色欲ダンジョン完全攻略
ダンジョンへ入る前。
リゼットが三人を見回した。
「一つだけ、決めておこうか」
「なんですか?」
ナナリーが首を傾げる。
「今日は初見配信だからね」
リゼットは持っているカメラを確認しながら続けた。
「マドカとアリシアは、ナナリーに合わせて戦うこと」
「私に?」
「そう」
「どうしてですか?」
「せっかく三人で来たんだから」
リゼットは笑った。
「マドカとアリシアだけで全部倒していったら、ナナリーが何もすることなくなるでしょう?」
「……それは、そうですね」
ナナリーが苦笑する。
「私も戦いますからね?」
「もちろん」
マドカが頷く。
「じゃあ、ナナリーが戦える相手は私も同じくらいで戦う」
「私もそうしましょう」
アリシアも剣を構えた。
「ただし」
リゼットが少しだけ真面目な顔になる。
「本当に危なくなったら助ける。それだけは遠慮しないよ」
「はい!」
ナナリーも頷いた。
そして。
ダンジョン攻略が始まった。
最初に現れたのは、四足歩行の大型魔物だった。
「来ます!」
ナナリーが前へ出る。
魔物が突進してくる。
「っ!」
ナナリーが横へ跳ぶ。
そのまま距離を取って、魔力を込める。
「はっ!」
光が走った。
魔物の肩を撃ち抜く。
『おお!』
『聖女様ちゃんと戦えるじゃん!』
『普通に強くね?』
『これ初見で倒すの?』
魔物が怯んだ。
ナナリーが一気に距離を詰める。
「これで!」
最後の一撃。
魔物が倒れた。
「やりました!」
ナナリーが振り返る。
「……どうでした?」
「普通に強いね」
マドカが笑う。
「うん」
アリシアも頷く。
「さすが聖女様です」
『エキドナ二人の反応が普通w』
『もっと驚けよw』
『これで普通なのか……?』
二階層。
三体の魔物が同時に現れた。
「今度は三体ですね」
ナナリーが一体へ向かう。
「じゃあ、私たちはこっち」
マドカとアリシアも、それぞれ別の魔物へ向かった。
ほぼ同時に戦闘が始まる。
ナナリーが一体を相手にしている間に、マドカも一体。
アリシアも一体。
誰も横取りしない。
『ちゃんと三人で戦ってる』
『いいなこれ』
『聖女様だけ後ろじゃないのがいい』
『△って全員強いんだな』
ナナリーが魔物の攻撃を受け止める。
「くっ……!」
少し押される。
その瞬間。
横からマドカが飛び込んできた。
「ナナリー!」
魔物の爪を弾く。
「大丈夫?」
「はい!」
ナナリーがすぐに立て直す。
「ありがとうございます!」
「じゃあ、もう一回!」
「はい!」
二人で同時に攻撃する。
魔物が倒れた。
『今の助け方かっこいい』
『ちゃんとナナリーも最後まで戦ってる』
『こういうパーティー好き』
『聖女様が普通に前衛できるのすげえ』
五階層。
七階層。
十階層。
進むほど魔物は強くなっていった。
それでも。
三人は止まらない。
ナナリーが魔法で敵を削る。
マドカが身体能力で翻弄する。
アリシアが剣で確実に仕留める。
そして危ないところだけ、お互いが補う。
『聖女様また倒した』
『普通に強い』
『あれ一人で倒してるぞ』
『マドカちゃん速すぎw』
『アリシアさんの剣技綺麗だな』
『この三人バランス良すぎる』
『色欲の聖女ってこんな強かったの?』
ナナリー自身も、少しずつ緊張が解けていった。
「なんだか、楽しいですね!」
「うん」
マドカも笑う。
「こういうの久しぶり」
「私もです」
アリシアが魔物を倒しながら答えた。
リゼットはその様子を後ろから撮り続ける。
時々、三人の動きを見ている。
そして。
十六階層。
巨大な魔物が現れた。
「これは……」
ナナリーが少し身構える。
「強そうですね」
「うん」
マドカも構える。
「じゃあ、行こう」
戦闘が始まる。
今までより激しい。
ナナリーの魔法が魔物の身体を削る。
アリシアが隙を突いて斬り込む。
マドカが攻撃を避けながら一気に距離を詰める。
魔物の一撃がナナリーへ迫る。
「危ない!」
アリシアが割り込んだ。
剣で受け止める。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして」
ナナリーがすぐに魔法を放つ。
魔物が怯む。
「今です!」
マドカが飛び込む。
一撃。
魔物が倒れた。
『うおおおお!』
『三人とも強い!』
『聖女様もちゃんと戦ってる!』
『これ色欲の人たち見たらびっくりするだろ』
『聖女様こんなことできたの!?』
『歌って踊るだけじゃなかったw』
十八階層。
十九階層。
そして。
二十階層。
「……」
目の前に巨大な扉があった。
「ここが最後ですね」
アリシアが呟く。
「はい」
ナナリーも頷いた。
今までとは明らかに違う。
扉の向こうから伝わってくる魔力。
それだけで、身体が強張る。
コメント欄も一気に騒がしくなった。
『来た』
『二十階層』
『最深部か』
『この扉やばい』
『なんだこの魔力』
『これ絶対ラスボスだろ』
『聖女様、大丈夫か?』
ナナリーは小さく息を吐いた。
「……ちょっと緊張します」
「うん」
マドカが答える。
「これは強そう」
「ですね」
アリシアも頷く。
リゼットは三人を見た。
「大丈夫」
それだけ言って。
「行こうか」
扉が開く。
――轟ッ!
