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落内円は落ちている  作者: 七風


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転生者

ライブが終わっても、すぐに二人が話し込むことはなかった。


ナナリーにはマネージャーもいるし、演奏をしてくれた二人もいる。


マドカの後ろには、エキドナの仲間たちもいた。


だから昼間は、互いに宿の場所だけを伝えた。


「……あとで、行ってもいい?」


「うん。待ってる」


それだけだった。


ライブの片づけが終わり、街も静かになった頃。


マドカは一人で、ナナリーの泊まっている宿へ向かった。


扉をノックする。


「どうぞ」


「……こんばんは」


「ふふ。いらっしゃい」


扉を開けたナナリーが、少しだけ笑った。


昼間の聖女の顔とは違う。


マドカも、少しだけ緊張していた。


「……本当に、にゃにゃこちゃんなんだね」


「うん」


即答だった。


「声もそうだし、踊り方もそうだし……」


「そこまで分かる?」


「分かるよ」


マドカは少し笑った。


「ずっと見てたから」


「……そっか」


ナナリーが嬉しそうに目を細める。


「じゃあ、今度は私から聞いていい?」


「うん」


「マドカちゃんって、前世のこと……どれくらい覚えてるの?」


「けっこう覚えてるよ」


「じゃあ、日本のことも?」


「うん」


「そっかぁ……」


ナナリーは少しだけ天井を見上げた。


「なんか、不思議だね」


「うん」


「私、転生してからずっと、地球のこと誰にも話せなかったから」


「……そうなんだ」


「マドカちゃんは?」


「私も似たようなものかな。でも仲間には前世のアイディアとかで商品化してもらったり もう一人転生者の仲間いるんだ。今度紹介するよ!」


マドカが聞く。


「にゃにゃこちゃんは、こっちに来てからどうしてたの?」


「記憶が戻ったのが1年半前、生活も違うし。しばらくは大変だった。でも元になるナナリーの記憶を引き継いでたからね。」


「それで……聖女になったの?」


「そう。歌ってたら教会の人に見つかって」


「歌ってたんだ」


「歌は前世から好きだったから」


「じゃあ、踊りも?」


「もちろん」


「やっぱり」


マドカは納得したように頷いた。


「今日の踊り、すごくにゃにゃこちゃんだった」


「どこが?」


「全部」


「全部って……」


ナナリーが笑う。


「でも、マドカちゃんもすごかったよ」


「私?」


「うん。あんなにすぐ分かるとは思わなかった」


「だって……」


マドカは少し考えてから言った。


「ゲーム配信、ずっと見てたから」


「ゲーム配信まで?」


「うん」


「歌だけじゃなかったんだ」


「むしろゲームのほうが見てたかも」


「えぇ……」


ナナリーが少し驚いた顔をする。


「そこまで見てたんだ……」


「面白かったから」


「……ありがとう」


少し照れたように笑ってから、ナナリーは聞いた。


「マドカちゃんは、こっちに来て何してたの?」


「私は……」


マドカは少し考える。


「色々かな」


「色々?」


「仲間が増えて、町を作ったり、物を作ったり。最近は配信まで始めた」


「うん。それは知ってる」


「見てた?」


「結構見てたよ」


「そっか」


今度はマドカが少し笑った。


「じゃあ、にゃにゃこちゃんも、私のこと知ってたんだ」


「うん」


「私に会うために来たの?」


ナナリーが一瞬だけ黙る。


マドカは、その答えを急かさなかった。


「……ゴールまで来たのって、何か目的があったの?」


「ううん」


ナナリーは笑った。


「もう、かなったんだよ?」


「え?」


「マドカちゃんに会えたから」


「……それだけ?」


「うん」


あまりにもあっさり言われて、マドカが少し困った顔をする。


「色々なところで、あなたが活躍してるのを知ったから」


ナナリーは静かに続けた。


「どんなところにいるんだろうって思って」


「それで来たの?」


「うん」


「目的とかじゃなくて?」


「別に目的なんてないんだ」


ナナリーは少し笑った。


「ただ……地球のこと、誰かと共有したかった」


マドカは黙って聞いていた。


「こっちに来てから、ずっと一人だったから」


「……うん」


「今日、マドカちゃんが分かってくれて」


ナナリーが嬉しそうに笑う。


「あなたに見つけてもらえて、よかった」


「……私も」


「え?」


「会えてよかったよ」


ナナリーが少しだけ目を丸くする。


「だって……」


マドカは照れたように視線を逸らした。


「私の推しだったから」


「……ふふっ」


ナナリーは声を抑えて笑った。


「そこは、やっぱり変わらないんだね」


「変わらないよ」


二人の間に、今度は気まずさはなかった。


地球のことを知っている人が、もう一人いる。


それだけで、少しだけ世界が近くなった気がした。

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