準備OK
そして。
色欲での配信環境が整ってから、しばらく。
ナナリーたちの活動は、順調に広がっていた。
△の三人によるライブ。
ナナリーのソロ。
マドカとアリシアを加えた三人での歌や踊り。
それらは情報塔から配信され、家庭にある端末からも見られるようになっている。
もちろん、ライブの様子は映像結晶にも記録された。
店頭に並べれば、また売れる。
教会も積極的に宣伝してくれている。
色欲での△の知名度は、少しずつ上がっていた。
そして。
「……そろそろかな」
ニコラが端末を眺めながら呟いた。
「何が?」
「接続数~」
数字を確認する。
「色欲の家庭用端末、結構増えたよ~。これなら配信しても、ちゃんと見てくれる人がいると思う~」
「じゃあ、やる?」
マドカがナナリーを見る。
「うん!」
ナナリーは嬉しそうに頷いた。
「私、色欲のみんなにも見てもらいたいです!」
「だったら決まりね」
リゼットが立ち上がる。
「今回はダンジョン配信にしようか」
「おお……!」
アリシアも少し目を輝かせた。
「ダンジョンを、そのまま配信するのですか?」
「そう。せっかく色欲まで来たんだからね」
「楽しそう!」
マドカも乗り気だった。
ただし。
今回の配信には、ひとつだけ大きな条件がある。
「ちなみに、みんな今回のダンジョンは初めてだよ~」
ニコラが言った。
「え?」
マドカが振り返る。
「初めて?」
「うん~」
「……エキドナの人たち、先に調べたりしてないの?」
「してるよ~」
「してるんじゃん!」
思わずマドカが突っ込む。
「でも、それは配信する人には秘密~」
「なんで?」
「初見のほうが面白いから~」
ニコラはあっさり答えた。
技術班はすでに何度もダンジョンへ入り、素材を集めている。
欲しい素材も確認している。
魔物のデータも集めている。
けれど。
その情報は、今回の四人には渡さない。
どこに何がいるのか。
どこで道が分かれるのか。
どんな魔物が出てくるのか。
それすら知らないまま。
本当に初めて入る。
「じゃあ、今回は私たち四人だけ?」
アリシアが確認する。
「そう」
リゼットが頷いた。
「マドカ、アリシア、ナナリー。それから私」
「リゼットさんは戦うんですか?」
「必要ならね」
そう言って、リゼットは手元の配信カメラを持ち上げた。
「基本はこれを持って撮影するよ」
「あ、カメラ役なんですね」
「そういうこと」
「じゃあ四人パーティーですね!」
ナナリーが嬉しそうに笑う。
「うん。今回は私たち四人で、色欲のダンジョンを初見攻略」
マドカが拳を握る。
「なんか楽しそう!」
「マドカちゃん、ダンジョンですよ?」
「うん!」
「……楽しそうですね」
アリシアまで笑った。
リゼットは三人を見回す。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
「行こー!」
「よろしくお願いします!」
四人はダンジョンへ向かった。
◇
色欲のダンジョン。
その最深部へ向かう道を、四人は知らない。
もちろん。
後方のエキドナ関係者も、配信を見ているだけだ。
コメントもしない。
何も教えない。
先に攻略していることを悟らせるようなことも、一切しない。
今日の配信だけは。
本当に四人の初見攻略だ。
「では、行きます!」
ナナリーがカメラに向かって笑う。
「色欲のダンジョン、初挑戦です!」
『聖女様ダンジョン行くの!?』
『△きた!』
『リゼットさんもいる』
『四人で攻略か』
『色欲のダンジョンってどんな感じなんだ?』
コメントが流れる。
「おお……」
ナナリーが目を輝かせた。
「ちゃんと色欲の人たちも見てくれてますね!」
「よかったね」
リゼットがカメラを少し傾ける。
「それじゃあ、行こう」
「はい!」
四人は歩き出した。
この先に何があるのか。
誰も知らない。
少なくとも。
画面の向こう側にいる視聴者たちと、同じくらいには。