凄まじい魔力が吹き荒れた。
巨大な魔物が立っている。
今までの敵とは、明らかに違う。
圧倒的な巨体。
異形の身体。
全身から溢れ出す魔力。
そして。
こちらを見下ろす二つの眼。
『うわあああああ!』
『なんだこいつ!?』
『でかすぎる!!』
『これ勝てるの!?』
『死ぬだろこれ!!』
『聖女様逃げて!!』
ナナリーの表情が強張った。
「……これは」
手に力が入る。
さすがに。
今までとは違う。
「行きます!」
それでもナナリーは前へ出た。
魔物が咆哮する。
地面が揺れる。
ナナリーが魔法を放つ。
マドカが走る。
アリシアが斬り込む。
三人が同時に動いた。
激しい戦いが始まった。
しばらくして。
ナナリーは必死だった。
「はぁ……っ!」
攻撃を避ける。
魔法を放つ。
また避ける。
それでも魔物は倒れない。
「強い……!」
ナナリーが息を切らす。
その横で。
マドカが攻撃を受け流した。
アリシアが別方向から斬り込む。
そして。
何度か攻撃を繰り返したところで。
マドカが小さく呟いた。
「……あれ?」
アリシアも同じような顔をする。
「思ったより……」
二人の感覚では。
もう分かってしまった。
強い。
確かに強い。
けれど。
エキドナで普段相手にしているものと比べれば。
「……こんなもんか」
マドカが呟く。
アリシアも小さく頷いた。
「そうですね」
ナナリーだけは。
「え?」
必死に戦いながら二人を見る。
「何がですか!?」
コメント欄が爆発した。
『今なんて言った!?』
『こんなもんか!?』
『お前ら正気か!?』
『ラスボスだぞ!?』
『聖女様だけ必死なの草』
『いやナナリーも十分ヤバいからな!?』
『この三人どうなってんだよw』
リゼットはカメラを構えたまま、少し笑った。
「まあ、二人とも慣れてるからね」
「慣れすぎじゃないですか!?」
ナナリーが叫ぶ。
それでも。
三人は最後まで一緒に戦った。
ナナリーが魔法を撃つ。
アリシアが斬る。
マドカが最後の一撃を叩き込む。
巨大な魔物が。
ゆっくりと倒れた。
轟音。
静寂。
そして。
『…………』
『勝った』
『マジで勝った』
『三人とも強すぎる』
『聖女様すげええええ!』
『ナナリー様、普通にラスボス戦やってたぞ』
『色欲の聖女ってこんな人だったの!?』
『歌って踊る聖女じゃなかった』
『いや歌って踊るけどダンジョンも攻略する聖女だった』
ナナリーは荒い息を整えながら、魔物を見つめた。
「……倒せた」
そして。
ふっと笑う。
「やりましたね!」
「うん」
マドカが笑った。
「楽しかった」
「はい」
アリシアも笑う。
リゼットはカメラを三人へ向けた。
「それじゃあ」
最後に。
「色欲の皆さん、見てくれてありがとう」
ナナリーがカメラを見る。
「ありがとうございました!」
その笑顔は。
いつもの聖女の笑顔だった。
けれど。
今日の配信を見た色欲の人々が、その姿に抱いた印象は。
これまでとは少し違っていた。
歌える。
踊れる。
人当たりもいい。
そして。
――ダンジョンの最深部まで、自分の足で踏破できる。
聖女ナナリー。
どうやら。
思っていたより、ずっと凄い人らしい。




