ニコラのめっちゃ煽る配信
画面に映っているのは、眼鏡をかけたニコラ。
机の上には、いくつかの魔道具と工具が並んでいる。
「……こんにちはぁ~」
眠そうな声。
「今日は、魔道具をちょっと作るよぉ~」
『ニコラきた』
『今日は何作るの?』
『また変なの作ってる』
『この人、いつもやる気なさそうだな』
「うん~」
ニコラは工具を手に取る。
「やる気ないよぉ~」
『自分で言ったw』
『発明家としてそれでいいのか』
「いいんじゃないかなぁ~」
のんびりと部品を眺める。
その時。
『ニコラの魔道具って大したことないよな』
ニコラの手が止まった。
「……へ~」
コメント欄を見る。
『こんなの誰でも作れるだろ』
「ふ~ん」
部品を一つ手に取る。
「そうなんだぁ~」
『煽られてるぞw』
『ニコラ反応薄すぎ』
「そうかなぁ~?」
首を傾げる。
「じゃあ、作ってみる?」
『何を?』
「今言ったやつ」
『誰でも作れるって言ってる奴に作らせろ』
『ニコラ煽ってるw』
「別にぃ~」
ニコラは眠そうな顔のままだ。
「私、作れるからぁ~」
そこへ、またコメント。
『エキドナって宣伝ばっかりじゃん』
『大げさに騒いでるだけ』
『本当に凄いならもっと凄いもの作れよ』
「へ~」
『また拾ったw』
「もっと凄いもの?」
『そう』
「たとえばぁ~?」
『空飛ぶ船とか』
ニコラが止まった。
「……」
『ん?』
『何かスイッチ入った?』
ニコラがゆっくり顔を上げる。
「飛空艇なら、もうあるよぉ~」
『え』
『あるの?』
「うん~」
「今乗ってるやつぅ~」
『それは反則だろw』
『持ってるの!?』
「作ったのは私じゃないけどねぇ~」
また工具に戻る。
「でも、改造ならできるよぉ~」
『じゃあもっと速くして』
「できるよぉ~」
『もっと大きくして』
「できるよぉ~」
『百人乗りとか?』
「素材があればねぇ~」
『マジか』
コメント欄がざわつく。
すると、またアンチコメントが流れた。
『でも結局、素材がないと何もできないんだろ』
「へ~」
『それはそう』
「ふ~ん」
ニコラは部品を組み合わせながら答える。
「じゃあ、素材も作ればいいのかなぁ~?」
『!?』
『何言ってんだw』
「だってぇ~」
ニコラは眠そうに瞬きをする。
「素材がないからできないって言われたら、素材を作ればいいんでしょぉ~?」
『発想がヤバい』
『そこまでやるのか』
「でも、時間かかるから嫌だなぁ~」
また別のコメント。
『モンバトだって子供向けのゲームだろ』
「へ~」
『あんなの大した技術じゃない』
「ふ~ん」
『カード作ってるだけじゃん』
「で~?」
初めて、ニコラの語尾が少しだけ上がった。
『お?』
『でた』
『ニコラの「で~?」』
ニコラはコメントを眺める。
「カード作ってるだけなんだぁ~」
『そう』
「じゃあ、君が作ってみたらぁ~?」
『煽ってるw』
『急に強いw』
「カード作るだけなんでしょぉ~?」
『いやそういう意味じゃ』
「誰でもできるんだよねぇ~?」
『……』
「じゃあ、やってみてよぉ~」
『wwww』
ニコラは笑っていない。
むしろ、いつもの眠そうな顔のままだ。
「簡単なんでしょぉ~?」
『いや、そういう意味では……』
「そういう意味じゃない?」
「じゃあ、どういう意味なのぉ~?」
コメントが止まる。
「ねぇ~?」
ニコラが首を傾げる。
「簡単って言ったの、誰だっけぇ~?」
『ニコラ煽り性能高すぎ』
『無表情なのが怖い』
「私、難しいと思うけどなぁ~」
少しだけ笑った。
「だから作るの大変だったよぉ~」
コメント欄に別のアンチが現れる。
『でも売れてるのはエキドナが有名だからだろ』
