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落内円は落ちている  作者: 七風


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レッスン

 トライアングル結成後、最初のレッスン。


 まずは基本的な歌とダンスから始まった。


「じゃあ、まずはこの動きから」


 講師が見本を見せる。


 マドカは返事をするでもなく、じーっと観察していた。


 足の位置。

 身体の向き。

 腕を上げるタイミング。


「ふーん……」


 何度か見たあと、マドカが立ち上がる。


「なるほどね。こうでしょ?」


 同じ動きをする。


 ほぼ完璧だった。


「……何で出来るの!?」


「え? 見てたらなんとなく」


「なんとなくで出来る動きじゃないんだけど……」


 隣ではアリシアも一度見ただけで同じ動きを再現していた。


「私もなんとなくわかりました」


「…………」


 講師が二人を見比べる。


 その様子を、部屋の端に置かれた配信用の記録装置がずっと撮影していた。


 今回のレッスンは、最初から記録することになっている。


 完成した映像だけではなく、三人が上達していく過程も商品にするためだ。


「アリシアさんは、もう練習いりませんね」


 マネが映像を確認しながら言う。


「え?」


「振り付けを覚えるのが早すぎます。ナナリーさんは経験がありますし、マドカちゃんは……」


「私は?」


「見ただけで覚えるので、教える側が困っています」


「へー」


 マドカは気にせず、次の動きを待つ。


「じゃあ次、歌にしましょうか」


 今度は歌。


 三人で歌ってみる。


 ナナリーは安定している。


 アリシアも、初めてとは思えないほど綺麗に声を合わせてくる。


 そしてマドカ。


「♪……」


 頑張っている。


 ものすごく頑張っている。


 だが、どうにも噛み合わない。


「……あれ?」


 もう一度。


 また少し外れる。


「マドカちゃん、歌は難しい?」


「うん……なんか難しい」


 マドカは真剣な顔で何度も挑戦する。


「もう一回!」


「はい!」


 それでも苦戦する。


「曲、変えます?」


 講師が尋ねる。


「え?」


「別の曲なら、歌いやすいかもしれません」


「……うん」


 次の曲が流れる。


 イントロを聞いた瞬間、マドカの表情が変わった。


「……あ」


 そして歌い始める。


 今度は外れない。


 さっきまで苦戦していたのが嘘のように、自然に歌えている。


 ナナリーが目を丸くした。


「……え?」


 歌い終わる。


「……めっちゃ歌える」


「何で!?」


 ナナリーが叫ぶ。


「さっきまで全然だったじゃないですか!」


「だってこれ、にゃにゃこちゃんの曲だもん」


「…………」


 ナナリーが固まった。


「マドカちゃん……」


「私、この曲めっちゃ聴いてたから」


 その横では、アリシアがその曲まで綺麗に歌っていた。


「アリシアも歌えるの!?」


「はい。歌も好きですよ」


「…………」


 マネが記録映像を確認する。


「これ、いいですね」


「何が?」


「全部です」


 マネは映像を止めなかった。


「マドカちゃんがダンスを覚えるところも、歌で苦戦するところも、そこから急に歌えるようになるところも」


「そのまま売るの?」


 リゼットが聞く。


「はい。完成版とは別商品にしましょう」


「値段は?」


「練習風景ですから、子供でも買えるくらいで」


「それならいいんじゃない?」


 こうして、三人の初日のレッスン風景は、その日のうちに映像結晶として商品化された。


 エキドナショップ。


 棚に新しく並んだ映像結晶を、子供たちが見つける。


「これ何?」


「トライアングル?」


「ナナリー様いる!」


 一人の少年が手に取った。


「いくら?」


 値段を聞いて、少年の顔が明るくなる。


「これなら買える!」


 財布から小銭を出す。


「ありがとうございましたー!」


「やった!」


 少年は映像結晶を大事そうに抱えた。


 隣の女の子も棚を覗き込む。


「私も欲しい」


「でも練習だよ?」


「うん。でもマドカちゃん出てる」


「……じゃあ私も買う」


 子供たちは次々と映像結晶を買っていった。


 そして店の外。


「帰ったら見る!」


「一緒に見よう!」


「ナナリー様の歌あるかな?」


「マドカちゃん、踊れるんだって!」


 その日の夜。


 買った子供たちが集まり、さっそく映像結晶を再生する。


「おおー!」


「すごい!」


「一回見ただけで覚えた!」


 マドカのダンスに歓声が上がる。


 そして歌の場面。


「……あれ?」


「外した!」


「マドカちゃん頑張れー!」


 子供たちは笑いながらも、画面のマドカを応援する。


 そして、にゃにゃこちゃんの曲が流れた瞬間。


「えっ!」


「歌えるじゃん!」


「すげー!」


 子供たちは大喜びだった。


 完成版ではない。


 けれど、初日の三人がそこにいる。


 これから上手くなっていく三人を、最初から見られる。


 それだけで、子供たちには十分楽しい商品だった。


 そして翌日のレッスン。


「マドカちゃん、昨日の続き見た!」


「ほんと?」


「もっと上手になって!」


「うん!」


 マドカは笑って、レッスン室へ駆けていった。


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