来た」


 ケビンが言う。


「そこが今回、一番大きいところだな」


『マジか』


『モンバト部だけで19階!?』


『普通にすごいじゃん』


『前はキャリーだったもんな』


『これは成長回』


『19階なら今日は安心して見られる』


『エキドナの30階配信見慣れてるせいで感覚がおかしくなってるw』


「何を言ってますの!」


 ガブリエルが頬を膨らませる。


「十九階も十分危険ですわよ!」


『それはそう』


『一般冒険者からしたら十分ヤバい』


『でもエキドナ基準だと19は平和』


「だから、その基準がおかしいんですの!」


 フローラが笑う。


「まあ、今日は私たちの実力を見てもらうってことで」


「そうですね」


 エミリアが頷く。


「ここまで自分たちだけで来られたのは、大きいと思います」


 シェリーも端末を確認する。


「準備もちゃんとしました」


「では!」


 ガブリエルが前を向く。


「十九階層、攻略開始ですわ!」


 十九階層。


 そこは、これまでの階層とは少し違っていた。


 通路そのものは広い。


 しかし、明かりが少ない。


 遠くまで見通せない場所が多く、どこから敵が現れるのか分からない。


「……静かですね」


 エミリアが小声で言う。


「静かすぎる」


 ケビンも周囲を見回す。


「敵がいると思って動いた方がいい」


「分かりました」


 フローラがモンバト端末を確認する。


「ここまでに登録されてる十九階のモンスター情報は……いくつかあるね」


「以前エキドナが配信した時のデータもありますわ」


 ガブリエルが言う。


『ガブちゃん詳しい』


『さすが準優勝』


『大会準優勝者の十九階攻略』


『今回はガブちゃんがみんなを連れてきた感じ?』


「みんなで来たんですわ!」


「そうそう」


 フローラが笑う。


「ガブリエル一人じゃないからね」


「そこはちゃんと分かってますわ!」


『部長だけど部員全員で攻略』


『いいね』


『モンバト部ちゃんと部活してる』


 そのとき。


 カサッ。


「!」


 全員が止まった。


「右」


 ケビンが指を向ける。


 壁際。


 暗闇の中から、何かがこちらを見ていた。


「……モンスターです」


 エミリアが小声で言う。


「一体?」


「たぶん一体」


 フローラが端末を確認する。


「登録データに近い種類がある」


「では、モンバトで確認しましょう」


 ガブリエルがカードを取り出す。


「召喚!」


 幻影のモンスターが現れる。


 実物とほとんど同じ姿。


 モンスターは一瞬、そちらを見た。


「反応した!」


 フローラが驚く。


「やっぱり本物と同じ姿だから、敵も反応するんだ」


『おお』


『囮に使える?』


『これ実戦で使えるんじゃね?』


「その可能性はありますわ!」


 ガブリエルが目を輝かせる。


「では――」


「待って」


 エミリアが止めた。


「いきなり使うのは危険です」


「……そうですわね」


 ガブリエルも真面目な顔になる。


「まず、反応を見るだけにしましょう」


 幻影が一歩前へ出る。


 実物のモンスターが、ゆっくりとそちらへ近づいていく。


「来た」


 ケビンが構える。


 モンスターは幻影へ飛びかかった。


 爪が幻影の身体を切り裂く。


 しかし――。


 幻影はそのまま残っている。


『ダメージ入らないんだよね』


『幻影だから当然』


『現実のモンスターには攻撃力ゼロ』


『でも敵の注意は引ける』


「そうですわ」


 ガブリエルが頷く。


「幻影そのものに攻撃力はありませんわ」


「でも、敵の視界を誘導することはできる」


 ケビンが続ける。


「それなら十分使える」


 ガブリエルが少し笑った。


「では、試してみますわ!」


「何を?」


「囮ですわ!」


 幻影が通路の奥へ走る。


 実物のモンスターが追いかける。


「今!」


 ケビンが叫んだ。


 五人が一気に横へ移動する。


 モンスターが幻影を追い続ける。


「成功!」


 フローラが小さく拳を握る。


『おおお』


『普通に使えるじゃん』


『ダメージ0でも囮なら有用』


『これ攻略知識として結構重要じゃね?』


『モンバト部、実戦研究まで始めてる』


「これは発見ですわね!」


 ガブリエルが嬉しそうにする。


「モンバトは戦うだけではありませんわ!」


『いやゲームとしては戦うものだろw』


『ガブちゃん何言ってんの』


「うるさいですわ!」


 その瞬間。


 幻影を追っていたモンスターがこちらへ振り返った。


「――来る!」


 ケビンが叫ぶ。


「散開!」


 全員が動く。


 モンスターが突っ込んでくる。


 ケビンが横へ避ける。


「今!」


 フローラが攻撃する。


 エミリアも続く。


「まだです!」


 モンスターが身体をひねり、二人の攻撃をかわす。


「速い!」


 フローラが驚く。


「右!」


 ガブリエルが叫ぶ。


 モンスターがケビンへ向きを変える。


「来い!」


 ケビンが受け止める。


 その隙にエミリアが側面から攻撃を入れた。


「今です!」


 モンスターがよろめく。


「フローラ!」


「任せて!」


 最後の一撃。


 モンスターが倒れた。


「……勝った」


 フローラが息を吐く。


『おめでとう!』


『普通に熱い』


『19階攻略してるじゃん』


『モンバト部、ちゃんと強くなってる』


『ガブちゃん指示出しうまいな』


「当然ですわ!」


