教会へ
色欲へ到着した五人は、まずナナリーの家へ向かった。
「ただいまー!」
玄関を開けたナナリーの声が響く。
しばらく留守にしていた自宅。
少しだけ埃はあるものの、大きく変わったところはない。
「懐かしい……」
ナナリーが室内を見回す。
「ちゃんと家ですね」
「そりゃ家だからね」
マドカが笑う。
アリシアも部屋の中を見回した。
「ここがナナリーさんのお家ですか」
「はい。普段はここで暮らしています」
リゼットは部屋を一通り確認すると、荷物を置いた。
「まずは転移陣ね」
「うん~」
ニコラが持ってきた道具を取り出す。
「ここなら設置できそうだよぉ~」
「じゃあ、お願い」
「はーい」
ニコラが床の一角を確認する。
続いて、持ち込んだ魔道具を並べていく。
リゼットも横から手伝い、転移陣を組み上げていく。
大掛かりな作業には見えた。
しかし。
「これでいいかな~」
「ええ。問題ないわ」
ニコラが最後の魔石を嵌め込む。
淡い光が床を走った。
「……できた」
マドカが覗き込む。
「もう?」
「転移陣だからねぇ~」
「そんな簡単に言われても……」
ナナリーが苦笑する。
ニコラが魔道具を確認した。
「ゴール側とも繋がってるよ~」
「本当に?」
「うん~」
これで。
色欲と怠惰を、いつでも行き来できる。
「これで、色欲での作業も楽になるね」
リゼットが転移陣を眺める。
「必要なものはゴールから持ってこられるし、向こうから人を呼ぶこともできる」
「じゃあ、技術班も呼べる?」
マドカが尋ねる。
「呼べるよぉ~」
「便利だなぁ」
ナナリーも嬉しそうに頷いた。
「これなら私も、色欲と怠惰を行ったり来たりできますね」
「そうだね」
マドカが笑う。
「でも、まずは仕事」
「はい!」
ナナリーが背筋を伸ばす。
色欲へ帰ってきた。
けれど、今日は里帰りだけではない。
ここから、色欲での活動を始めるために来たのだ。
「じゃあ、教会に行こうか」
「はい」
五人は家を出た。
◇
色欲の町を歩く。
ナナリーが戻ってきたことに気づいた人が、ちらほらと声をかけてくる。
「ナナリー様!」
「お帰りなさい!」
「お久しぶりです!」
「ただいま!」
ナナリーも笑顔で応える。
怠惰へ行く前よりも、明らかに声をかけてくる人が多い。
「……人気、上がってるね」
マドカが小声で言う。
「そうでしょうか?」
「うん。前より多いよ」
ナナリーは少し照れたように笑った。
「怠惰で活動していた影響でしょうか」
「たぶんね」
リゼットも周囲を見る。
「実際、怠惰から戻ってきた聖女がどんな活動をしていたのか、こちらでも話題になっているのでしょうね」
「それなら、よかったです」
ナナリーは嬉しそうだった。
やがて。
五人は色欲の教会へ到着した。
ナナリーが中へ入ると、すぐに職員が気づいた。
「ナナリー様!」
「お帰りなさいませ!」
「ただいま戻りました」
そのまま奥へ案内される。
しばらくして。
教会の上層部にあたる人物たちが集まってきた。
「ナナリー。無事に戻ったようで何よりです」
「はい」
「怠惰での活動については、こちらにも報告が届いています」
ナナリーが少し姿勢を正す。
「ありがとうございます」
「それにしても……」
教会側の一人が、マドカたちを見る。
「こちらの方々が、今回一緒に来られた方々ですか?」
「はい」
ナナリーが紹介していく。
「マドカちゃんです」
「よろしくお願いします」
「アリシアさんです」
「よろしくお願いいたします」
「そして、こちらがリゼットさん」
「よろしくお願いします」
「ニコラさんです」
「よろしく~」
教会側は、それぞれに挨拶を返した。
そして。
「それで、ナナリー」
一人が尋ねる。
「怠惰での活動は、実際どうだったのですか?」
「はい!」
ナナリーの表情が明るくなる。
「すごく楽しかったです!」
「……」
あまりにも即答だったので、教会側が少し驚く。
「歌や踊りだけではありません。配信というものにも参加させてもらいました」
「配信?」
「はい」
マドカが口を挟む。
「せっかくだから、見てもらえば?」
「そうですね」
ナナリーが頷く。
「怠惰での活動を、実際に見ていただいたほうが分かりやすいと思います」
ニコラが持ってきた端末を取り出した。
「これで見られるよぉ~」
「これは?」
「タブレット」
「タブレット……?」
教会側が首を傾げる。
「じゃあ、ちょっと見てみよっか」
ニコラが操作する。
画面が切り替わった。
そこに映ったのは。
怠惰の町。
情報塔。
そして。
ステージに立つナナリー。
「……!」
教会側の表情が変わる。
映像の中のナナリーが歌っている。
踊っている。
その周囲には大勢の観客。
さらに画面には、次々と文字が流れていく。
「これは……」
「怠惰で行われた配信です」
ナナリーが説明する。
「この時は町の情報塔から、町中へ映像が送られていました」
「町中へ……?」
「はい」
別の映像に切り替わる。
今度はエキドナの活動風景。
ニコラの魔道具製作。
マドカのモンバト。
そして、ダンジョン探索。
教会側が食い入るように画面を見る。
「これほどのものが……」
「怠惰では普通に使われているんです」
マドカが何気なく言う。
「普通……?」
「うん」
教会側の視線が、ゆっくりとナナリーへ向いた。
「ナナリーの配信も?」
「はい」
「これだけの人が見ているのですか?」
「怠惰では、ですね」
ナナリーが答える。
「最近は、私の配信を楽しみにしてくださる方も増えました」
教会側が黙って画面を見る。
そこには、笑顔で歌うナナリー。
そして、画面の端を流れていく大量のコメント。
「……」
やがて。
「これは、色欲でも使えるのでしょうか?」
ニコラが笑った。
「作れば使えるよぉ~」
「作れば?」
「うん~」
ニコラはあっさり答える。
「怠惰と同じように、情報塔を作って、そこから放送すればいいよ」
「……」
教会側の視線が集まる。
「放送する内容は?」
「なんでもいいよぉ~」
「なんでも?」
「ナナリーちゃんの歌でもいいし~」
ニコラが指を折る。
「教会のお知らせでもいいし~。祭典とか、行事とか。ほかの人が歌ったり、料理したりしてもいいし~」
「つまり……」
教会側がゆっくりと言葉を選ぶ。
「我々自身が、放送することもできる?」
「できるよぉ~」
即答だった。
「……」
教会の人間たちが顔を見合わせる。
もう一度、タブレットの画面を見る。
そこには、怠惰の町で当たり前のように使われている情報塔の映像が映っていた。
「……これは」
一人が呟く。
「我が教会にも、必要なのでは?」
ナナリーが笑った。
「そう思っていただけましたか?」
「ええ」
今度は迷いがなかった。
「色欲にも、これを作りたい」
ニコラが頷く。
「じゃあ、作ろっか~」
あまりにも軽い返事に。
教会側は、少しだけ呆れたような顔をした。
けれど。
その顔には、確かな期待が浮かんでいた。




