企業案件
ガブリエルが配信を始めて、しばらく経った頃。
「……これは、どういうことですの?」
ガブリエルの前に、一通の手紙が置かれていた。
「お店からの手紙だね~」
ニコラが横から覗き込む。
「ゴールのお店みたいだよぉ~」
「お店?」
「うん」
ガブリエルは封筒を開く。
「…………」
しばらく読み進める。
そして――。
「企業案件ですわ!!」
「……企業案件?」
マドカが首を傾げた。
「なんか、新しい魔道具?」
「違いますわ!」
ガブリエルが勢いよく立ち上がる。
「わたくしの配信で、このお店の商品を紹介してほしいそうですの!」
「へぇ」
「つまり宣伝だね~」
「宣伝……」
マドカがガブリエルを見る。
「ガブちゃん、もうそういうの来るようになったんだ」
「ふふふ」
ガブリエルが胸を張る。
「人気配信者ですもの!」
「まだ初配信してそんなに経ってないよね?」
「人気が出るのに時間は関係ありませんわ!」
「自分で言うんだ……」
リゼットが苦笑する。
「それで、どこのお店なの?」
「ゴールにあるお店ですわ」
ガブリエルが手紙を読む。
「えーっと……『王都帰りの商人が開いた、新しい生活用品の店』……」
「生活用品?」
ニコラが興味を示す。
「何売ってるの~?」
「魔道具や調理器具、収納用品など……ですわね」
「それ、結構便利そうだね~」
「でしょう?」
ガブリエルが頷く。
「しかも!」
手紙の続きを読む。
「『実際に商品を使用していただき、その感想を配信内で紹介していただければ幸いです』……」
「なるほど」
マドカが頷く。
「ちゃんと使ってから紹介してほしいってことか」
「そうみたいですわ」
「それなら、変な商品じゃなさそうだね~」
ニコラが笑う。
「お店の人も、ガブちゃんが実際に使った感想を聞いてほしいんじゃないかな~」
「なるほど……」
ガブリエルは少し考える。
「では、受けますわ!」
「即決?」
「もちろんですわ!」
「でも、王族なんだから、勝手に宣伝して大丈夫なの?」
「そこは問題ありませんわ」
ガブリエルは得意げに答える。
「わたくし個人の配信ですもの!」
「……まあ、そういうものなのかな」
マドカは少し考えてから、ニコラを見る。
「ニコラ、こういうのって大丈夫?」
「契約内容をちゃんと確認すればいいと思うよぉ~」
「じゃあ、見てもらおう」
「うん~」
ニコラが手紙を受け取る。
しばらく目を通して――。
「問題なさそう」
「本当ですの!?」
「うん。紹介料と、提供してもらえる商品。それと、宣伝内容についても書いてあるね~」
「提供?」
「実際に使う商品を無料でもらえるみたい」
「……!」
ガブリエルの目が輝いた。
「つまり!」
「うん」
「商品をもらって!」
「うん」
「紹介して!」
「うん」
「さらに報酬までいただける!?」
「そういう契約だね~」
「素晴らしいですわ!」
ガブリエルが拳を握る。
「配信者というものは、こんなにも素晴らしい職業でしたの!?」
「そこだけ切り取ると危ないよ」
マドカが呆れる。
「でも、面白そうじゃん」
「マドカ?」
「せっかくだし、お店に行ってみようよ」
「よろしいんですの!?」
「うん。ゴールのお店なら近いし」
「では、決まりですわ!」
ガブリエルが勢いよく立ち上がった。
「初めての企業案件!」
「なんか楽しそうだね~」
「ニコラも来てくださいまし!」
「私も?」
「ええ!」
ガブリエルは満面の笑みを浮かべる。
「魔道具のことを聞かれたら、わたくしでは答えられませんもの!」
「そこは私を利用するんだね~」
「もちろんですわ!」
「まあ、いいけど~」
こうして。
ガブリエルの初めての企業案件は、ゴールにある一軒の店から始まることになった。
そして数日後。
「皆様ー!」
配信画面にガブリエルが映る。
「本日は、ゴールにあるこちらのお店へ来ておりますわ!」
その隣にはニコラ。
「今日はお店の紹介だよぉ~」
「なんと、わたくしが実際に商品を使ってみますの!」
「まずはこれだね~」
ニコラが商品を持ち上げる。
「家庭用の収納魔道具」
「こちら、なんと――」
ガブリエルがカメラへ向かって商品を見せる。
「お片付けが苦手な方でも、簡単に収納できるそうですわ!」
「ガブちゃん、そういう人なの?」
「…………」
ガブリエルが止まる。
「今のは聞かなかったことにしてくださいまし」
「コメント欄、めっちゃ笑ってるよぉ~」
「ニコラさん!」
「はいはい~」
そんな二人のやり取りを見ながら、店主は笑っていた。
自分の店の商品が、こんな形で紹介される。
思っていた以上に楽しい。
そして――。
配信終了後。
「……思ったより人が来ましたね」
店主が呟く。
「ええ」
店員も驚いた顔をする。
「さっき紹介した収納魔道具、問い合わせが何件も来ています」
「…………」
二人は顔を見合わせた。
「……またお願いしてみるか?」
「次の商品も?」
「ああ」
こうして。
ゴールの商人たちは、少しずつ学んでいくことになる。
ガブリエルの配信は。
ただの王族のお遊びではない。
**ちゃんと商売になる。**
そしてガブリエル本人は――。
「次の案件は何ですの!?」
完全に楽しみ始めていた。