「そこは否定しないんだ」


 フローラが笑う。


「だって準優勝ですもの!」


『出た準優勝』


『ガブちゃんそれ一生言うだろ』


『準優勝者様』


「何ですの、その呼び方!」


 笑いが起きる。


 だが――。


 ケビンが周囲を見る。


「……まだ気を抜くな」


「どうしました?」


 エミリアが尋ねる。


「今の戦闘音で、何か寄ってきてる」


「…………」


 全員が黙った。


 遠くから、複数の足音が聞こえる。


「何体ですの?」


「分からない」


 フローラが端末を見る。


「登録データにも、この数は……」


 足音が近づく。


『え』


『増援?』


『これ撤退した方がいいんじゃ』


『19階でもこういうのあるのか』


『無理するな』


「……どうします?」


 エミリアがガブリエルを見る。


 ガブリエルは少し考えた。


「一度、距離を取りますわ」


「賛成」


 ケビンが頷く。


「戦う必要はない」


「では――」


 ガブリエルがカードを構える。


「もう一体、幻影を出しますわ!」


 幻影が通路の反対方向へ走っていく。


 複数の敵が、そちらへ向きを変えた。


「今ですわ!」


 五人が反対側へ走る。


『うまい!』


『囮二段構え』


『こういう使い方できるのか』


『モンバト部の配信、普通に攻略情報として役立つな』


『ガブちゃんチャンネル見とけばモンバト分かるって言われるの納得』


「ふふん!」


 ガブリエルが走りながら胸を張る。


「そうでしょう!」


「前見て!」


「わっ!?」


 ガブリエルが慌てて前を見る。


「危ない!」


 目の前に、大きな岩が迫っていた。


「うわっ!」


 五人が急停止する。


「……危なかった」


 ケビンが息を吐く。


「ガブリエル」


「はい?」


「配信中くらい前を見ろ」


「……はい」


『wwwww』


『準優勝者www』


『19階攻略よりガブちゃんが危ない』


『これは安心して見られる』


「だからその言い方は何ですの!」


 ガブリエルが抗議する。


 しかし、すぐに表情を引き締めた。


「……とはいえ」


 奥を見る。


「十九階層、やはり簡単ではありませんわね」


「うん」


 フローラも頷く。


「私たちが普通に戦えるのは、この辺りまでかも」


「まだ先に進めないわけではないでしょう」


 エミリアが言う。


「でも、ここから先は危険が増えそうです」


 ケビンも同意する。


「俺たちが今の実力で無理に進む必要はない」


「そうですね」


 シェリーが静かに頷いた。


「今日は十九階まで自分たちで来られただけでも、大きいと思います」


「…………」


 ガブリエルは少し考える。


 そして、カメラを見る。


「そうですわね」


 ガブリエルが笑う。


「今日の一番の目的は、十九階を踏破することではありませんわ」


『?』


『どういうこと?』


「わたくしたち五人だけで、ここまで来られたことですわ!」


 コメント欄が一気に流れる。


『たしかに』


『前はキャリーだったもんな』


『自力19階到達おめでとう!』


『これ普通にすごい』


『モンバト部成長したな』


『次はどこまで行けるんだろ』


 ガブリエルは満足そうに頷く。


「ですから――」


 カードをしまう。


「本日は、ここまでですわ!」


『お疲れ!』


『いい判断』


『19階攻略おめ』


『次も楽しみにしてる』


『30階はエキドナに任せとけw』


「そうですわね」


 ガブリエルが少しだけ遠くを見る。


「三十階は……」


 一瞬、言葉を止める。


「まだ、わたくしたちには早いですわ!」


『潔い』


『30階は別格』


『エキドナ基準で考えちゃダメ』


『19階まで自力で来たんだから十分』


「いつかは!」


 ガブリエルがカメラを指差す。


「もっと先まで行ってみせますわ!」


『待ってる』


『頑張れモンバト部』


『次回も見る』


『攻略情報助かる』


『ガブちゃん乙』


 配信終了。


 画面が暗くなる。


「……疲れた」


 フローラがその場に座り込む。


「私もです」


 エミリアが息を吐く。


「でも、楽しかった」


 ケビンも笑う。


「自分たちだけでここまで来たんだ。結構すごいことだろ」


「そうですね」


 シェリーが手元のカードを見る。


「今日のモンスター、可愛かったです」


「そこかよ!」


 ケビンが突っ込む。


 ガブリエルはそんな三人を見ながら、満足そうに笑った。


「これで、ようやくモンバト部としての第一歩ですわね」


「第一歩って……」


 フローラが苦笑する。


「十九階まで来てるけど」


「そういう問題ではありませんわ!」


 ガブリエルは胸を張る。


「大事なのは、自分たちの力で来たことですもの!」


「それは、そうだね」


 フローラも笑った。


 十九階層。


 エキドナにとっては、いつもの配信で通り過ぎることさえある場所。


 けれど。


 モンバト部にとっては――。


 自分たちだけの力で辿り着いた、ひとつの目標だった。


 そしてその日。


 配信を見ていた視聴者たちの間にも、新しい共通認識が生まれた。


 ――モンバトのことなら、ガブリエルの配信を見ればいい。


 ――そして、モンバト部も少しずつ強くなっている。


 そんなことを思わせる、初めての「自力十九階攻略配信」だった。


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