ダンジョン配信
「今日はダンジョン配信やってみようか」
マドカがそう言うと、ティニアが嬉しそうに飛び跳ねた。
「ダンジョン配信!」
「はいはい。カメラはちゃんとこっち向けてねぇ~」
ニコラが片手で魔道具を持ち上げる。
その反対の腕には、いつもの端末。
配信映像は情報塔へ送られ、視聴者から届いたメッセージは端末に表示される。
「これ、コメントも見られるんだよね?」
「見られるよぉ~。ほら」
ニコラが端末を軽く傾ける。
『始まった!』
『本当にダンジョンから配信してる!』
『エキドナのダンジョン配信きたー!』
『今日のメンバー誰?』
『マドカちゃん、ティニアちゃん、リゼットさん、ニコラさんか』
『ニコラさんカメラマンなんだ』
「そうだよぉ~。今日は撮るだけ~」
「ニコラ、撮るだけって言い方だと暇そうね」
「暇だからねぇ~」
「そこは否定しなさいよ……」
リゼットが呆れたように言った。
『この4人好き』
『戦闘できるの?』
『リゼットさんいる時点で余裕では?』
『マドカちゃんは普通に強いだろ』
「お、なんか来たよ」
マドカが前方を指差した。
通路の奥から、巨大なモンスターが姿を現す。
『でかっ』
『何あれ!?』
『あれ見たことない』
『ダンジョン何階ですか?』
「何階だっけ?」
「三十階~」
ニコラが答えた。
『30階!?』
『え?』
『最深部じゃん』
『なんでそんなところで配信してんの!?』
『ちょっと待って、30階って一般冒険者が来るところじゃないだろ』
コメントが一気に増える。
マドカはそれを見ながら、近づいてくるモンスターへ視線を向けた。
「このモンスターの弱点?」
コメントの一つを読み上げる。
「硬いだけだよ」
『???』
『弱点じゃねえ』
『硬いのが弱点!?』
『参考にならねぇw』
『一般冒険者「適当いうなよぉ・・・・」』
ティニアが笑い出す。
「弱点じゃないじゃん!」
「でも硬いだけだよ?」
マドカが首を傾げる。
そしてモンスターがこちらへ突進してくる。
「じゃ、倒すね」
マドカが一歩踏み出す。
巨大な腕が振り下ろされた。
――ドゴォン!
『うわあああああ!』
『避けた!?』
『速っ』
『マドカちゃん余裕すぎない?』
『今の攻撃食らったら普通に死ぬぞ』
「よいしょ」
マドカが腕を振る。
巨大なモンスターが吹き飛んだ。
『え?』
『え???』
『今ので倒した?』
『硬いだけとは』
『硬いだけじゃねえよwww』
「ほら、硬いだけだった」
「マドカ、それは倒した側だから言えるのよ……」
リゼットがため息をつく。
『リゼットさん、解説お願いします』
『先生お願いします』
『このモンスターの攻略法教えてください』
「そうね。このモンスターは――」
リゼットが説明を始める。
その横でティニアが端末を覗き込んだ。
「質問いっぱい来てる!」
「どれ?」
『エキドナっていつもこんな感じなんですか?』
「いつも?」
マドカが考える。
「こんな感じだね」
『ですよね』
『知ってた』
『安心した』
『なんだこの配信w』
ニコラがカメラを持ったまま、のんびりと呟く。
「楽しいねぇ~」
『ニコラさん何もしてないw』
『カメラマンだからいいんだよ』
『そのカメラいくらですか?』
「これは売ってるよぉ~。エキドナショップで~」
『宣伝きた』
『買えるの!?』
『俺もダンジョン配信したい』
『配信機材いくら?』
「あとで説明するよぉ~」
ニコラはそう言うと、またカメラをモンスターへ向けた。
「次、来たよぉ~」
「じゃあ行こう」
「今度は私がやる!」
ティニアが前へ飛び出す。
『ティニアちゃん戦うの!?』
『妖精がダンジョン攻略してる』
『かわいい』
『頑張れー!』
そんなコメントを読みながら、四人は何事もなかったようにダンジョンの奥へ進んでいった。
「ふぅ……ちょっと休憩しようか」
マドカたちは通路の端に腰を下ろした。
ニコラはカメラを適当な位置に置き、腕に装着した端末を眺めている。
『質問です! 他の冒険者も配信できますか?』
「あー、それね」
マドカがコメントを読み上げる。
「休憩中に説明しちゃおうか」
『お願いします!』
『俺もダンジョン配信やりたい!』
『エキドナ以外も使えるの?』
「もちろんだよ~」
ニコラが端末を操作する。
「別売りの配信カメラを買えば、自分たちでも情報塔に映像を送れるよぉ~」
『カメラいくらですか?』
『高そう』
『冒険者でも買える値段?』
「本体いくらだっけ?」
「モンバト程度の値段かなぁ~」
『モンバト程度!?』
『なら買える!』
『ちょっと欲しくなってきた』
『配信って儲かるんですか?』
「人気出れば……色んな依頼がくるかも……」
マドカが少し考えて答える。
「この人たち面白いなーって思ってもらえたら、指名依頼とか来るかもしれないし」
『なるほど』
『冒険者の宣伝にもなるのか』
『俺たちのパーティーもやろうぜ!』
『でも勝手に配信していいの?』
「あ、配信予約は役所でしてね~」
ニコラがさらっと付け加えた。
『役所なんだ』
『ちゃんと管理されてるw』
『何時から誰が配信するって予約する感じ?』
「そうそう」
「情報塔の予定表に載せておけば、見たい人が待っていられるからね」
『じゃあ好きなパーティーの配信を見に行けるんだ』