「へ~」
『実力じゃなくて知名度』
「ふ~ん」
『名前が売れてるから買われてるだけ』
「そっかぁ~」
ニコラはしばらく考えた。
「じゃあ、名前を隠して売ってみようかなぁ~」
『!?』
「誰が作ったか分からない状態で売って、それでも売れたら実力ってことでいい?」
『その発想はなかった』
『アンチが企画考えてくれてるw』
「ありがとぉ~」
『煽ってるw』
「すごく助かるよぉ~」
ニコラは満足そうに頷く。
「こういうの、私一人だと考えないからねぇ~」
『褒めてないだろw』
「うん~」
「知ってるよぉ~」
また工具を動かす。
しばらくして、一つの小さな魔道具が完成した。
「はい」
『何これ?』
「簡単な通信魔道具」
『また作ったの?』
「うん~」
『それって売り物?』
「試作品」
『そんなすぐ作れるなら大したことないな』
ニコラが顔を上げる。
「……」
『あ』
『また来たw』
数秒の沈黙。
「じゃあさぁ~」
ニコラの目が少しだけ変わった。
「今から条件出してよ」
『条件?』
「どんな通信魔道具なら難しいと思う?」
『遠距離』
「どれくらい?」
『国をまたぐくらい』
「できるよぉ~」
『即答w』
「もうやってるしぃ~」
『……』
「じゃあ、同時に何人?」
『百人』
「できる」
『動画も送れるように』
「できる」
『リアルタイムで』
「できる」
『コメントも表示』
「できる」
『双方向』
「できるよぉ~」
『……』
ニコラが画面を見る。
「まだある?」
『お前何なんだよ』
「発明家だけどぉ~?」
『www』
コメント欄が一気に盛り上がる。
『アンチ完全敗北』
『ニコラ強すぎ』
『今日の配信おもしろい』
『もっと煽って』
「え~」
ニコラは少し嫌そうな顔をした。
「煽るの疲れるんだけどぉ~」
『そこはやる気ないのかよw』
「だってぇ~」
机に頬杖をつく。
「みんな勝手に煽られてくれるから、私が頑張る必要ないしぃ~」
『それ言っちゃう?』
「うん~」
『ひどいw』
しばらくコメント欄を眺めてから、ニコラがふと思い出したように口を開く。
「そういえばさぁ~」
『何?』
「最初に『こんなの誰でも作れる』って言った人ぉ~」
『いたな』
「まだいる?」
『いるぞ』
ニコラが画面を見る。
「じゃあ、作ってみてねぇ~」
『何を!?』
「なんでもいいよぉ~」
『無茶苦茶だろw』
「だって、誰でも作れるんでしょぉ~?」
『いや俺は作れない』
「え?」
『……』
「じゃあ、誰でもじゃないじゃん」
『wwwww』
ニコラはそこで初めて、少しだけ楽しそうに笑った。
「じゃあ、今日の配信はここまでぇ~」
『もう終わり?』
「うん~」
「今日はいっぱいコメントしてくれたから、楽しかったよぉ~」
『アンチも?』
「うん」
「特にアンチの人、いっぱい質問してくれてありがとぉ~」
『質問じゃねえw』
『完全に煽られてた』
『また来るわ』
「また来てねぇ~」
ニコラは眠そうに手を振る。
「次も簡単な魔道具作るからぁ~」
そして最後に。
「……誰でも作れるやつねぇ~」
にこっ。
配信終了。
その直後。
『今日のニコラやばかった』
『あの人、普段あんな感じなの?』
『いつもはもっと眠そう』
『じゃあ今日も眠そうだったじゃん』
『そこが怖いんだよ』
色欲で始まったニコラの配信は、その日のうちにちょっとした話題になった。
そして翌日から。
『ニコラさん、今日もアンチ来ますか?』
『アンチ役やります!』
『ニコラさん、これ簡単に作れますか?』
そんなコメントまで増え始める。
本人だけが、
「……なんでアンチ増えてるのぉ~?」
と、不思議そうにしていた。




