空の旅
色欲へ向かう空の旅。
飛空艇は、雲の上を進んでいた。
いや。
進んでいる、という表現が正しいのかは少し怪しい。
ニコラが調整した飛空艇は、空気抵抗をほとんど無視している。
風を切る音すらほとんどしない。
雲を抜け。
雲を追い越し。
眼下の景色だけが、ものすごい勢いで後ろへ流れていく。
それなのに。
「お弁当、どうぞ」
「ありがと」
「わぁ、おいしそう!」
船内は、妙に穏やかだった。
中央に置かれたテーブルには、用意してきた弁当が並んでいる。
マドカ、アリシア、ナナリー、リゼット、ニコラ。
五人で囲むには十分な量だ。
「飛空艇の中でお弁当って、なんだか不思議ですね」
ナナリーが窓の外を見ながら笑う。
「そう?」
マドカは弁当のおかずを眺めていた。
「だって、今ものすごい速度で飛んでるんでしょ?」
「そうだねー」
操縦席からニコラが答える。
「かなり速いよぉ~」
「それなのに全然揺れない……」
「空気抵抗を減らしてるからねー」
「へぇ……」
アリシアも窓の外を見る。
遠くに山脈が見える。
そのさらに向こうには、青い海が広がっていた。
「空から見ると、こんなに小さく見えるんですね」
「町なんて、もう豆粒みたいだよ」
マドカが窓に顔を近づける。
「……あっ」
「どうしました?」
「鳥」
五人の視線が前方へ向いた。
小さな鳥が一羽。
こちらへ向かって飛んでくる。
「避けるかな?」
「避けるんじゃない?」
ニコラは特に操縦を変えない。
「……」
「……」
「……」
鳥が近づいてくる。
「ニコラ」
「うん~」
「避けたほうがよくない?」
「たぶん大丈夫~」
「たぶん!?」
次の瞬間。
ゴンッ。
「……」
「……」
「……」
飛空艇は何事もなかったように飛び続ける。
マドカがゆっくりとニコラを見る。
「今、鳥……」
「当たったね~」
「大丈夫なの!?」
「たぶん~」
「また!?」
リゼットがため息をつく。
「ニコラ。速度、少し落とせない?」
「落とせるよぉ~」
「じゃあ、落とそうか」
「でも、色欲に着くの遅くなるよ?」
「……」
リゼットは黙って弁当を取った。
「食べましょう」
「諦めた!?」
ナナリーが思わず笑う。
アリシアも口元を押さえている。
「鳥さん……大丈夫でしょうか」
「たぶん~」
「その『たぶん』やめません?」
マドカはそう言いながらも、弁当を一つ手に取った。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます~」
五人で昼食を始める。
窓の外には、どこまでも続く青空。
眼下には山々。
遠くには海。
雲の上を走る飛空艇の中で、五人はのんびりと弁当を食べていた。
「……なんか、旅行みたいだね」
マドカが呟く。
「そうですね」
ナナリーが微笑む。
「私、こういうの好きです」
アリシアも頷いた。
「目的地へ向かっているだけなのに、少し特別な気分になりますね」
リゼットは窓の外を眺めながら、静かに笑った。
「たまにはこういう旅も悪くないね」
「だよねぇ~」
ニコラも操縦席から振り返る。
「じゃあ、もうちょっと速度上げよっか~」
「お弁当食べてる最中だよ!?」
再び。
飛空艇は青空を駆けていった。