『ダンジョンの中見られるのが普通みたいになってきたな』
『冒険者配信者とか出てきそう』
「いいねぇ~」
ニコラがのんびり頷く。
「それならカメラももっと売れるかも~」
「商売する気あるの?」
「ないよぉ~」
「ないのか……」
そんな話をしていると、マドカがふと思い出したようにニコラを見る。
「あ、ニコラ」
「ん~?」
「さっきのモンスター、素材にする?」
「ん~……」
ニコラが少し考える。
「それ、在庫いっぱいあるね~」
「そっか」
「んじゃ、冒険者ギルドに売りつけるか」
「お姉ちゃん、インベントリ入れといて」
「はいはい」
リゼットが立ち上がる。
「いらないモンスターばかり増えるわね……」
『え?』
『今のモンスター売るの?』
『素材余ってるのか』
「データ化もしてあるよ?」
マドカが何気なく言った。
『データ化!?』
『え、モンバトのデータ?』
『30階層のモンスター!?』
『ちょっと待って』
『それって売ってもらえたりします?』
「データもほとんどのモンスター取ったし」
マドカが端末を確認する。
「カード余ってるよ」
「余ってたら売ったら~?」
ニコラが言う。
『え』
『売ってもらえるの?』
『マジか』
『30階層のモンスターだと……?』
『レアじゃん……』
「んー?」
マドカがコメント欄を見る。
「欲しいの?」
『欲しい!!』
『めちゃくちゃ欲しい』
『30階層のデータなんて普通取れないぞ』
『エキドナショップで買えるようにして!』
「じゃあエキドナショップにデータコーナー作ろうか」
マドカはあっさり言った。
「私もういっぱいあるし、整理に困るんだよね」
『おおおおおお!!』
『新モンスターデータだ!!』
『買います!!』
『30階層のカード!?』
『絶対欲しい』
『いくら!?』
「値段はニコラに聞いて~」
「えぇ~? 私ぃ~?」
「だってニコラ詳しいじゃん」
「ん~……じゃあ適当に決めとくよぉ~」
『適当!?』
『頼むから適当に決めないでくれw』
『でも欲しい!』
リゼットが呆れたように三人を見る。
「……あなたたち、本当に何でも売り物にするわね」
「売れるならいいんじゃない?」
「そういう問題なのかしら……」
「別にデータ屋じゃないのにね~」
ニコラがカメラの横で笑う。
『エキドナショップ、何屋なんだよ』
『モンスター素材も売る』
『魔道具も売る』
『服も売る』
『モンバトのカードも売る』
『ダンジョン配信まで始める』
『もう何でも屋じゃん』
マドカがコメントを見て笑った。
「エキドナだからね」
『それで納得していいのか?』
情報塔の向こうでは、またコメントが流れていく。
休憩のはずだったが、いつの間にか新しい商売まで決まっていた。
『そういえば、今のダンジョンってこのままなんですか?』
コメントを眺めていたマドカが、ふと思い出したように口を開いた。
「そのうち国から正式に発表があるかもだけど~」
「ダンジョンの正常化が始まるみたいだよ~」
『正常化?』
『何それ』
『ダンジョンに異常があるってこと?』
「最難関ダンジョンの強さが、研究でレベル下がるみたいだよ~?」
「そうみたいだね」
リゼットも頷く。
「そのうち通常の冒険者なら、三十階まで行けるようになるって聞いたね」
『え?』
『30階まで?』
『今の最難関ダンジョンって30階どころか途中で死ぬだろ』
『どういうこと?』
「ただ、階層の仕様はそのまま」
リゼットが続ける。
「モンスターだけ弱くなるって話だね」
「ええ!」
マドカも端末を見ながら頷いた。
「今のレベルが異常なだけみたいよ!」
『……は?』
『ちょっと待て』
『じゃあ今のモンスターは?』
「今の流通してるカードは、そのまま!」
マドカが答える。
「新しく出てくるモンスターは、同じ十九階層でも弱いってことになるんだって!」
数秒。
コメント欄の流れが止まった。
次の瞬間――
『おい』
『マジかよ』
『ちょっと待って』
『現行モンスターが限定になるってこと?』
『19階層のカードでも今の個体は別物ってことだろ?』
『いやいやいや』
『最難関ダンジョンの現行カード、今のうちに買っといたほうがいいのでは?』
『エキドナショップ行けばあるんだよな?』
「あるよ~」
『買うわ』
『俺も』
『待て、これ価格どうなるんだ?』
『モンバトやってる奴、今すぐショップ確認しろ!』
『誰か在庫確認して!』
コメントの流れが、先ほどまでとは明らかに違っていた。
マドカはそれを眺めながら首を傾げる。
「なんか急にいっぱい来たね?」
「……」
リゼットがコメント欄を見る。
「マドカ」
「なに?」
「あなた、今かなり重要なことを言ったわよ」
「そう?」
「そうよ」
ニコラはカメラを回しながら、いつもの調子で呟いた。
「まぁ~、余ってるからいいんじゃない~?」
『余ってる!?』
『どれくらい!?』
『現行の最難関ダンジョンカードだぞ!?』
『在庫全部出してくれ!!』
『エキドナショップ行くぞ!!』
「ほらぁ~」
ニコラが笑う。
「また売れるねぇ~」
「そうだね」
マドカも笑った。
しかしコメント欄は、それどころではなかった。
『おい、マジかよ』
『今のうちに買えってことじゃん』
『ダンジョン正常化っていつからだ!?』
『国の正式発表まだなの!?』
『情報が早すぎるだろエキドナ!!』




